見出し画像

7日後に死ぬと決めていきてみた1日目

書き出しは、バスの中で考えてたけどずっと思い浮かばなかった。でも、7日後に死ぬと決めていきてみることにした。なんでこう思ったんだろう、今日の昼、オフィスのトイレで100日後に死ぬワニのことを考えていたからかな。去年の冬、今のパートナーに告白する直前にワニが失恋してすごい怖くなったことをふと思い出した。

嫌気はさしてた。たぶん、何も変われない自分に。都合の良い自分に。あと文字にしたらたぶん失われてしまうこの寂しさと、それに気づいてるカッコつけな自分に。

常田大希に憧れた。MIYAVIに憧れた。自分の正義を、自分の命題をその身一つで精一杯表現して、その身一つで世界を変えてる音に憧れた。自分だって考えつくのに、理想ならいくらだって描けるのに、それに踏み込めない自分に嫌気はさしてた。未だに理想と現実のあいだに寝っ転がる、どこからかやってきた境界線を持ち上げる力はないことを実感することに嫌気は指してた。中学生までは僕と一緒になって脳内で様々なスーパースターやダークヒーロになって笑ってたもうひとりの僕と、少しづつ少しづつ距離が離れていくことが怖かった。

よく、すべてリセットしたいと思うことがあった。調べてみたらリセット癖っていうらしい。途中でいなくなるのが好きだった。注目されたかっただけなんだと思うけどね。ふといなくなる、ふと今までの自分と違う自分になる。「あなた、前髪上げてるときと下げてるときでは全く別人みたいね。」って言われた時、最高に気持ちよかったな。「ポーカーフェイスだろっ」「何考えてるかわからないだろっ」って調子に乗ってた気がする。

だからリセットしてやろうと思った。死んでやろうと思った。最強のリセットだ。僕が唯一リセットできなかった人生というゲームをついにリセットする時が来たんだ。いつもリセットする時、それまで積み上げられた純朴な努力や信頼が崩れ去る瞬間に、後ろめたさよりもある種の快感を感じていた。自分の価値をそれで確認したかっただけだと思うけどね。それに加えて死っていうのはものすごい快感だなんて話もあるみたいじゃないか。ますます気になる、気分だけでも清々するのに物理的にも気持ちがいいだなんて。

だから、死んでやろうと思った。でも実際には死ねないと思った。そこまではわかった。でもなんでなんだろう。そこからはわからなかった。

だから、死ぬと決めていきて見てやろうと思った。別にいきいきなんてしたくなくてただリセットしたいっていうだけの自分と、心のどこかで夢見ているスーパスターの僕と、今の他者からの羨望を餌にして陽を精一杯受けるだけの僕の、三つ巴の戦争だい。カイオーガとグラードンとレックウザみたいだ。僕は全部好きだからどれが勝ってもいいんだ。任せて、だって僕はポーカーフェイスでいつでも別人にだってなれちゃうんだから。


1日目って言ってるけど、帰り道に決めたからもう夜だ。理由はなんにもないけど、でも僕がそうやって決めたから1日目なんだ。小さなお城の王様がそう叫んでたから、まぁそうしてみることにした。1日でも早く死にたがってるみたいだな。

一番最初に頭に現れたのは、メタ的に見える自分が死んだ姿だった。どうしようかなぁ。ダサいのは嫌だしな。でもどうせ尾崎豊とかみたいにかっこよくは死ねないんだ。こないだうちの近くの踏切で人身事故が起こったのを思い出した。生々しく線路についた血を、ブラシで一生懸命こすってた。お掃除がめんどくさそうだから、血が出る死に方はやめようとおもった。でもそしたら溺死か首吊か窒息しか出てこなくて、全部嫌だなぁ。大家さんごめん、お掃除頑張ってね。僕は今の家を意外と気に入ってるから、最期の場所はここって決めてるんだ。こいつにとっちゃ33年のうちの1年に過ぎないけどさ、僕は思い出深い場所の一つだと思ってるんだぜ。まぁなんかを致死量取ればいいや、いざとなったらペヤングペタマックス一人で食べれば塩分致死量は言ってるらしいし。そこまでは決まった。

また考えてみた。頭が行くのは死んだあとのことだなぁやっぱり。一番最初に発見するのは誰だろう。やっぱり彼女かな、毎晩電話してるし。それとも仕事仲間かな、でも先輩は僕のことをおっちょこちょいだと思ってるから寝坊だと思うだろうな。先輩の顔色が呆れ半分面白半分の顔から僕の心配半分仕事疲れ半分の顔に変色するには、1日はかかるな。たぶん彼女は忙しいから、彼女が僕の親友に連絡して親友が家に駆けつけるな。たぶん彼は冷静だから、見た瞬間は悲しみにはくれない。救急車と警察を呼んで彼女に連絡をして、気が利くから僕の携帯を使って僕の勤務先と僕の母親にまで連絡しそうだな。なんてったって気が利くやつだから。そうやって自分のやるべきことをひとしきり終わらせたあと、どこかで悲しみに暮れて泣くんだろうな。いつもの彼の部屋だろうな。あの無機質な部屋じゃなくて、どこかずっと人の温かみが一緒にある場所だといいな。

そうだ。もう一番ではないけど、一番に出てくるのは彼のことだ。親友の彼。今日内定をもらった彼。僕と同じビルに勤務することになった彼。気遣いやさんで自分が死ぬほど疲れちゃう彼。今週末一緒に旅行に行く予定の彼。リセットだから、何事もなかったかのように死にたい。だからたぶんこれが、僕の人生最期の楽しいイベントになるんだ。ちょっとずつ胸は熱くなるな、僕がいなくても君らしく生きるんだよ。だって内定もらったんだから。

てかこんなに思いを走らせてあまり彼女のことは出てこないんだな。何を彼女のことで悩んでるんだ、ばかばかし。あぐらをかいてたけど体育座りにした。


この世になにか残したいかどうか、まだわからない。どうせ何も達成できないんだからってちょっと思ってる。だから等身大で、飛び跳ねるように笑うんだろうな。できるだけ簡単に、頭を使わずに。だってほら、今こんなにも手が動くんだもん。どこかで承認欲求の断末魔も、聞こえなくはない気がした。

この部屋をこのまま残してくれたら、僕の感じることはすべて残る気がするな。終わってない洗い物も、飲みかけの水も、安らかな僕のスリムボディも。作品にするんだそれを。異世界みたいじゃない?一年経っても開かなかったウィスキーのボトルに触れたら、ラベルに写ってるキャプテンモルガンがもわもわって出てきそうだよね、アラジンみたいに。

現実と妄想がごっちゃになるのすげぇ面白いな。親友が駆けつけるのとキャプテンモルガンが出てくるの、今なら同じように感じちゃうよ。


今は02/25/2021。一週間後だから03/04/2021。母の誕生日の直前だ。異国で頑張る母が海の向こうで涙を枯らすのは、ちょっと嫌だな。今は考えたくない。でも、3/4までのどこかで、絶対僕も滔々と語るときが来るだろうな。いけね、滔々となんて。


今は、やっぱり身の回り整理したい。挿しっぱなしのドライヤーをしまいたい。洗い物は、嫌だけどやろう。ちょっとずつ人への依存から離れよう。憎悪も妬みも寂しさもすべて削ぎ落として、まるで生まれたてみたいにリセットするんだ。マシンとかクローンとかとは違う。無機質だけど自分らしくて、ありたいようなありたくないような自分に。これを終活って呼ぶのかな、この世では。


僕の昔から大好きな歌は、「不細工な体とか頭の先まで残さず君に愛されたならば」って歌う。今聞いてる最近好きな曲は「首から下だけでも愛してよ」って歌う。僕が変わったのかな。いいよ愛してくれなくて、どこも。どれもこれも、本当だから嫌になっちゃう。


どんな思い出が残るかな。残り少ないシャワーを浴びよう。

いいなと思ったら応援しよう!