ただ名前を覚えるのが早いってだけ

 一級建築士を取得するべく、総合資格に通っている。去年、挑戦したものの落ちてしまい、新卒の今年は2年目の挑戦となる。取得できれば会社からお祝い金が貰える予定だ。社会人2年目で取得してもお祝い金は貰えないあたり、「新卒のうちに受かってくれ」という会社側の圧を感じる。去年は就活との両立にヒーヒー言っていたが、今年は卒論が立ちはだかっている。学生といえど忙しい。スノボ行ったけど。

 大学受験の塾みたいな感じで、講師とは別にチューターさんがいる。チューターさんは受講生の点数管理や学習時間を集計し、一人一人の順位や合格可能性を教えてくれる。学習塾と違うのは、受講生に学生もいれば、おじさんもママさんもいる。私の担当のチューターさんは鈴木亮平似の体育会系で元気なお兄さんだ。自分より年上の人にも「宿題ちゃんとやってくださいよ」と伝えるこの仕事を、なんで選んだのだろう。

 要は一年目に受からず、私は大学受験を加えた人生二度目の浪人生な訳だが、たまたま昨年と同じチューターさんが担当だった。顔馴染みなのもあるが、1年目に結構親身になってくれたので心強い。私が遅刻して教室に入りづらそうにしていたところをアシストしてくれたり、勉強時間が多く取れた週にも、就活で時間の取れない週にも叱咤激励のコメントをくれた。データ集計や資料作りに忙しいのに、受講生一人一人と向き合うマメな人だ。そんな彼が急に、異動を告げられたらしい。

 私は先生や先輩に相談をするのが苦手だ。「自分なんかに構ってくれないだろう」と思ってしまい、極力人に聞かないようにしている。「自分で調べろよ」と思われるのが怖い。「こんだけ人が居たら自分のことなんて覚えてないだろう」といつも通り諦める私に対して、チューターの彼は人の名前を覚えるのが早かった。1年前に伝えた就職先も今日まで覚えてくれていた。
「社会人になるとまた忙しくなりますが、そこなら結構取得してる先輩も多いですよ」
私という情報を覚えていてくれた。たったそれだけの事だが、私にとっては数少ない"信頼できる大人"だったのだと、異動の今日気が付いた。

 帰り際に「今年こそ良い結果をお伝えできるように頑張ります」と挨拶しておいた。異動ってのは急に通告されるんだなぁと、まだ未知なる社会人生活を教わった感じだ。合格を伝えたい人が1人増えた。

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