「宙の猫島」 第11話 緑の妖精と女王のコート
七匹の猫は、森の中にあらわれた雲の家に近づいて、しげしげと眺めていいました。
「この雲でできた家は、たしかに夢のなかでつくった家だ」
「不思議なこともあるものだ」
「家のなかに入ってみよう」
物怖じしないキキが、そっと玄関のドアノブを回しました。雲でできたドアはゆっくりと開きました。
すると部屋の真ん中に、緑色の小さな何かがうずくまっていました。
「困った、困った。どうしよう」
緑色の何かから声がしました。よく見ると、猫たちの両手に乗るぐらいの小さな妖精でした。
「この島にこんな妖精なんていたかな」
新しいものが好きで、普段から島じゅうを見てまわっているルルも、初めて見る妖精でした。
「困った、困った、どうしよう。女王様のコートをなくしてしまった」
緑色の妖精はそういうと、何もない白い部屋のなかを、ぐるぐる歩きまわりながら、泣きわめいています。
「ねえ、泣いてばかりいても何もわからないよ。女王様って誰なの?」
妖精の様子を見かねたモモがいいました。
「妖精さんはどこから来たの?」
「なくしたコートはどんなかたちをしていたの?」
モモが優しく聞いても、緑色の妖精は同じことをいいながら、泣くばかりです。
「困った、困った、どうしよう。女王様のコートをなくしてしまった」
「これじゃ、らちがあかない。ひとまず家に連れて行って、くわしいことを聞こう」
しっかり者のロロがいいました。
猫たちは雲の家のなかを走り回る妖精をつかまえて、丘の上にある猫たちの家に連れて行きました。
モモは温かいお茶を淹れ、料理が得意なリリがつくったりんごのケーキを小さく切って、妖精をもてなすことにしました。
妖精はケーキをもぐもぐ食べてお茶を飲むと、ふうと一息つきました。
「妖精さん、一体何があったの?」
リリがそう聞きました。
すると妖精は、我にかえったように、部屋のなかを見回しました。
「困った、困った、どうしよう。女王様のコートをなくしてしまった。何が何でも女王様に返さなければ」
妖精はそういうと、猫たちの部屋のなかを走り回り、引き出しや戸棚を開けて女王様のコートを探しはじめました。すごい速さであちこちの物入れを開けては、中の物を出していくので、部屋は足の踏み場がないくらい、物が散らかりました。
「女王様なんて知らないよ。わたしたちの家にそんなコートがあるわけないでしょ」
いつだって冷静なミミが忙しく動く妖精にそういいました。
しかし妖精はかまうことなく、コートを探しつづけました。これ以上、ほうっておくと部屋がめちゃくちゃになるので、猫たちは妖精をつかまえることにしました。ところが、妖精は小さくて素早いので追いかけてもつかまりません。
猫たちはあきらめてベッドが置いてある寝室に逃げこみました。
「とんでもない妖精を連れてきてしまった」
キキがいいました。
七匹の猫たちは、荒らされた部屋の様子が気になって、まったく眠れませんでした。
次の日、お日さまが顔を出す前に起き出すと、おそるおそる寝室から出てみました。
荒らされた部屋はそのままでしたが、緑色の妖精は家じゅう探しても見当たりません。よく見ると、玄関の扉が開いていました。玄関からは外の冷たい空気が吹き込んでいました。
「大変だ。こんなに寒いのに外に出て行ったようだ」
心配性のココがそういいました。
猫たちは、急いでおそろいの赤いマントを着込むと、外に出ました。外は吹雪いていました。吹雪はまるで猫たちを案内するかのように、森のなかに向かって吹いていました。猫たちが吹雪が吹くほうへ森を歩くと泉が見えてきました。
泉は厚い氷で覆われていました。泉まで来ると吹雪はおさまり、氷の上には、キラキラと光る銀色の雪の粉が、まるで布のようにはためいていました。
氷の上では、あの緑色の妖精が小躍りしていました。
「あった、あった、女王様のコートが見つかった。女王様、すぐ来てください」
すると、ビューッと大風が吹いて、どこからともなく白い女王があらわれました。
「ようやく見つかったのね。あなたが勝手に持ち出したものだから、コートは飛んでいってしまったのよ。困った子ね」
女王はそういうと、小さな緑の妖精をつまんで、ドレスのポケットに入れました。
「だって、一度でいいから女王様の素敵なコートを着てみたかったのだもの」
妖精はいいました。
「そんなことをしてはいけません」
女王はそういうと、銀色のコートをふわりと羽織りました。すると、あたり一面、ふわりふわりと白い雪が降りはじめました。
女王は七匹の猫たちを見て、いいました。
「猫さんたち、この子のせいで、ずいぶんとご迷惑をおかけしました。でもこの島でコートが見つかって助かりました。お詫びとお礼に、これをお持ちください」
女王は、猫たちひとりひとりに、白い玉を手渡しました。
「心が落ち着かないときには、この雪の玉が力になります。この玉は、熱くなりすぎた心を溶かしてくれます。きっと何かの役に立つでしょう」
猫たちが玉を受けとると、緑の妖精と白い女王は、跡形もなく消えてしまいました。
猫島の森に、しんしんと白い雪が降り積もっていきました。
第10話 4枚めの挿絵のメイキング映像
宙の猫島は鉛筆とボールペンで下描きを描いてパソコンで色付けをします。
絵画作品はこの下描きに実際に水彩絵の具で色付けをしていきます。
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