羊をめぐる冒険、ふたたび
学生の一人がよく本を借りていく。ある時、「時間ができたら『羊をめぐる冒険』を読み直すつもりです、貸してくださいね」と言う。急に私も読み直したくなった。
わけがわからない状況が起こり、振り回されていく主人公。聞き慣れた言い回しが続くが、ストーリーは完全に忘れている。引き込まれていく。
別のクラスの学生が「羊の冒険」って、読んだことがありますか、と聞く。ううん、それは知らない、「羊をめぐる冒険』なら今読んでるけど、と文庫本の表紙を見せると、それだと言う。父親に勧められて読み始めたがおもしろくないという。私がおもしろがっているのを見て、偶然を運命だと喜び、諦めないで読んでみますと言う。
私はといえば、初めてのように楽しめた。この主人公は、去っていく人は無理して追わないが、出会った人を密かに大事に思っている人のようだ。とても丁寧な暮らし方をする人ではないが、やろうと思えば、それもできる。それは鼠の丁寧な暮らし方を敬意を持って見ていたからだ。することが何もない時間だけがあるような生活も、本を読んだり歩き回ったり、料理をしたりしておかしくならずに過ごすことができる。
これが三部作の三部目だと聞いて、前二作も読んでみることにした。
私は新しい本がなくても生きていけそうだ。学生と同じ本を読んでも、新しい発見もあるし、新しい本のように楽しむことができる。
パステル画は、冬にSと伊豆に行った時の船の上からのカモメ