欲にまみれた少子化対策/幼い老人だらけの国
この国の問題だった少子化は解消に向かいつつある。
出生率が目に見えて増加したのだ。
カネをばらまいたのか?
人々が危機感を持ったのか?
確かに危機感を持った人たちはいた。
しかし本当に困るのはもう少し先の未来だ。
少子化による社会福祉の崩壊はたしかに問題だったが、そのために子作りをしようという人はいなかった。
それよりも自分の身を守るだけで精一杯な状況が逼迫し、より出産への意欲を抑制させた。
金も撒いた。
ただしもうばら撒くほどの余裕がなく、雀の涙ほどだ。
老人を養うのには湯水のごとく使うが、子供に使うカネは渋るしか無い。
なにせもう大半の国民が老人に足を突っ込んでいるのだ。
そりゃ自分にカネを使わせる。
そんな状態でなんで出生率が上がったのか?
子供を産む人が増えたのか。
答えは当然と言えば当然。
メリットを与えたんだ。
子ども手当とか、そんなものじゃない。
密かに、国はそれを解禁して、流布した。
なにせ金持ち、富裕層で特に出生率が顕著になったんだ。
それもだいたいが男子女子の二子。
いまは医療技術が進歩して、産み分けも用意になった。
人工授精も精度が上がり、公表はできないがクローンだってもう実現している。
金があれば自分のコピーを確実に残せるようになったとも言える。
でも、そんなことで子供を作ろうと思うと思うかい?
もっと俗物的な欲が必要だった。
最近、聡い子が増えたような気がしないか?
大人びた。
いや、年を食ったような、
人生何周目なんだっていうような子どもたち。
幼少期から才覚を表す人も増えている。
親が若くして自分のビジネスを託すこともよく耳にしないか?
あれがもしも、本当に何周目かだとしたら?
別にオカルトじゃないさ。
人間、金を持つと失うのが怖くなる。死ぬのが怖くなる。
もっと生きたい。生き続けたい。
純粋で、どうしようもない欲だ。
だったら若返ればいい。人生をやり直せばいい。
そのためだったらカネを惜しまない輩どもさ。
そして、それが子供の身体を奪うことだとしても。
いや、奴らにはその罪悪感さえないだろう。
なんせそのために生み、育てるんだ。
国が秘密裏に解禁したのは”人体間脳移植”。
自分の脳みそを、他人の身体に移すこと。
他人だったら免疫の拒絶反応や諸々の障害があるが、クローンだったら問題ない。
脳が入る身体に成長してくれればいい。
倫理的に問題だろう。
だれもが口をつむぐ。
でも、恐怖は抑えられない。
欲望は止まらない。
もっと時が進めば安価に、容易に、安易に行われるようになるだろう。
公然の秘密となるだろう。
もっと多くの人がそれを望むだろう。
もっと多くの人がそれを実行するだろう。
そう。そして、この国は少子化を解決する。
老人だらけなのは変わらないけどね。