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台湾・初の散髪
日が暮れかけていた。
午後6時過ぎ、訪れた理髪店の入り口はガラス張りだった。
中を覗いてみると、奥のソファでおばさんがテレビの方を向きながら寝ていた。
「請問…(すみません)」と声をかけてみても起きる気配はなかった。
その日は諦めて店を後にした。
翌日、今度は6時前に向かった。
ガラス張りの入り口からまた中を覗いてみる。
昨日と同じ姿勢でソファに深く座っていた。
今日も寝ている?と思ったがよく見ると今日は目があいている!
「請問,剪髮可以嗎?(カットできますか?)」と聞いてみるとハッと覚めて「可以,可以!請進!(いいよ、入って)」と立ち上がった。
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「坐吧!」と言われ日本の美容室とも理髪店とも違う形の椅子に腰掛ける。
マジックテープではないケープをかけられ、ちょっと苦しいくらいで首元のリボンをきゅっと結われる。
「襟足と揉み上げが鬱陶しい、短い髪型が好きだけどあとはお任せでお願いします」とジェスチャーとカタコトの中国語で伝える。
おばちゃんはまず最初にバリカンを取り出して勢いよくザッザッと襟足と揉み上げを剃り始めた。
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なんと思い切りがいいんだろう!
これまで、坊主にする時以外はいきなりバリカンで剃られることはなかった。これは台湾の理髪店のやり方なのか、おばちゃん独自のやり方なのかはまだ定かではない。
これでかっこいい仕上がりになってもヘンテコな髪型になってもどっちも面白そうだしいいや〜、というポジティブ発想が浮かぶくらいには少しだけ不安になった。
前髪のラインまで綺麗にバリカンで揃えられ、まるで初期のビートルズのようなマッシュルームヘアーになった後にようやくハサミが登場した。
私は普段眼鏡をかけていて髪を切る時は外すので、切られている様子ははっきりとはわからない。けれど軽快なハサミの音と手つきから、もしかしてめちゃくちゃ上手いのでは?!という期待が高まっていく。
一旦切り終えて今度はシャンプー台へ。シャンプー台もなんだか日本のものと違って、後頭部の部分がすごく滑らかだった。気をつけないと首に水が入ってきそうな作りだけどなだらかな傾斜はとてもいい。
おばちゃんの手つきは豪快だった。「わしゃわしゃ」という擬音がこれほど似合うことはないというくらい力強く洗われていく。しかも爪を立てているのかちょっとだけ痛かった。
豪快なシャンプーでスッキリした後は仕上げへ。
「好了(できたよ)」と言いながら鏡を見せてきたおばちゃんの得意げな笑顔がとても印象的だった。
眼鏡をかけて鏡を見てみると、お見事すぎるベリーショートが出来上がっていた。
「わあ!!めっちゃ綺麗!!!すごいです!!!」と心からの声が出た。おばちゃんは得意げにニコニコしていた。
私が外国人だからなのか、元々おばちゃんは無口なのか、それまでほとんど会話を交わさなかったけど「理容師はどのくらいされてるんですか?」と聞いてみた。
「どれくらいだと思う?もう私はあなたみたいな若い人ではなくておばさんだからね〜!多分あなたと同じくらいの歳から始めたから、そうね〜、大体50年くらいになるかな」と答えてくれた。
50年………なんということだ。
おばちゃんの若々しい姿からその年数は想像できなかったが、大大大ベテランの理美容師さんがつくるカットの素晴らしさには納得でしかなかった。
お会計はなんとカットとシャンプーで400元(今の日本円だと2,300円くらい)。
そうして「謝謝」と店を後にし、襟足に当たる台湾の湿った秋の雨風がとても心地よかった。
ああ、さっぱりした!
やっぱり床屋に行って一番に思うのは「さっぱりした」だ。
お店の情緒と歴史と、この「さっぱり」を体感したくて私はまた床屋へ足を踏み入れたのだろうと思う。
そうして台湾に来て初めて散髪した私は、すっかり夜の色に染まった台北の街へ紛れていった。
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