見出し画像

オヤジの乳首と寿司湯呑み

あらすじ

受験勉強中の私の部屋にお茶を持ってきた父。湯呑みに書かれた魚編の漢字を、どちらがより読めるか勝負を持ちかけてきた。勝負の最中、父は突然シャツを捲り上げると、その胸には黒いインクで「魚」という文字が書いてあった…

「じゃあ、これは?」

父の顔は脱ぎかけのTシャツで見えなかった。

「なんて読むでしょう?」

正直に"さかな"と答えて良いものか考えていると、父は言った。

「ヒント!一文字目は"ち"で〜す。」

そうだった、数秒前まで、魚編の漢字の読みを答える流れだった。

「魚」は部首でしかないのだ。

しかし私には、「魚」の右横にあるものが、乳首にしか見えなかった。

「ヒント!二文字目は"く"で〜す。」

じゃあ"ちくび"じゃないか。

やはり父が「魚」の横に付けているのは乳首だ。

いや、それとも私の目と耳がおかしくなっているのか?

そういえばまだ一答もしていないのに、ヒントが2個も出ていないか?

それはどういうつもりなんだ?

落ち着こうと湯呑みに口をつけたが、お茶は冷め切っていた。

すると

「正解は、"ちくわ"でした〜。」

顔を上げると、そこには見慣れた父の顔があった。

「魚編に◎で"ちくわ"って読むんだってな。さっきテレビでやってたよ。まあ正確には漢字じゃなくて造語らしいけど。」

あっけに取られている私をよそに、父はそんなことを早口で喋っていた。

「乳首かと思っただろ!?」父が笑っている。

「いや乳首ではあっただろ!あとオヤジの乳首、自分で思ってるほど綺麗な二重丸じゃないよ!」そう言って私も笑った。


いいなと思ったら応援しよう!