法学教室2020年4月No.475(3)
ここんところ,お風呂にスマホを持ち込んで,スマホでキンドルの法学教室を読むというのが習慣になってきている。
キンドル版法学教室はマーカーやハイライトができないので使い勝手が悪い。その上,定期購読の割引を受けられないようだから,紙の雑誌を買おうと思っているんだが,そうなると,この習慣をどうしようかという問題が……どうしたものか。
演習 刑法
今年度は齋藤先生が担当。
事例は,Aが自分の子Vに対して,第1暴行(Vの背中を二度叩いてテーブルの縁に腹部を打ち付けた)+第2暴行(Vがえずいたり吐いたりするのでVの腹部を圧迫した)を加えてVを死亡させたが,第1暴行と死亡との間に因果関係が認められるか?というもの。
解説では橋爪先生の連載に言及されていたし,今後マストな文献になるんだろうなという感じ。
今となっては,今回の暴行が一連の行為ではないことは感覚的に分かる(この感覚がいわゆるリーガルマインドってやつか…)が,受験生時代はここでつまずいていた。
第1暴行は虐待,第2暴行は吐くのを手伝うためという感じだから行為の意思の面において断絶が認められるから一連性はなしということにでもなるのかな。
一連の行為として認められない場合には,第2暴行を介在事情として第1暴行⇒第2暴行⇒死亡の因果関係が認められるかを検討する流れとなる。
行為後に介在事情がある場合には,介在事情の通常性の有無が問題になる場合がある。その分水嶺は,直接実現型と間接実現型のいずれにあたるかというところにある。
直接実現型:介在事情がなかった場合に発生したであろう結果と実際に発生した結果との間に実質的な相違がないといえる事例(たとえば,大阪南港事件)⇒通常性の有無は問題とならず
間接実現型:被告人の行為による影響と介在事情の影響とが相まって結果が発生した事例(たとえば,首絞めて死んだと思って死体をうめたところ実は生きていたが,砂末を吸引して窒息した事件)⇒通常性の有無が問題になる
今回の事例は,後者の間接実現型であることから,介在事情の通常性が認められるかという問題設定になる。通常性が肯定された事例としては,トランクにVを監禁したところ後続車がつっこんできてVが死亡した事例があげられるようだが……そこにどう近づけるか,あるいは,遠ざけるかという感じになるか。
あの判例のポイントは,
トランクは人の安全が確保されない空間だが,そこに監禁したこと(行為自体の危険性)
交通事故というのはいつでも起こりうるものであって,追突事故は異常な事態ではないこと(介在事情の異常性)
にあると思う。
難しいのは,行為自体の危険性と介在事情の異常性がリンクしているから,行為自体の危険性をどう把握するかで結論が結構かわることだろう。
今回の事例関していえば,介在事情の異常性を低くする事情は存在する。すなわち,「第1暴行は虐待として行われた,虐待はくりかえして行われるものである,第2暴行についても名ばかりの介助行為であって実質は虐待だ,したがって,第2暴行も通常のものである」とはいいうるだろう。
しかし,トランク監禁致死事件とは違う気がするんだよな。感覚的に。
なお,今回の事例のモデルとなった東京高判29・9・26は,第一行為と死亡との間の因果関係を否定したらしい。
演習 刑事訴訟法
今年度は洲見先生が担当。
今月号はアパートの共用部分に立ち入ったこと,ドアの隙間から居室内を見渡すことの強制処分該当性が問題。
近年の傾向として「重要な権利・利益にあたるかというメルクマールとして,憲法の条文にあたるかを検討する」という考えがあると思うが,それに則った解説だと思う。
憲法35条は今日,条文に明記された「住居,書類及び所持品」に関する財産権だけでなく,プライバシー等をも保護するものと解釈されている。大法廷判決も,「〔同条〕の保証対象には,『住居,書類及び所持品』に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれる」としており,「個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間」を指す私的領域に係るプライバシーの侵害(非物理的なものを含む)に同条が適用されるとするものと見られている
「準ずる私的領域」がどこまでかというの解釈論の問題になっているが,プライバシーってそもそも保護する趣旨がはっきりしていない分野だから明確に定義するのは難しいだろう。
憲法なんかだと,「私的な情報を特定人と共有することは人との仲を育むものだから保護されなければならない」みたいな話があったと思うが,刑訴でそういう本質論が展開されている場面はあまりない。
今回の解説を読んだ感じだと,「住居」がコアな私的領域であって,「住居」としての性質をどこまで認められるかという話になっている気がする。
本件アパートの共用部分には,台所やトイレ,風呂等があるなどの本件アパートの構造・利用形態の特殊性に着目することが重要である。本件アパートの共用部分は,通常のマンション等の場合と異なり,「住人の居住スペースの延長で,住居に準ずる私的領域としての性質を有する空間」であると解される。
今号の刑法,刑事訴訟法の演習はおもしろく,また,解説もよかった。