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2023年のベスト・アルバム10枚

ジェフ・ベック(1月10日)、高橋幸宏(1月11日)、トム・ヴァーレイン(1月28日)、鮎川誠(1月29日)、バート・バカラック(2月8日)、岡田徹(2月14日)、坂本龍一(3月28日)、マーク・スチュワート(4月21日)、アストラッド・ジルベルト(6月5日)、PANTA(7月7日)、ロビー・ロバートソン(8月9日)、チバユウスケ(11月26日)、シェイン・マガウアン(11月30日)、、、
好きで思い入れあるミュージシャンだけ抜き出してみたけど、他にあの人もこの人も。どうなってんだよ2023年、どうなってんだよ地球。こんなこと許さるわけねえだろう。相も変わらずキナ臭くろくでもない地上に、夢と希望と愛と勇気をもたらせてくれた人たちからいなくなってどうすんだ、どうかしてんぜ地球の野郎は。温暖化でイカレちまったのかね、まったく。

でもただただ悲しいだけの2023年じゃないんだぜ、と、地上最長史上最強のロックンロールバンドがニューアルバムを投下。まずはその話からはじめようか。

【01】The Rolling Stones / Hackney Diamonds
【02】Janelle Monáe / The Age of Pleasure
【03】Nondi_ / Flood City Trax
【04】RAYE / My 21st Century Blues
【05】Kara Jackson / Why Does The Earth Give Us People To Love?
【06】CRAZY KEN BAND / 世界
【07】Don Letts / Outta Sync
【08】Speaker Music / Techxodus
【09】NORIKIYO / 犯行声明
【10】Frank Dupree / 'Kapustin: Concertos With Piano' Capriccio C5495 (2022)

【01】The Rolling Stones / Hackney Diamonds

おそらく私はストーンズの新譜が出たら、それがどんな内容でも推しただろうし聴き倒しただろうけど、それにしても傑作で名盤だったことに、まずは安堵しているというのが本音。

そして本アルバムをはじめて聴いた時の私の感想は以下のツリーで。

傑作なのは確定として、人によって『女たち』(78年)以来とか『刺青の男』(81年)以来とか意見あるけど、私は『ヴードゥー・ラウンジ』(94年)のアップデート版という印象。ストーンズがストーンズらしいサウンドを自ら再現した感じが共通してて、それでいて90年代のCD容量限界チャレンジみたいな曲数詰め込みや煮詰まってない曲の採用とか(「Mean Disposition」最高で愛してるけど)そういう「雑味」を排してシェイプアップしたみたいな。アンドリュー・ワットの手腕なんですかね、最高です。
あと、ストーンズらしからぬ(??)、サビメロがハッキリしていてそこが盛り上がるタイプのロックソング(パワーポップみ?)みたいな曲が多いことも指摘されてたりするけど、すでに2002年の「Don't Stop」がそういうタイプの曲だし、それは01年のミックソロ『Goddess In The Doorway』からのフィードバックもあるかもだし、というかそもそもミックとキースによるソングライティングチームの初作は「テル・ミー」ですからね(GS勢がめちゃめちゃコピーしてたとか)、そこの部分を省略して(?)次々と代表曲(にしてロック定番曲)を連発していた時期がむしろ特別で、際立ったサビメロ作るのは最初から得意だったという見方もできると思う。

あと小6の甥っ子がムロツヨシのドラマ観てて、主題歌の「Angry」で歌い踊ってるという話を聞いて、余は満足じゃ。ちなみにその母な妹に「ストーンズの新曲だしね」と言ったら「え?新曲??マジで」と言ってた。重ねて満足。

ともかくこんなにもミュージシャンの訃報続きの年に(鮎川誠にも高橋幸宏にも聴かせたかったな、はあ)、私の中の、というかロック界のレジェンドofレジェンドのこんなに元気で素晴らしい新譜が届いたというそのことだけで、悪いだけじゃねえじゃん2023年、という気持ちになっております。

【02】Janelle Monáe / The Age of Pleasure

"世界最強のフェミニスト"ジャネール・モネイの新譜。5年ぶり待望の新作アルバムはビートを強調された短いトラックがシームレスに並ぶミックステープ風。ただし短いとはいえ各曲はシェウン・クティらのゲストも交えて本格的な仕上がりに。本格的といえばレゲエトラックである「Only Have Eyes 42」は93年のフレディ・マクレガー「I Was Born a Winner」と同リディムを使用。

そしてこの曲自体も67年のデリック・ハリオット「The Loser」のリメイクトラックであり、こうして同じリディムをリメイクしながら使い回すレゲエ・マナーにのっとっている辺りは、さすがモネイだなあと、あらためて感心しきり。音楽に対して真摯なんだよね、いつも。だから、このミックステープ的なアルバムの作りもサブスク時代にアルバムを丸ごと聴かせるための工夫なことがよくわかる。アルバムはいつだって大事なのだ。

【03】Nondi_ / Flood City Trax

ベッドルーム・クラブ・ミュージック。現場を持たないダンス・ミュージック。言ってしまえばそれだけだけど、これがめちゃめちゃ刺激的に響くのだ、脳内に。私はヴェイパーウェイヴとかそっち方面はからっきしなもので、こういうベッドルーム・クラブ・ミュージックがどこから来てどのくらい流行っているのかとかよく知らない。知らないけれども、このノンディのサウンドはビビッときました。なんというかアフターコロナの音楽に聴こえるなとか、思う。

【04】RAYE / My 21st Century Blues

いろいろと苦労人なUK女性SSWの作品とのことで、それも踏まえると、タイトルの「私の21世紀ブルース」が聴く度にしっくりくるというかかっこよく思える。「The Thrill Is Gone.」なんて大胆不敵な曲名もありつつ、音楽的には狭義のブルースではないのだけれども、でもこれが21世紀のブルースなのかなと思わせるものはある。
またモネイのアルバムがミックテープ風なのに対して、MCによる紹介からはじまるこちらはライブショー仕立て。やはりアルバムを丸ごと聴かせるための工夫が必要な時代なのだな。

【05】Kara Jackson / Why Does The Earth Give Us People To Love?

そういう意味ではこちらの方が、ギターで弾き語るスタイルという部分が、よりブルースに近いかもしれないな、と、ふと。今年はこの4作だけでなく女性アーティストの充実作、話題作、良作がたくさんリリースされ、私も他に Me'Shell NdegéocelloNonameMadison McFerrinCorinne Bailey RaeK. MichelleMaetaYazmin LaceySZA など愛聴しました。まあ、"女性ならでは"なんてのはもう死語だし、実際にこれらのアーティストのサウンドを包括する必要も無いのだろう。彼女たちの活躍に必然はあるかもしれないしないのかもしれない。でも、今ここ、で鳴らされる音楽がポップ・ミュージックなのだとしたら、今は女性アーティストがポップ・ミュージックの"ど真ん中"なんだろうな、とは思ってる。

【06】CRAZY KEN BAND / 世界

結成以来のメンバーであるドラムの廣石恵一(60代)が白川玄大(30代)に替わりバンドの平均年齢が下がった「シン・クレイジーケンバンド」によるフレッシュなニュー・アルバム。辛抱たまらん!といった感じで転がりだす高橋利光の弾けるようなピアノ演奏からスタートする「宇宙ダイバー」はCKBには珍しい(!?)直球の8ビート・ナンバー。その軽快なスピード感は最後まで維持され、23枚目にして若さ爆発、横山剣が言うところの「生涯現役」感をいかんなく発揮していて、滋養強壮に効果絶大。
そしてラストナンバーであり先行配信曲の「観光」。

特に歌詞のこのキラーフレーズ「宇宙の銀河の惑星の/世界の何処かの空と海/こんな行き当たりばったりの人生の観光(たび)は続くのだ」。おお、人生は観光だ、確かに!!
この唯一無二の世界観と初めて聴いたのに懐かしいサウンドデザインに完全にヤられました。

【07】Don Letts / Outta Sync

なぜかリリースが発表されてから音源が公開されるまで時間がかかって...何か業界的なアレなんだとは思うけど、でも俺は待ってたぜ。
ドン・レッツといえばビッグ・オーディオ・ダイナマイト。いやそれ以前からUKパンク~レゲエの最重要人物の1人か。映像作家でDJでミュージシャン。私の憧れの方です。
そんなドン・レッツが67才にして初ソロ・アルバムを出すってんだから、そりゃあ待ちますよー。で、図らずも満を持して登場した内容も、かっこいいー。いや、かっこいいと言っても「ロー・ライダー」のあのフレーズがのほほんと挿入される1曲目から、肩の力がほどよく抜けたいい塩梅のロック+レゲエ・サウンドなんですけどね。でもこれがいいんです。そりゃ青筋立ててガナるパンク・チューンだって未だに燃えますけれども、それだけでは胃もたれする年頃なのもまた事実。なのでね、ホントにまさに今の私にちょうどいいサウンド。
ちなみに客演の中の1人、ホリー・クックはピストルズのドラマーのポール・クックを父に、カルチャー・クラブのバックヴォーカルだったジェニを母に持つ、UKシーンの申し子みたいな素晴らしいレゲエ歌手。昨年の『Happy Hour』は最高のラヴァーズ・ロック盤だったし、今年はそのダブ盤『Happy Hour In Dub』もリリース。もちろんこちらも最高に和むナイスなアルバム!

【08】Speaker Music / Techxodus

黒人音楽史-奇想の宇宙』後藤護 というなんとも曰く形容しがたい本を読んだが、本作はそこに出てくるブルースやアイラーやサン・ラーやPファンクやヒップホップに連なる音楽、ということになるのだろうか。
ジャズとテクノの融合というのは既に数多の先人によって何度も試みられているが、ここでまたそれが更新されている。
私はなかなかに奥深いスピーカー・ミュージックことディフォレスト・ブラウン・ジュニアの活動 をまったく追えてはいないので、そこに関して何かを書くことはできません。でも実際の活動を追えていなくても、聴くだけでさまざまな妄想や連想や空想が浮かびどこか知ってるような知らないような宇宙にトリップする。

【09】NORIKIYO / 犯行声明

まずはこちら を読んでいただくとして。
今年の日本語ラップ最高の問題作というか話題作。ヒップホップがそれまでのポップ・ミュージック以上に「言いたいことを言う」が重視されるアートフォームということでいえば、本作は完全無欠のヒップホップ。

1枚丸ごとワン・テーマ(それも自身の逮捕・拘留・裁判)で語り倒したコンセプト・アルバムでもあり、CDにキチンと全曲の歌詞カードが付いていたのにも驚かされたけど、それ以上に本作を名作たらしめているのが全曲のトラックを手掛けたBACHLOGICのその手腕。記者会見を再現した(!)スキットを含む全17曲をまるで1本の映画を観るかのようにまとめ上げた。主演・脚本NORIKIYO、監督・編集BACHLOGIC。ただただ刺激的な挑戦的なトピックを採用すれば優れたヒップホップになるなんて簡単なもんじゃない。それにこいつは思い切りアートだ。

【10】Frank Dupree / 'Kapustin: Concertos With Piano' Capriccio C5495 (2022)

クラシック門外漢の私がカプースチンを知ったのは何年か前の阿佐ヶ谷の音楽酒場。そこに来ていた他のお客さんが好きな音楽としてリクエストしたのが『8つの演奏会用エチュード』。

これはもう1発で気に入った! 聞けばジャズの影響も強いピアニスト・作曲家とのことで、超絶技巧でも知られるが、私の耳にはザッパなどのプログレッシブなロックとかBPM速めのクラブ・ミュージックのように響く。クラシックの文脈が自分の中に無いことが逆に素直におもしろがれる部分もあるのかもしれなく、こういうときは不勉強を誇る気にもなる。
今年はそのカプースチンをドイツのピアニスト、フランク・デュプリーが演奏したアルバムを、ツイッターきっかけ(この記事へのリンクだったかな)で聴いてみて、これもまた1発で気に入った!!
こうしてまた無節操系雑食派リスナーの乱聴は続くが、そんなの別にこれでいいのだ、自分さえ楽しければ。

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