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21世紀の名盤2001-2022 -(1)

【01】Vincent Gallo / When (01)
【02】David Sylvian / Blemish (03)
【03】Daniel Lanois / Belladonna (05)
【04】Kanye West / 808s & Heartbreak (08)
【05】James Blake / James Blake (11)

1996年のムーンライダーズ『Bizarre Music For You』に収録されている「愛はただ乱調にある」で、鈴木慶一は「次の世紀には今よりも静かな音楽が流行って欲しい」と歌った。それを聴きながら私は「静かな音楽」ってどんなのかなあとボンヤリ思い世紀末の数年を過ごした。
そして迎えた21世紀。「おお、これが静かな音楽か!」と最初に感じたのはヴィンセント・ギャロ『When』(01年)だった。映画のサントラ的でもあるしシンガーソングライター的でもあるし当時話題だったポストロックの感じもしなくもないが、でもどれもしっくりこない。誰が言ったか「音響の時代」に相応しいアルバムといったところか。極めて個人的で同時に普遍性も備えたこの感じは10年後に登場するジェイムス・ブレイクへと繋がっているようだ。

ギャロとブレイクの間には、デヴィッド・シルヴィアン『Blemish』(03年)、ダニエル・ラノワ『Belladonna』(05年)、そしてカニエ・ウェスト『808s & Heartbreak』(08年)辺りが挟まると良い並びになる気がする。いわゆるジャンルや音楽性はバラバラだが(そして知名度やセールスもバラバラだ)、ひとまずこの5枚に「21世紀の静かな音楽」というラベルを貼っておこう。

そしてフランク・オーシャンやライが登場し、「静かな音楽」は21世紀の2つ目のディケイドでトレンドとなる。もちろんその間も今もEDMの乱痴気騒ぎとはずっと並走しているのだが、アッパーな4つ打ちビートとアンビエントなチル・サウンドはコインの裏表、夜と朝、アバターとリアル等々と同様に一つの物事の別の側面なのだから、それが一つの世界なのである。
カニエの『808s~』がヒップホップというジャンルの異端として出現してその後のシーンにかなり射程の長い影響力を持っているように、フランク・オーシャンの2枚のアルバムはR&Bというジャンルの可能性を拡大させたと言えると思う。『808s~』はカニエのキャリアの中でも決して最高傑作や代表作ではないというところがとても興味深く(だから『808s~』贔屓である私はカニエ・ウェストというアーティストのファンではないのかもしれない)、一方でフランク・オーシャンはアルバムのサウンドそのものが作風であり人格であるといった印象を受けるといった違いがあるのもおもしろい。さてここにドレイクを並べるべきか、そもそもキッド・カディは要らないのかみたいなこともアタマをよぎるが、ま、いっか。あとライは例の告発以降、聴く気になれないのでここには選ばない。Rケリーもそうなのだが、別に「問題」があったすべてのアーティストの曲が聴けないというほど潔癖ではないのだけれど、やはり「生理的にムリ」になるものもある。ひとまずは個人的な感覚として処理しておいて、「キャンセルカルチャー」云々はまた別に考えることにする。

【06】Frank Ocean / channel ORANGE (12)
【07】J Dilla / Donuts (06)
【08】Neil Young / Le Noise (10)
【09】H.E.R. / H.E.R. (17)
【10】Khruangbin / 全てが君に微笑む (19)

SSW的ということでは、Jディラの遺作『Donuts』はサンプリングで出来たビート・ミュージックなのに、とても自作自演の感じがする不思議なアルバムだ。晩年のディラが病室で、といったすでに伝説化しつつあるエピソードも踏まえての印象だとは思うが、仮にそういったサブテキストに触れていなくても、穏やかでチャーミングで個人的なサウンドだなあ、とは感じるとも思う。私はヴェイパーウェイヴというシーンをよく知らないしさして興味もないのだが、このアルバムはヴェイパーウェイヴ的でもあると勝手にそう思ってる。

そして「静かな音楽」ということになると割を食うのはロックなのだろう。20世紀末から21世紀初頭にかけて盛り上がったポストロックにはそこに当てはまる作品もありそうだが、そんなに熱心に追っていたわけではないので(何枚か愛聴していたトータスとかガスター・デル・ソルとかは前世紀のアルバムだし)、ちょっと思い浮かばない。代わりにこの並びに置いておきたいロック・アルバムとしてはニール・ヤング『Le Noise』がある。先にも選んだダニエル・ラノワのプロデュースによる弾き語り作で、ニール版「声とギター」か。20世紀を席巻したロック・ミュージックをポストロックを経て21世紀に再定義する試み、ということがニールとラノワのアタマにあったかどうかは知らないが、かき鳴らされるエレキギターの「静謐なノイズ」とも「繊細な轟音」ともとれるサウンドが2010年のロックアルバムに相応しいということだと私は受け止めている。
で、みなさんご存知のようにSpotifyにニール・ヤング作品は無い。これもまた21世紀の風景。

H.E.R.をフランク・オーシャン以降の新世代R&Bアーティストと括るべきなのかどうかはわからない。私としては、先だってのグラミー授賞式でレニクラとド派手なツインギターを披露したように卓越した楽器プレイヤーでもある彼女をロック・ミュージックの新世代の枠に入れたい気持ちもある。プリンスがロックならH.E.R.もロックだろ、みたいな。

さらにクルアンビンをロックに括るのはどうだろう。バンド名もタイ語からだし、タイ・ファンクというタイ産レア・グルーヴと結び付けて語られることが多かったし実際にタイ・ファンクからの影響もあるのなのだが、それはダブとかチカーノ・ソウル的メロウ・ソウルとかと同じく、あくまでもクルアンビンの数ある音楽的背景の一つであって、じゃあなんだと言えば、やっぱりクルアンビンはロックバンドだと思う。インスト・バンドの象徴としてのヴェンチャーズがロックなら、それがああなってそうなってこうなってクルアンビン、みたいな。
ただしクルアンビンの作品はどれも「らしさの塊」みたいなところがあってダブ盤やLIVE盤、リオン・ブリッジスとの共演盤まで含め優劣がつけがたいというところがある。なので今回はシングルのカップリングなどを収録した編集盤『全てが君に微笑む』にしてみた。トータルのコンセプト等がない分、無意識の「らしさ」が充満しているし、それにゲンズブールとマーティン・デニー(というかYMO!?)のカバー入りでいろんなジャンルや文脈からちょっとだけ浮遊している感じがよく出ていると思う。

とここまで「次の世紀には今よりも静かな音楽が流行って欲しい」というフレーズに導かれて10枚をセレクト。ふと「静かな音楽」といえばアンビエント~ミニマルとかそういうのじゃないの?という声も聞こえてきそうだが、私があまりそういう作品をディグっていないのと、あとニューエイジ系というかエコ~ロハス系というかアート系というか意識高い系というか、そっち方面が苦手だからということもあり、ここでは選べないし選ばない。上記10枚はジャンルも作風もセールスもバラバラだが、私はあくまでもポップ・ミュージックのファンなので、すべてその範疇に収まるものと思っている。


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