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2022年のベスト・アルバム10枚

まさかの、まさかのとファンが言ってる場合でもないのですが、まさかの東京ヤクルトスワローズ2連覇という2022年。日本シリーズではオリックス・バファローズに逆襲されてしまいましたが、それでも2年連続で日本一決定戦を戦ったわけで、素直に嬉しいし素晴らしいです。こうなると当然2023年も期待しかないです。Go! Go! スワローズ。

で、それはそれとして、私の2022年のベスト・アルバム10枚は、こんな感じですかね。

【01】Lady Blackbird / Black Acid Soul (deluxe editoin)
【02】Horace Andy / Midnight Rocker
【03】Luiz Camporez / Standart Blues
【04】Bobby Oroza / Get On The Otherside
【05】Charles Stepney / Step on Step
【06】Kazufumi Kodama & Undefined / 2 Years / 2 Years in Silence
【07】Daniel Lanois / Player, Piano
【08】Marxist Love Disco Ensemble / MLDE
【09】Bruce Springsteen / Only The Strong Survive
【10】町あかり / 総天然色痛快音楽

【01】Lady Blackbird / Black Acid Soul (deluxe editoin)

本作は昨年リリースのアルバムのデラックス・エディションですが、私が聴いたのは今年なので、ここにエントリー、そして第1位。
1曲目がニーナ・シモン・カバーということで、そこからもう私が好きな感じしかしないのですが、オリジナル曲も含め統一されたムードが素敵で、かつディスク2に収められたシングル曲「Feel it Comin'」が最強にヤバ過ぎて、KOされました。

かのジャイルス・ピーターソンが"ジャズ界のグレース・ジョーンズ"と評したとの惹句が刺さる層には間違いない、この感じ。(もっともジャズ好きでグレース・ジョーンズ贔屓という人って実際にはどこにどれだけいるのだろう。そう思うとあらためてよく出来たキャッチだなー)
ジャイルス自身もインコグニートのブルーイによるプロジェクトSTR4TAの第2作を早くもリリースするなどご活躍で、私もSTR4TA好きなので嬉しい限りだが、あえて書けば作為的とはいえツルツルピカピカの演奏なので、この『Black Acid Soul』の煤けた感じのサウンドと歌声の方がより多くより長く聴けるかなあ、という個人の感想です。

ちなみにLady Blackbirdは2023年1月に来日公演があり、私もチケットを入手しました。このTV出演の映像を見ても期待は高まるばかり。LIVE観たら、後でここに感想を追加しよう。

【02】Horace Andy / Midnight Rocker

2022年のエイドリアン・シャーウッド働き過ぎ問題。まずはホレス・アンディ71才の新たな代表作と言えるこの『Midnight Rocker』、そしてレゲエ/ダブ界のお約束ダブ・アルバムももちろんリリース。その『Midnight Scorchers』は単なるダブverではなく新曲も追加された「ダンスホール版」とのこと。たしかにホレス・アンディの歌声がしっかりと刻印されたオリジナルと比べて効果的にゲストDeeJayも配したバラエティ豊かな仕上がり。この2作でもお腹一杯なところに、シャーウッド仕切りのコンピ盤『Adrian Sherwood presents Dub No Frontiers』も登場。こちらは非英語の女性ボーカリストの曲を集めた作品で、その目の付け所も含めて2022年らしさたっぷり。日本語代表はLikkle Mai。歌も曲もサウンドも最高。

そしてなんとプライマル・スクリーム(96年)以来のロックアルバムまるごとダブアルバムとして、テキサス出身ロックバンド、スプーンの今年作『Lucifer on the Sofa』をダブ化した『Lucifer on the Moon』も爆誕。プライマルの『バニシング・ポイント』はそもそもダブの要素もあったので、私は『エコー・デック』にそんなに違和感なかったというかむしろ大好物(特に「Medication」のダブ「Dub in Vain」はプライマル作品の中でもベスト3に入れたいほどのお気に入り)でしたが、スプーン新譜はライブ感覚溢れるバンド・サウンドとのことで、聴けば70年代ロックを彷彿とさせるクラシックな純ロックンロールアルバム。しかしやはりさすがのシャーウッド。ロックンロールの質感を残しながらも見事にダブ化。ダブ盤を聴くとオリジナル盤が聴きたくなり、オリジナル盤を聴くとダブ盤が聴きたくなるという理想的なダブアルバムを作りました、立派。

で、まだある。Jeb Loy NicholsというUS出身、UK在住のSSWのアルバムをプロデュース。1997年からソロアルバムを何枚も残しているアーティストですが存じ上げませんでした、失礼。イイ感じの渋い声でフォーク、カントリー風味でプロテストソング等も含む塩辛い楽曲を歌うSSWで、先のスプーン以上にミスマッチと思いきや、楽曲の持ち味はそのままにシャーウッドらしい音響処理も感じさせる素晴らしいアルバム。ダニエル・ラノワがプロデュースしたボブ・ディラン作品の2022年verと書けば、少しは雰囲気伝わるでしょうか。

とまあ、これだけの作品に関わりどれも良クォリティなのは驚くべきことですが、その上でやっぱり『Midnight Rocker』。この名作にもいくつものトピックがありまして。マッシヴ・アタック『Blue Lines』に収録された「Safe From Harm」のカバー(アルバム名はこの曲の歌い出しの歌詞から取られている)は、とりわけ大きなトピックか。同作では自作曲リメイクの「One Love」等の3曲でボーカルを聴かせたアンディが、自分が歌っていない曲をカバーするってどういうこと!? でもこれがもう絶品。これだけでホレス・アンディを代表する名盤確定。

UKレゲエといえば今年公開された映画『バビロン』も素晴らしかった。なんというかかなり胸が詰まる内容なんだけど、それと同時にそれ以上にタフさと楽しむことと音楽の存在感を感じられた気がした。レゲエファンはもちろんUKロックファン(特にクラッシュファン!!)は観た方がいいですよ、絶対。

【03】Luiz Camporez / Standart Blues

今年SNSで話題になった音楽トピックの一つに「最近の若者はギターソロを聴かないで飛ばす」というのがあって、まあその真偽というか本当にどの程度そうなのかはよくわかりませんが、例えば今年の11月17日に高中正義、竹田和夫、マーティ・フリードマン、山本恭司、渡辺香津美が次々と現れてはギターを弾き倒すという「シンニチイズム ミュージックフェス」に足を運び堪能した私としては、もちろんピンとなんか来ないわけで(てか、そもそも最近の若者でもないしね)。

そんな私がそんな今年ガビーンと来たギターアルバムがこちらになります。

この高橋健太郎氏のツイートを見かけてリンクをクリックしてみた途端に、飛びました。

時代錯誤とも古色蒼然とも言わば言え。上記のようなご時世に真向から立ち向かうかの如く歪んだギターをかき鳴らすセオリー無視のイントロが実に1分41秒。愉快痛快なことこの上ない完全無欠のブルースロック。これを最高と言わずに何が最高か。

唯一の不満はこのアルバム7曲入りということか。もっと重厚に熱烈に時代の空気なんてガン無視でギター弾きまくりの超重量級アルバムの到着を待ちたいと思います!

そしてブルースロックといえばブラック・キーズのこの曲も今年最高のロックソングの一つ。映画『グレイマン』(今年のマイベストかも)のエンディングでこれが流れた時は、知らなかっただけに、渾身のガッツポーズものでした!

そしてブルースロックと言えば忘れちゃいけないZZトップ(Dusty Hill, RIP)も、スタジオライブ作『Raw』をリリース。これがまた最強にかっちょいい。さらにビリー・ギボンズは上記ブラック・キーズ新譜と、なんとザ・タイムのモーリス・デイのソロ作にも客演。
歪んだギターは2020年代にだって、止まんねえんですよ。

【04】Bobby Oroza / Get On The Otherside
私が今年もっとも聴いた音楽ジャンルは、おそらくスウィート・ソウルというかヴィンテージ・ソウルというかインディーズ・ソウル(ミュージックマガジン2月号の特集より)。甘くてスローなソウル・ミュージックが地域や人種を問わずさまざまなところから届けられた一年で、それがまた私とっても世界にとっても切実に響いた年だったとも言えるかもしれません。

特にこのフィンランド出身のボビー・オローサは新譜も来日公演も素晴らしくて、もっとも印象に残っています。

そしてボビー・オローサがメキシコ系アメリカ人コミュニティで受け入れられていることも含め、甘い甘い愛の歌が、単なるベッドルーム・ミュージックというだけでなく、大きくは世界が小さくは自分の生活がままならないことで溢れかえっている日常に、ささやかな潤いをもたらしていて、それがまたタフにしたたかにめげずに生きる毎日の活力になるという、そういう切実さがスウィートソウルにはあります。もちろん古典ソウルにもラヴァーズロックにもあります。
Dante ElephanteMamas GunThe DipThe Jack MovesLady WrayThee Sacred SoulsCrazy Ken Band、どれも今年の私を支えてくれたスローでメロウな素晴らしいソウル・ミュージックでした、どうもありがとう。

【05】Charles Stepney / Step on Step

というスローでメロウなミュージックラバーである私の前に出現した最大の衝撃がこのアルバム。

どんなアルバムかは この辺り を参照していただくとして、
でもその説明を聞いても、なお不思議というか、2022年の私の耳にこんなにフィットする音楽が、1970年頃から(つまり私が誕生した頃から)「冷凍保存」されていて、50数年後の今「解凍」され、Spotifyという音楽配信サービスのお薦め機能により、私の下に届いたという、そのどの過程をとってもSFチックでクラクラきます。
内容はメロウな曲のメロウなメロディがメロウな鍵盤で奏でられる(でも歌はなし)夢見心地な一枚。メロウな宅録作品集ということでは「横山剣の自宅録音シリーズ」に通じる感覚もあるが、影響関係は当然逆で、だけどもこちらが今年の新譜であるという現実にも、やはりクラクラ。
あー、余談ですが「横山剣の自宅録音シリーズ」(普通に言えばデモ音源集です)に収録されていた「麗しの沙羅」という曲は、今年出たCKBの『樹影』に「莎拉 – Sarah –」として収録されました、祝! デモの頃から大好きな曲で、LIVEでの実演まで聴けて胸アツ過ぎました。

時を戻そう。アース・ウィンド & ファイアーの代表曲「暗黒への挑戦(That's the Way of the World)」は、このアルバムではこんな感じ。

もちろんこちらの方が素晴らしいとは言えませんし言いませんが、私的には曲の中から私が反応する成分だけを抽出し煮詰めたようなトラックに感じられるわけで、ホントにもう最高なんですよね、私のような変態には。たまんないっす、変態には。

【06】Kazufumi Kodama & Undefined / 2 Years / 2 Years in Silence

国産ダブ・グループのUndefinedが、"レジェンド"こだま和文をフィーチャリングしたアルバム。

前半4曲がどれも良い曲なのだが、後半に収められたその4曲のダブ・バージョンが極限まで音を減らしたような凄みのある出来で、ちょっとなんというか、ビビる。
Undefinedは今年オリジナルアルバムもリリースしており、そちらもオリジナリティの塊というか、大げさに言えば新世代のダブ・ミュージックというかダブ・ミュージックの新しい章というか(どうにも月並みな表現しかできないのだけど)、ミュート・ビート以降の国産ダブの系譜を受け継ぎながらも過去にはなかった響きを備えているというか、えーまーうまく書けません、私には。とにかくちょっと聴いてみてよ。

それと今年の5月には、こだま和文のKODAMA AND THE DUB STATION BANDのLIVEを観てきました。

振り返ってもこのツイートに付け足すことはあまりなく(書かなかったセトリの中では「ひまわり」最高でした)、とても素敵な夜でした、とそれだけ。立川の小さなライブハウスから世界を感じ憂い、こんな世界の中でもそこだけ小さな灯りがともっているようなそんな感覚にもなったというような、うん、蛇足だな

【07】Daniel Lanois / Player, Piano

ダニエル・ラノワ新譜は、なんとソロピアノ作。05年の『Belladonna』はスティール・ギターを用いて静謐な穏やかな(でもちょっとひっかかりのある)インストを奏でていたが、ギターがピアノになった本作も、その続編に聴こえなくもない。結局ラノワのラノワらしさとはバンド作も歌物もプロデュース作品も音響であって、楽器や演奏のスタイルではないのかもしれないな、とあらためて。

あとついでと言っては大変失礼なのだが、昨年末に出たブライアン・ウィルソン『At My Piano』も非ピアノ奏者によるソロピアノ・アルバム。

こちらは演奏の素朴さがオリジナル楽曲の良さを引き立てているようで、足りない要素を勝手にこちらの脳内で補いながら聴いてると、一種のサウンドスケープ物のようにも楽しめる。
非ピアノ奏者によるピアノ演奏というのもなかなか良いものなんですよねー。

【08】Marxist Love Disco Ensemble / MLDE

今年のバンド名・オブ・ザ・イヤー。マルクス主義者・ラブ・ディスコ・アンサンブル。THE LAST ROCKSTARSの100万倍はかっこいいよな。

サウンドも最高で、名前負けしてないというか名前通りというか。良いんだよねえ。

【09】Bruce Springsteen / Only The Strong Survive

ブルース・スプリングスティーンがソウル名曲を歌い倒す話題作。良い曲を良い演奏で良い声で歌えば良いアルバムになるという、それだけの普遍性が素晴らしい。
ノーザンソウル関連とか選曲もいろいろ話題だが、私の一押し、激推しはドビー・グレイの99年作「Soul Days」。

そもそも原曲も99年にドビー・グレイが「過ぎ去りし日々(Soul Days)」のことを歌った曲で、それをブルースが2022年に歌うというだけでもグッとくるものがある。
2番の「ゆっくりベッドから這い出て/すり切れたブルージーンズをはき/お気に入りのTシャツをみつけ/袖をまくり上げる/ジェームス・ディーンのように/まだ19の気分で/外に出てあたりを見まわした/俺の心臓は脈打っていた」とかめちゃめちゃヤバくないですか? 最初に聴いた時から鼻の奥にツーンと抜けるものがありました。
そして曲のエンディング、Wilson Pickett、Joe Tex、Sam & Dave(ちなみにサム・ムーアは本曲でブルースとデュエット)、Aretha Frankilin、Ray Charles、Sam Cooke、Arthur Conleyの名が歌い込まれる箇所で、もちろん目頭が熱くならないわけもなく。

原曲も最高です(あとこれが収録されたアルバムも!)

【10】町あかり / 総天然色痛快音楽

唯一無二、天上天下唯我独尊系シンガーソングライター、町あかりの久々のオリジナル・ソロ・アルバム。

バンド作、カバー作も良かったけれども、やっぱり町あかりはその独特以外に形容しがたいオリジナル曲こそが至高。
本作にも一部でプチバズした「ラーメンは軽犯罪」とか(ラーメン店でかかると箸が止まるらしい。私はまだ遭遇したことないけど)、2ヴァージョンが収められた90年代後半から00年代前半を体験したネット世代の胸を打ちまくるバラード「誰もいないBBS」、「大きな主語」や「おもんぱかるガンマン」など世相を町流に切り取るメッセージソング等々、町あかりでしかあり得ない歌がアタマからオシリまで詰まっている、まさに『総天然色痛快音楽』に偽りなし。

未練がましく本文中にブッ込んだアルバムも含め、これ以外にも素晴らしいアルバム、素晴らしい音楽はたくさんで、いっぱい浴びていっぱい聴いて今年ものびのびと過ごしましたー(って、おっさんが書くフレーズじゃないな)。


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