『刹那』
この会社で働いて10年。
今日から私は採用担当者として就活生の合否を
見極める事になった。
「はじめまして、東雲はるです」
私と同じ苗字の女性が来た。
同じ苗字だからと言って甘く見てはならない。
「学生時代は軽音サークルでバンド活動に打ち込んでいました。
その中でオリジナルの楽曲を創作することの難しさ、人を集めることの難しさを痛感しました。
自分の頭の中にある考えを作品にすること、その作品を人に伝えることのやりがいに気付くことができ御社の開発担当部で働きたいと強く思うようになりました。」
ちなみになんですが何というバンド名で活動されてましたか?
「𝐇𝐲𝐝𝐫𝐚𝐧𝐠𝐞𝐚という名前のバンドで活動してました。意味は紫陽花という意味で......」
私がよくライブハウスで見ていたバンドの名前と同じだ。先日解散を発表していたが彼女のような顔を見たことは1度も無かった。
「私は𝐇𝐲𝐝𝐫𝐚𝐧𝐠𝐞𝐚に楽曲提供をしていました。私自身バンド活動もしていたのですが中々芽が出ず解散しいつしか𝐇𝐲𝐝𝐫𝐚𝐧𝐠𝐞𝐚に曲を書くようになりました。
メンバーも私のことを𝐇𝐲𝐝𝐫𝐚𝐧𝐠𝐞𝐚の一員として扱ってくれるようになりとてもやりがいを感じていました。」
あの......
「はい」
私、実は𝐇𝐲𝐝𝐫𝐚𝐧𝐠𝐞𝐚のライブに何回も通っていました。全国ツアーは東京大阪名古屋の3都市見に行きました。
そんな人気絶頂だった𝐇𝐲𝐝𝐫𝐚𝐧𝐠𝐞𝐚が解散した理由を教えて頂けませんか?
「そうだったんですね.....
ボーカルの一ノ瀬が人前に出るのが怖くなってしまったんです。最初は数十人の前でやっていたライブが何千人、何万人と増えていき彼女は恐怖を覚えるようになりました......
今、一ノ瀬はライブハウスで裏方として働いています。
私も何か始めないと、そう思いこの会社の面接に来ました」
あの......
「はい」
不採用です
「何でですか?
まだ志望動機を言っただけですよ」
あなたも理由は分かってるはずです
「........」
「ありがとうお父さん........」
お互い初めから分かっていたんだ
そう思いながら彼女が部屋を去る姿をただ呆然と眺めていた。
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