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【天ぷら不眠】790文字 ⑱


私と二階堂くんは図書館の中庭をのんびり歩いている。雨上がりの芝生の緑は鮮やかで、空の青はいつもより濃い。
私は就職してから、この図書館の存在を知ったが、二階堂くんは高校生の頃からよく通っていたらしい。

「二階堂くんがおすすめしてくれた推理小説楽しみだな。この作家さんの本いつから読んでるの?」

「高校生の頃」

「そんな前なんだ」

「つい最近まで忘れてたんだけど、タイトル見たら思い出した」

「そうなんだ。今晩、寝る前に読んでみるね」

「あのさ、山本さん」

「ん?」

「いや、なんでもない」




その日の夜。
私はベッドに横になると、さっそく推理小説の表紙を開いた。図書館の独特な香りと紙の劣化した匂い。なぜだろう、懐かしい感じがする。どこかで嗅いだことがあるような。

10ページほど読み進めると、やはり違和感が。いつだったか、私はこの小説を読んだことがある。本を胸の上に置いて目を閉じた。

(学生のとき、この本を借りたような気がする。図書館じゃなくて、誰かに貸してもらったような。記憶がもやもやして思い出せない)

考えてるうちに頭の中の回路が一瞬繋がって、数秒ほど画像が流れた。



私はどこかで眠っている
すぐ側で若い男性の声が聞こえた

『俺のことは忘れたほうがいい。
カノン、サヤカの記憶を預かってほしい。
さよならサヤカ』

唇になにかが触れる

なにかが……?




「ちょっと、待った!!」

私はベッドから飛び起きた。

「今の記憶なに?!私誰かとキスをした?」

何度も記憶の画像を再生してみたが、その先がどうしてもわからない。男性が何者なのかも、名前すら思い出せなかった。

もしかするとテレビドラマと自分の記憶がごちゃ混ぜになってるのかもしれない。

気持ちを落ち着かせて眠ろうとしたが、目を閉じると唇の感触が、心臓の奥からじわじわと上がっては消える。静めても沈めても上がってくる。

「どうしよう…眠れない。kissが天ぷらみたいに揚がってくる」







うひゃ~ギリギリセーフ!
今日の夕方から書きはじめて、なんとか間に合った💦
最後はキスの天ぷらで締めました(笑)
無理矢理こじつけた感ありますけど、お、お許しください。

お話の中に出てくるカノンって一体誰なんだ?と思った方は、【記憶冷凍】をご覧くださいませ。ほんのり話が繋がっています。
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