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【春ギター】880文字 ⑨

 街中にある小さな神社には、大きな桜の木の下にベンチがある。

私はお気に入りのタンブラーを片手に、そこに座った。ここでカフェラテを飲みながらのんびりすることが、休日の楽しみなのだ。ゆっくりと息を吐きながら空を見上げる。葉桜から差し込む光が美しい。


「お姉さん、こんにちは」

突然の声に驚いてカフェラテをこぼしそうになった。いつの間にか目の前に、10歳くらいの少年が立っていた。Tシャツに半ズボン、太い肩紐を斜め掛けにしてアコースティックギターを構えていた。私は戸惑いながら、あいさつを返す。


「こんにちは」

「お姉さん、なにかリクエストして。僕歌ってあげるよ」

「う~ん、急に言われてもなぁ。じゃあ、君の好きな曲を歌って」

「わかった」

少年は六本の弦をピックで撫でて、少し間を置いてからメロディを奏ではじめた。

ギターの弦から生まれる
僕の透明なメロディ
繋がって広がって いつか 
心地良くなるはずだった

常識という他人の弦が
僕のフレットを埋める
見えない劣化は進んで サビた
繰り返す義務的な音

僕のメロディは濁った共鳴音になった
響かない 深い谷に留まる氷のように

雪解けアルペジオのあとに

新しい弦を張って ブリッジを渡る
心音に合わせてチューニングして
自分のメロディを 
花びらのピックではじ いて
コードを遮る弦を切るんだ
生まれ変わる春とギター


少年は歌い終わると白い歯を見せてニコッと笑った。私も笑顔になって、少年に精一杯の拍手を送った。


「すごく上手!大人っぽい曲だね!」

「だって大人だもん」

「あははは、面白い。僕何歳?」

「753歳」

「え?」



いきなりの突風に葉桜が散る。小さなつむじ風だろうか?砂も混じっている。私は咄嗟に目をつぶった。


パシッ、パツン、パツン…
ギターの弦が切れるような音が無数に聞こえる。

何十?何百?!?!


風が過ぎ去ったあと、私はそっと瞼を開いた。目の前にいたはずの少年の姿がない。360度見渡しても影すらなかった。

「さっきまでここにいたのに…」

私は不思議に思いながら、残りのカフェラテを飲み干した。ベンチから離れ、お賽銭箱の前へ進む。そして縁切り神社に手を合わせた。




今回は、たらはかにさんとPJさんのコラボ✨

いつも通りショートショートを書くだけではもったいない。せっかくなので、作詞にチャレンジしてみました。歌詞の中に、裏お題【雪解けアルペジオのあとに】とイベントタイトル『春とギター』も入れてみました。

書いたのはいいけど『春とギター』のガイドラインを守れてない😅💦残念ながらイベントには不参加ということで💧すみません…。

ショートショートと同様、作詞も大変楽しかったです。
ありがとうございました(*^^*)