【放課後ランプ】906文字 ⑪
取引先との打ち合わせが終わって、私と二階堂くんは海辺の町を歩いていた。海に沿って続く歩道で、学校帰りの女子高生たちとすれ違う。ときどき手を叩きながら笑い、夢中になっておしゃべりしている。
私は独り言のように二階堂くんに話し掛けた。
「私、学生の頃、友達少なかったから一人で帰宅してたんだ。あんなふうにキラキラっていうか、楽しく過ごせたらよかったのにな」
「そっか…。」
短い着信音が鳴り、二階堂くんはスマホをチェックした。
「部長から直帰OKのライン入った」
「やった!うれし~!せっかくだし、どっか寄り道しない?」
「いいよ」
二階堂くんはふいに立ち止まって海を眺めた。私も歩みを止める。
沈みそうな太陽、夕焼けに染まる空。目の前に砂浜も見える。
「山本さん、放課後っぽいことしよう」
「放課後っぽいこと?」
「うん、そこの砂浜で」
私たちは歩道から砂浜へ続く階段を下りた。少し湿り気のある砂の上をパンプスが汚れないよう慎重に歩く。
「同じクラスのちょっとカッコいい男子と放課後に貝殻拾いとか。そーゆう思い出があったら最高だったのにな」
「ふーん」
二階堂くんは興味なさそうに石を拾って投げている。
「見つけた!見てかわいいでしょ!」
私は小さな貝殻を手のひらに乗せて二階堂くんに見せた。
「アサリだな。味噌汁に入れるヤツ」
「味噌汁…」
私はアサリを捨てて別の貝殻を探した。
「あった!黒い貝殻!」
「パエリアだな」
「既視感あると思った…」
私はもっと珍しい貝殻を拾いたくて、パンプスの中に砂が入ってもお構いなしに歩いた。
「すごいの見つけた!楕円形だよ!」
「それイカの骨」
「イカ…」
私はイカの骨を高速で海に放り投げた。
「もっとなんていうの、キラキラした放課後にしたかったのに!」
「あははは!充分キラキラしてるよ」
「どこがよっ!二階堂くんもなにかやってよ!」
「わかったww」
二階堂くんはリュックを下ろして水の入ったペットボトルを出した。キャップ部分を指で掴んで、私に見えるように夕日にかざす。柔らかいオレンジ色の光がボトルの内側で乱反射した。水の微妙な揺れで光は不規則に輝いている。
「ゆらいでる…ランプみたい…」
「放課後ランプ。同じクラスの山本さんにあげる」
今週のお題はルーレットで決められました✨
今回で最後のルーレットなんですけど、なんと!
私が考えた「ランプ」が当たりました!選ばれただけで優勝した気分です(何に?)ありがとうございます。