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【深煎り入学式】746文字 ⑦

私は今、昭和の雰囲気漂う喫茶店にいる。
ここで開催されるコーヒー焙煎教室へ入会する為だ。参加者のほとんどが高齢者。20代は私と二階堂くんだけなのだが、二階堂くんはまだ来ていない。



開始から15分。先生は薄茶色の着物姿で人生について語っている。なかなか本題に入らない。

「”魂の深み”とは”魂を究極まで磨く”ということです。

大半の人は、努力もなしに歳を重ねれば自然と深みが増すと思っています。
しかし実際のところ、心が満たされ魂を深みへ導くのは、年齢でも夢を叶えることでもありません。
夢を追いかける情熱です。常に情熱を持つことで、私たちの魂は満たされ深みが増すのです。

さあ、みなさん!魂を情熱で深煎りしましょう。この焙煎教室で共に学びましょう。テーブルの上に魂をお出しください」

生徒たちはテーブルの上に白くて丸い物を置いた。私は焦った。筆記用具以外持ってきていない。

「すみません。私、この白いボール持ってません」

「うふふ、心配しないで。取り出してあげましょう」

先生は私の目の前に来て、私の鎖骨へ手を伸ばした。が、その手首を素早く掴む者がいた。二階堂くんだった。

「先生、僕たちはまだ焙煎不足です。またの機会でいいですか?」

「いいですよ。焦って深煎りすることはありません。まだお若いからじっくり焙煎なさってから来てください」

二階堂くんと私は喫茶店を出た。私は二階堂くんの後ろをついて歩く。

「コーヒー焙煎したかったなぁ」

「山本さん、店間違えてるよ。俺たちの焙煎教室はこの先のカフェだよ」

「え?!」

「俺、忘れ物したから、先に行ってて」

二階堂は喫茶店があった場所へ戻った。そこはビルとビルの間にある小さな空き地。薄茶色の陶器が土に埋もれていた。古いドリッパーだった。二階堂は拾い上げ砂を払うとリュックに入れた。

今回のお題もよかったなぁ…
楽しい時間を過ごせて幸せを感じています✨
今までは原文を削って短くしたものを投稿していたのですが、今回はそのまんま載せることにしました。初心者だから無理しないのが一番かなと。