【オバケレインコート】752文字 ⑧
取引先からの帰り道、突然の雨。
私と二階堂くんはバス停のシェルターで雨宿り。
「風、強くなってきた」
二階堂くんはノートパソコンが入ったリュックをベンチに置き、紺色のレインコートのボタンを閉めた。私は春物のカーディガンの上から腕をさすった。
「寒い…」
「山本さん、俺のコート貸してあげるよ」
「いや、大丈夫。二階堂くんも寒そうだし」
(ここ最近、二階堂くんのことを妙に意識してしまう。こんなモヤモヤした気持ちでコートを借りるなんてできない。二階堂くんの体温が伝わるものは避けたい。私たちはただの同僚なんだから)
「俺、重ね着してるから平気」
二階堂くんはコートを脱いで私に差し出した。
「本当に大丈夫だから。二階堂くん、ジャケットだけじゃ寒いでしょ」
「山本さん、カーディガンだけじゃん」
「う…」
(言い返せない)
二階堂くんは私の肩にコートを掛けた。
「ごめん、じゃあ少しだけ借りるね」
私は渋々コートの袖に腕を通した。
(あったかい…てっ、ダメダメ!意識しない、意識しない。そうだ、暗示をかけよう。これはお爺ちゃんの形見のコートだ!)
「ちょっと待ってて」
二階堂くんは側にある自販機で温かい缶コーヒーを2本買ってきた。
「どうぞ」
「ありがとう」
私は缶コーヒーを受け取ろうと手を伸ばしたが、袖が長すぎて手が出なかった。
(これは萌え袖?!異性をキュンとさせるモテ仕草?!かわいいって言われたらどうしよう、暗示が解けそう)
「山本さん」
「はっ、なに?」
「オバケみたい」
「…だね~」
(かわいいじゃなくてよかった?複雑な心境だわ)
二階堂くんは缶コーヒーをベンチに置いて、コートの右袖に左手を入れた。私の手首を軽く握り、右手で袖をクシュクシュにする。そして出てきた私の手に缶コーヒーを握らせた。二階堂くんの体温が押し寄せてくる。
「これで成仏した?」
今回のお題はルーレットで決定しました✨
たらはかにさん、楽しい企画ありがとうございます☺️
で、選ばれたお題はカワイイ印象💕
サクサクと女性目線で書きました。若返りたいな~なんて思いながら(笑)