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【友情の総重量】985文字 ⑯

先日、どういうわけか自宅のカーテンレールが壊れてしまった。取り外して新品に交換しようとしたが、壁に固定してあるネジが固くて回らない。その件を二階堂くんにラインすると、休日なのにわざわざ家に来てくれた。

「二階堂くん、急にごめんね」

「暇だったから別にいいよ。それにカーテン閉められないの防犯上良くないから、早いほうがいいと思って」

二階堂くんは踏み台に立ちドライバーでネジを緩めると古いカーテンレールを撤去した。そして新しいカーテンレールを手際良く取り付ける。

「山本さん、できたよ。あとはカーテン引っ掛けるだけ」

二階堂くんは踏み台から降りて額の汗を腕で拭う。

「本当にありがとう。お礼はなにがいい?」

私は二階堂くんとの距離を縮めて、右手で優しく彼の頬に触れた。唇を指でなぞり、そのまま下へ撫でるように首筋を通りシャツのボタンを外した。そして2番目のボタンで手が止まる。二階堂くんは無表情のまま私を見つめている。

「お礼は……本物の山本さん返して」

「なに言ってるの?私はここにいるじゃない」

「俺には見えるんだ、君の本当の姿が。どうしてそこに留まってんの?」

「……。」

山本と名乗る黒い影は動揺して陽炎のように揺らいだ。

「私たちの時代は親の決めた人と結婚するのが当たり前だった。私は17歳のとき幼馴染の哲夫さんと結婚したの。子供が三人できて、生活は苦しかったけど人並に幸せだった。だけど私は好きな人と結婚したかったの。胸が苦しくなるような恋愛をしたかったの」

「それで山本さんのフリをして俺を?」

「そうよ。嘘でもいいから恋したかった。だけど駄目ね。哲夫さんの顔が思い浮かんで。60年連れ添った夫のことを親友のように思ってたけど、そうじゃなかったのね。友情の総重量を超えると恋になるのね」

黒い影は徐々に薄くなり窓から差し込む光の中に消えた。テーブルにはアンティークのティースプーンが一つ残されていた。クルっと回転し部屋の奥にあるクローゼットを指す。

二階堂がクローゼットを開けると、山本が幸せそうな顔でスヤスヤと眠っていた。

「山本さん、起きて!カーテンレールの取り付け終わったよ」

「……ん?私、いつの間に?ごめん、、」

「山本さん、友情の総重量超えたらどうなると思う?」

「…ゆ…友情の総重量なにそれ?友情の…だから超えたら…親友じゃない?」

「ふーん。俺、レール外したくなってきた」

「なんで??」





今週はたっぷり時間あるから考える時間あるわ~💕
なんて余裕ぶっこいてたら、子供のリクエストで一昨日海へ。そして今日も海へ。全く書けない(゚Д゚;)💦
前半は自宅で書いて、後半は海辺にゴザ敷いて蟻にたかられながら書きました(笑)
なんとか間に合った~(;^_^A