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シェアリングエコノミースタートアップのお手本になった「ラクスル」のPR戦略 〜勝手に全プレスリリース分析!PRと事業の関係を紐解くVol.2〜

「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」。こんなビジョンを掲げ、伝統的な産業をインターネットの力で変えていこうという企業があります。

印刷・広告のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」を運営する、株式会社ラクスルです。
2018年にマザーズに上場、2019年には東証一部に上場。ユーザー数は右肩上がり…。好調に見えるラクスルですが、ユーザーにどうメッセージを届けていったのでしょうか?

企業や自治体のPR支援に取り組む会社、70seeds(セブンティーシーズ)が、PRと事業の関係性を紐解くため、成長企業のPR戦略を考察していきます。

2019年に東証一部に上場!「ラクスル」

印刷・広告のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」を運営する、ラクスルのPR戦略を分析します。

「ラクスル」は、全国の提携印刷会社の非稼働時間で印刷することにより、格安(チラシが1枚1.1円〜)で印刷物を提供する仕組み。チラシや名刺、パンフレットなどを印刷することが可能です。印刷だけではなく、新聞折込やポスティングなどの集客支援活動も提供しています。

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ラクスル オフィシャルサイトより

「より安く、少ない部数で印刷をしたい」という企業や個人のニーズを掴み、ユーザーは継続的に増加し、2019年7月期で93万人を突破。2018年にマザーズに上場し、2019年には東証一部上場を果たしています。

さらに、物流のプラットフォーム「ハコベル」も提供。荷物を送りたい企業・個人と空き時間に仕事を受注したい軽貨物ドライバーをマッチングする「ハコベルカーゴ」や、物流事業者向けの配車管理サービス「ハコベルコネクト」を提供しています。

このnoteでは、2010年から2019年に至るまでのプレスリリースと記事掲載をもとに、印刷プラットフォーム「ラクスル」のPR戦略を分析・考察していきます。

全プレスリリース・掲載記事を分析したスプレッドシート


ラクスルのPR展開①革新的なビジネスモデル自体がニュースに!――事業草創期

もともと、創業時のラクスルが注力していたのが、印刷価格の比較サイト「印刷比較.com」でした。比較サイトで印刷会社とのリレーションを積み上げていった時代です。

2013年には、現在の「ラクスル」の原型となる印刷代理店「ラクスルザ・プリントエージェンシー」をローンチ。空き時間を持つ印刷会社と発注者をマッチングさせるサービスを立ち上げました。いわゆる「シェアリングエコノミー」です。印刷比較のポータルサイトから、印刷のプラットフォームへ。鮮やかなビジネスの転換を図った2013年、メディア露出が増加していきます。

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日本経済新聞での「シェアリングエコノミー」という言葉の初出は2015年。まだ一般には知られていない、新しい概念でした。

「印刷会社の非稼働時間を活用して、低料金で印刷を提供する」ビジネスモデルは、「革新的なビジネスモデル」として、ウェブや新聞、テレビで取り上げられました。ビジネスモデル自体にニュースバリューがあると受け止められたのです。

ビジネスモデルのニュース化について、要素分解すると、以下のようになります。

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ラクスルの場合は、印刷業界の「稼働率の低さ」と「小ロットで印刷できるサービスの少なさ」という2つの具体的な課題、「6兆円」という市場規模に対し、「空き時間を持つ印刷会社と発注者をマッチングさせる」という革新的な仕組みを訴求して行きました。
この方程式がうまくハマるのが、スタートアップの中でもシェアリングエコノミー系のサービスを展開する企業です。

方程式を活用してニュース化している企業(1)スペースマーケット
例えば、レンタルスペースのマッチングサービスを展開するスペースマーケット。2014年のサービス開始初期、「イベントや会議を開催する場を必要とする企業」「結婚式場などの、稼働時間の偏り」2つの課題を示したうえで、「会場紹介サービス」という仕組みを示し、メディアからの注目を集めました。当時海外で、「Liqudspace」「eventup」といった、スペースを貸し出すマーケットプレイスに注目が集まっていたことでも、市場の可能性を示しています

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方程式を活用してニュース化している企業(2)エアークローゼット

また、ファッションのレンタルサービスを提供する「エアークローゼット」は、「コーディネートを考えるのに苦労している」という働く女性の課題を提示したうえで、「ファッションのサブスクリプションサービス」という仕組みを提供。会員数の増加についても積極的に言及し、市場成長の可能性を示しています

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「具体的な課題×定量的に示された市場規模×明確な仕組み」の方程式は、シェアリングエコノミー系企業がビジネスモデルの紹介を分かりやすく伝える武器となると考えられます。


ラクスルのPR展開②経済系媒体で社長だけが語るフェーズは終了。露出媒体とスポークスパーソンの広がり――事業成長期

2014年には14.5億円を調達し、事業は拡大期に向かいます。「毎月の注文件数が前月比3割以上のペースで増加」「今期の売り上げは10億円程度を見込む」(2014年の記事より)という切り口で、「期待されているベンチャー」文脈で、ウェブや新聞、テレビでの露出が増加しました。

同じ2014年には、俳優の遠藤憲一氏と要潤氏を起用し、テレビCMも開始

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プレスリリースより

このときのテレビCMへの挑戦についてラクスル代表の松本氏は、Forbes JAPANのインタビューでこう語っています。

「当時マーケティングの中心だったリスティング広告では検索クエリ数に限界があり、14年にはその上限が見えてきていた。成長の速度を緩めずに伸び続けるためには、マーケティングバジェットの拡大が必要。そこで、より大きなマーケティングチャネルとしてテレビCMを選んだ」

2014年は、ラクスルに限らず、スタートアップのテレビCMが相次いだ年でもありました。後に上場したメルカリやグノシーも2014年にテレビCMを開始。以降、スタートアップのマーケティング戦略にとってテレビCMはサービスの「マス化」に欠かせない一手として存在感を増していきます。

2016年には40億円を調達。デザインや折り込みの支援など印刷前後の工程の支援もスタートするなど、事業内容が広がっていきます。

広がりを見せる事業や組織の変化は、2015年から2016年にかけてはメディア掲載記事からも読み取ることができます。草創期は、代表・松本氏のインタビューが中心でしたが、CTO広報担当者など、この時期になると代表以外のメンバーの露出も増えてきています。

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スポークスパーソンが広がっているのは、上場に向けた組織強化の現れでしょう。
CTOが語ることで開発チームの採用を、広報部門の責任者・担当者が語ることで、ビジネスサイドの採用強化をそれぞれ狙ったと考えられます。

さらに、以前はビジネス系の媒体での露出が中心でしたが、一般紙地方紙へも露出を拡大。地方企業や全国の個人などへ、toB/toCともにユーザー層を「マス化」していく狙いがあったといえそうです。

なお、2016年末には、印刷プラットフォーム「ラクスル」で培ったマッチングのノウハウを生かして、物流のプラットフォーム「ハコベル」をローンチしました。2017年には、どちらかというとハコベルの話題に注力しているようで、プレスリリース・露出ともにハコベルが中心でした。ローンチしたばかりのハコベルを、PRの力で成長させていきたい、という狙いが伺えます。ラクスルで見せた「ニュース化の方程式」が、ハコベル事業にもうまく適用されているだけでなく、事業ポートフォリオをより関連性のある形で可視化することは、IR上も大きな意味があったと考えられます。


ラクスルのPR展開③黒字化を達成、外部評価も高まる――上場後のPR

2018年にはマザーズに上場。2019年には東証一部に上場します。上場後はプレスリリースの本数、掲載数ともに落ち着いており、テレビCMを中心としたマーケティング展開が確認されます。

そして2018年7月には、通期で初の黒字化を達成。

この時期のプレスリリースとして目立つのが、外部評価です。「日本ベンチャー大賞・経済産業大臣賞」の受賞や、『ラクスル』のカスタマーサポートがHDI「問合せ窓口(電話)」で 印刷業界初の最高評価「三つ星」を獲得したことなどが積極的に発信されています。外部評価を積極的に発信することは、上場後にマス化・多様化したステークホルダーのブランディングおよび株価への影響を企図したものでしょう。特に、株主のエンゲージメント向上が重要なテーマとなる、上場後のPRとしては王道と言える打ち手でした。


企業の成長に連れ、PRのターゲットも広がる

ここまで見てきて、ラクスルのPR展開には、よい流れが生まれているのがお分りいただけたでしょうか。

事業草創期には「革新的なビジネスモデル」をフックに露出を増やし、その結果得られたユーザー数増加などの実績をファクトとして「成長しているスタートアップ」としての発信を強化、さらにIPOに向けたタイミングでは、巨大な市場規模や新事業を背景に「上場後も成長し続ける企業」としてのIRを意識したメッセージで訴求。期待と実績を発信の力で循環させるお手本のようなPRが展開されています。

さらに補足すると、事業草創期、成長期、IPO後と企業フェーズが変化するに連れて、PRのコミット対象の移り変わりも明確に見て取ることができます。

事業草創期はサービスのビジネスモデル自体に注目を集めることで、顧客の中でもイノベーター層、アーリーアダプター層に訴求。マス化へ舵を切る中で想定される顧客層も変化、さらにはIPOを視野に入れる中で採用候補者への訴求も開始。成長のために、個人や地方企業に向けた露出もスタートしました。上場後は株主に向けて、外部評価の発信にも注力。ステークホルダーとの関係構築を意識して、PRのターゲットを広げていった様子が伺えます。

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2019年には東証一部に上場し、ますます期待されるラクスル。今後、「印刷・広告」「物流」で培ったプラットフォームづくりのノウハウを生かし、他業界への進出も見込んでいます。

古くはリクルートの「リボン図」のマッチング概念に源流を見ることが多いシェアリングエコノミー業界ですが、その中でも美しいPRの方程式を展開するラクスルは、今後の他業界進出でも、PRの好循環による事業成長を実現していくことでしょう。

参考資料

MS-Japan「株式上場に至るまでの経営管理組織の確立~ミドルステージ編~
ラクスル「2019年7月期 決算説明会資料
ラクスル「オフィシャルサイト

調査・分析・執筆:吉田瞳(70seeds)
監修:岡山史興(70seeds)

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