コーチェラ2022とハリースタイルズのライブ
ここ数年でいちばん衝撃的だったので、自分でもなるべく言語化したいと思ったから書いておく。
アメリカでおこなわれたコーチェラ2022のヘッドライナー、ハリースタイルズのライブについて。
なぜあそこまで興奮したのか。
色んな要素が詰まってます。
知らない人もいると思うのでまずCoachellaの説明から。
正式名称はCoachella Valley Music and Arts Festival、略してコーチェラ。
世界最大規模の音楽フェスであり、アメリカのカリフォルニア州にあるインディオという、だだっ広い砂漠地帯みたいな場所でおこなわれる。
10年前から毎年YouTubeで配信もされていて、海外のセレブ、インフルエンサーも数多く遊びにくるため、世界で見ても認知度は抜群に高く、二週に渡る開催は多方面から注目される。
また、アメリカの音楽フェスとしては4月開催と、他のフェスより早い時期におこなわれることもあり、コーチェラでその年の世界の音楽トレンドが見えてくるというか、誰がその年を席巻していくのかがなんとなく分かるようになっている。
その席巻したいアーティストのコーチェラでのライブの多くは、ステップアップのための新作発表会のようになり、豪華ゲストのサプライズ出演もあったりする。
そのため、開催前から海外のメディアも騒ぐし、レコード会社とアーティスト達はコーチェラを“ハック”できるように宣伝をしかけてくる。
今年の開催前の肌感だと、今年はハリースタイルズがSNSや会場周りの宣伝を“ハック”しているように思えた。
新作発表と新曲の公開もあり、タイミングもコーチェラにバッチリ合わせてきている。
続いてHarry Stylesの説明。
説明不要な気がするが、元One Directionのメンバーであり、エターナルズのエロス。
現在28歳のイギリス人。
シンプルに顔が良い。
あと、最近ちょくちょく見かけるのが「ハリースタイルズは女性の味方」というもの。
コーチェラのライブを観るまでは、よく分からなかった。
ぼくはOne Directionを全く聴いていなくて、ハリーのソロ曲を聴いたのは、Watermelon Sugarを何かで流し聴きしたぐらい。
そもそもハリーがソロになって2017年に初めて発表した曲がSign of the Timesという超意欲作。
その少し前までボーイズバンドでキラキラしてた人種が、ここまで方向転換できるのかと当時は話題になったみたい。
ぼくが本格的にハリーをちゃんと聴き始めたのは去年の年末ぐらい?
Fine Lineっていう2019年発売のセカンドアルバムがまぁ良いのよ。
Watermelon Sugarも収録されていて、
前作よりポップ感は増えてるけど、自分の音を更に確立させてきた感じ。
チャート狙いの最新のポップじゃなくて、古き良きを感じれる70年代的なアプローチで、ちょっとアメリカっぽい音使い。
これを25歳で作ったのは恐るべし。
今月発表された新曲のAs It Wasも、前作からの路線は継続しつつも、より浮遊感を味わえるような曲になっている。
あとNPRのライブが最高なのでこれは観てください。
コーチェラは1日目の朝からリアルタイムで配信を観た。
他の海外フェスの多くは2020年は中止になったが、2021年はワクチン接種もしくはPCR陰性を条件に入場可能という形で開催、というところがほとんど。
だがコーチェラは2020年と2021年の開催が延期発表後に中止となっていたので、今回は3年ぶりの開催。
今のカリフォルニア州のルールに則って入場時の条件等は一切なし。
ワクチンの必要もないし、検査もいらないしマスクも不要。
現地の人の肌感だとマスク着用率は0.1%以下みたい。
そんなこんなで、アーティストも楽しみにしていて気合い入ってるし、MCで「3年ぶりだね!」みたいなことをみんな言っていた気がする。
1日目に観たのはMIKA、Bishop Briggs、Omar Apollo、Still Woozy、カーリー、Ari Lennox、
そしてメインステージで18時からのAnittaが凄かった。
ブラジル人シンガーであるAnittaも、実はコーチェラ前から話題になっていて、結構ハックしていた。
TwitterでハッシュタグをつけるとAnittaの絵文字が出たり、YouTube配信のコメント欄が昼からAnittaで溢れかえっていたり。
ライブも開始早々ゲストになんとSnoop Doggが出てきて大盛り上がり。
途中からDiploがDJとして盛り上げ、ダンサーが踊りまくったりでまさに狂喜乱舞。
ブラジルの音楽性とAnittaの世界観をゴリゴリに見せつけてくれた。
だいぶ金かかってて、今年とりにいきたい気持ちが伝わってくる。
コーチェラ感出てきた。
その後にNIKIとCordae、MadeonとLil Babyも観た。
Madeonやばくなかったか???
ストーリーに載せたりしてたけど、演出が凄すぎて人間の領域を超えてきたから、存在を凌駕した概念になろうとしてるんかと思った。
DJがライブでやる世界観じゃない。
トラックリストは去年からの引き継ぎでも、最後のあれはコーチェラで初披露かな。
コーチェラ感、出てる。
Madeonソニマニの夜中に観れるのはちょっと強すぎて楽しみ。
シークレット枠?で直前に出演が決まったArcade Fireも、Wake Upだけ観た。
シークレットでArcade Fireって豪華すぎてさすがコーチェラ。
MCが彼らなりの優しさですごく良かった。
「もし近くにドラッグでおかしくなってるやつを見つけたら、医者を探してあげてくれ。
そんなクソみたいなことで誰も死ぬ必要なんてないんだ。」
そしてトリ前のDaniel Caesar、前回フジロックで観た時よりも演出がだいぶ豪華になっていた。
トリ前ということもあり会場の熱気も上がっている中、彼のコーチェラ映えする楽曲で観客全員うっとりモードに。
そこで最後の曲、Peachesでジャスティンビーバーがゲストで登場!
会場大爆発で、間違いなくその日一番の盛り上がりを見せた。
めっちゃコーチェラ感あるし、やっぱりBest Partはいい曲。
そして満を持してのヘッドライナー、ハリースタイルズ。
ヘッドライナーは演出もその日で一番派手で豪華なので、どんな最新のセットになるのか楽しみにしていた。
暗転し、SEが流れる。
登場したハリースタイルズ、頭の先から足の先まで完全にスターである。
アイドルグループにいたことは分かっているけど、音楽好きの男のぼくから見ても、ステージ上のハリーは元アイドルではなく、完璧にアーティストとしての魅力を放っている。
発表されたばかりの新曲As It Wasからスタート!
まずここでの衝撃が凄すぎた。
セットだったり照明だったりが、60〜70年代のライブを披露するテレビスタジオを彷彿とさせるものになっている。
大袈裟に階段を降りて登場するのも演出効果として抜群。
ハリーの衣装も、それに合わせた全身ミラーボールかのようなGUCCI特製スーツ。
その世界観が新曲のAs It Wasに完璧にマッチしている。
衝撃だった。
この2022年のトレンド最前線みたいなコーチェラで、その攻め方をしてくるのか。
今っぽい衣装とか演出ではなく、その世界観でくるのかと。
そして新曲がハマりにハマっている。
新曲が発表されても、新譜の方向性というかコンセプトまではまだ掴めてなかったけど、このライブの冒頭を観ただけで、新譜でやりたいことが鮮明に伝わってくる。
コーチェラを待ちわびた観客の期待を余裕で超えてくる。
そこまで引き込まれる演出をしてくるライブなんて久しく観れてないから、1曲目から泣いてしまった。
その日は世界観が強いアーティストのぶつかり合いだったが、ハリースタイルズのライブで決着が着いた。
冒頭から、今日のライブはこういう世界観!
っていうのが観てる側に伝わってくるのが凄い。
衝撃を受けたことはまだあって、ハリーは前作Fine Lineを発表したあたりから、ジェンダーレスなファッションアイコンとしても注目されている。
ライブでもワンピース、スパンコール、フリル、リボンの衣装などなど。
この日のコーチェラも、全身ミラーボールのようなスーツなのだが、女性らしさも感じられるスタイルで、まさにジェンダーレスな衣装だった。
これまでコーチェラのヘッドライナーは、女性でもビヨンセやアリアナが務めたことはある。
もちろん今年は最年少でビリーも。
これまでヘッドライナーを勤めてきた男性アーティスト達は、やはりどうしても力強さというか、いわゆるカッコいい男性らしい部分を見せるようなライブになる。
ハリーのライブでは全編通してそれが一切感じられなかった。
かっこよさはもちろん感じるのだが、力強い男性として振る舞うかっこよさではなく、いちアーティストとしての単純なかっこよさと言えば伝わるだろうか。
性別なんて関係ない。
その今までと少し違った、ジェンダーレスアイコンであり、男性アーティストであるハリーがコーチェラのヘッドライナーとして立ち、会場を大いに沸かしている。
これだけでも結構エポックメイキングな出来事である。
コーチェラのメインステージは花道があって、ハリーはそこを歌いながら走り回り、観客を盛り上げる。
黄色い声援も凄いが、ライブの世界観も相まって、曲がディズニーのパレードのように感じたり、お花畑で演奏されているかのような錯覚にも陥る。
それぐらい多幸感がえげつなかった。
演奏のグルーヴ感と、ハリーが歌う楽曲のエネルギーで見事に全曲ライブ映えする。
最高に気持ちよかった。
未発表の新曲も披露してくれたが、これがまた良い。
60〜70年代っぽさマシマシ。
2022年のコーチェラの新曲発表でこの曲よ。
でも違和感は一切ない。
この日のコーチェラはハリーのためにあった。
それぐらい作れ込まれていて度肝を抜かれた。
そしてスペシャルゲストで女性カントリー歌手の重鎮Shania Twainを迎え、Man! I Feel Like a Woman!をデュエットで披露。
楽しそうに歌うハリーとシャナイアのバイブスが上手く噛み合う。
この曲はその日の世界観にも合っていて、最高潮の雰囲気にどっぷり浸ることができた。
配信で観ていても楽しくなり笑顔になってしまった。
シャナイアを紹介する時ハリーが「小さい頃、車のステレオであなたの曲を流してママと聴いていた。あなたはその思い出をくれた人だよ。」と言っていた。
続けてハリーは「あなたは他にも、男はゴミだってことも教えてくれた。」と言ってシャナイアを笑わせたり、
緊張してそうなシャナイアの手を握ったり。
ライブの途中に花道に落ちているレインボーフラッグ🏳️🌈を拾って持ってみせたり、
MCで「彼氏いない人?彼氏いる人? ここにいる彼氏全員、FUCK YOU!」と言ったり。
夏から行われるツアーのゲストにはArlo Parks、Mitski、Wet Legなどを呼んだり、
そもそもゲストでこのコーチェラという舞台にシャナイアを呼んで、Man! I Feel Like a Woman!という歌を歌ったということ。
そして自分のバンドメンバーには女性もたくさんいて、多様性をきちんと理解している。
女性の味方ってそういうことか。
ライブの後半になるとバンドメンバーも増え、様々な楽器が奏でられる中でWatermelon Sugar、ハリーなりのロックスター像を提示してくれたKiwi、最後にウクライナ国旗の配色が浮かび上がったSign of the Timesで終幕。
ラストのSign of the Timesではサビで花火が上がり、曲の壮大さとハリーの伸びやかな声が響き、天国から迎えが来たと思うほど圧巻のパフォーマンスだった。
アカデミー賞を獲るような映画の公開と同じように、コーチェラでのライブがウケかどうかは、その時にそのライブをみせる意義だったり、世の中の空気感だったりも込みで評価されているようにぼくは思う。
ハリーのライブは、多様性を重視することも含めてそれが完璧だった。
今みるべきライブだった。
"Go totally crazy
forget I’m a lady
Men’s shirts-short skirts
完全にぶっ飛んで
自分が女性だなんて忘れて
男物のシャツにミニスカート"
Shania Twain - Man! I Feel Like a Woman!
より
これほど素晴らしいライブはなかなかみれるものではないので、今週末にも二週目の開催があることが嬉しくてたまらない。