#109 体と思考の同調性
わたしたちは、常に外界から刺激や情報を受け続けながら生活している。
人間も動物である以上、この原始的な仕組みは変わることない。しかし、人間は他の動物や哺乳類に比べて圧倒的に異なる点がある。それは、思考することによって反射的に間違っている選択を回避できることにある。
正確にいえば、サルやゴリラなどにも「心の理論」が存在するといわれるので、思考することは彼らにもできるだろう。
しかし、その強度はけた違いに人間の方が高いことがいえるだろう。
また、脳科学で注目される、前頭前野の発達が人間に多くの恩恵を与えた可能性が高い。
しかしながら、基本、動物である人間はスピードを求められる局面において、原始的な部位に頼らざる得ないのでたびたび間違いを犯す。
では、どのように間違えは起こるのだろうか。
いくつかの例をみて考えてみたいと思う。
知覚の特性
現在、わたしたちは比較的安全な環境下で暮らしている。それでも、毎年交通事故は絶えないし、火災などの自然災害を含め、自身に危機が起こらいないともいえない。
このような危機的場面で、脳にある扁桃体は即座に反応し危険を知らせる。そのことにより、わたしたちは危機を回避している。
危機は突然起こるのが常なので、危機回避を優先すると多少の誤報も起きてしまう。誤報は、その都度訂正されるので問題はないが仕組みとしては欠陥といえる。
例えば、歩いているとき、草むらの草がわずかに揺れるただけでも、周辺視野が捉えることにより「びくっ」とするだろう。
またあるときには、暗闇の中にいるときに、ガタッと音がしただけで全身が毛羽立つ感覚をすることもあったりする。
わたしたちは、このように何でもないことでも1%の危険性がある場合、その1%に対応するように体はできているようだ。
肉体は扁桃体の活動によって影響を受け、危機回避または誤報をうけるのだが、実は思考もそのような影響をうけている。
心理学の一般論としてお馴染みの説で、「知覚表象は、変化するもの、前とは違っていることに何よりも集中し、状態が同じであれば、そういう物事は基本的に無視する」というものがある。
つまり、程度のいかんにかかわらずその状態がある期間ずっと続くのならば、その物事はほとんど、どうでも良いと脳は捉えるのだ。
例えば、付き合いたてのカップルは互いのことを理解できていない。
そのため、何をしても変化が目まぐるしいのでとても新鮮に映り刺激的だ。
しかし、交際期間が長くなるにつれ、互いの理解度が深まることで変化量が減少してしまい、物事がどうでもよく感じてしまう。(あくまでも、無自覚の場合はそのように脳はとらえるという意味)
実験でいえば、ボウルを三つ用意し、一つには冷たい水、二つ目には暖かいお湯、三つ目にはその中間の温度の水を入れます。
一方の手を冷たい水のボウルに、もう一方の手を温かいお湯のボウルに浸けてしばらくそのままでいます。
その後で、中間の温度の水に両手を入れてみると、右手と左手の感じ方は違います。
中間の温度の水を、一方の手はとても暖かく感じ、もう一方ではとても冷たいと感じます。
つまり、手はそれぞれに前の温度に適応してしまったということだ。
このように、どんな刺激に対しても、わたしたちの感覚や知覚は、適応のレベルによって感じ方が決まってしまう。
これと同じように、判断や選択が知覚のルールに従って作用している。
つまり、変化は際立ち、一定に保たれた状態はほとんど無視されてしまうのだ。
状況一では、あなたはWという金額の富を持っています。状況二では、50%の確率でWの金額から1万ドルを引いた額を持つかもしれないし、50%の確率でWの金額プラス1万5000ドルの金額を持てるかもしれない。
多くの人は、賭けに勝つ可能性と負ける可能性が同じである場合、勝った時には、すくなくとも負けた時の2倍もらえるのでなければ、賭けをすること自体を断ります。
たとえこれほど高額でなくても結果はおなじです。
とある大学の学生にこれと同じように、もしかしたら10ドルなくすかもしれないが、いくら貰えればコイントスでこのギャンブルに賭けてみようと思うかと訊いたところ、多くの学生は少なくとも20ドルなければやらないといったそうです。
つまり、状況一の賭けは、全く魅力がないことがわかる。
では、状況二はどうだろうか。
富の金額が不確かになるというものだが、たいていのはこちらの方では、はっきりと決まった額の富、確実にWの額を持っているというよりもほんのちょっとだけ魅力的だと考えられることが多い。
この賭けを受けるということは、自分の富が不確かな状態を受け入れることになる。(その点では1と2の賭けは同じといえる)
状況一と状況二の違いはたった一つ、状況一には勝ち負けが絡んでいて、その勝敗に目先の感情が伴うという点。
富という観点で考えれば、1も2も質問の間に違いはない。
では、どうして好まれ方に違いが出るのだろうか。
つづく
参考文献「ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る ダニエル・カーネマン著」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
さちこりんさん画像を使用させていただきました。