鮮度ある紙幣
パリの経済学校教授であるトマ・ピケティの「21世紀の資本」という本がフランスで出版されたのは2013年のこと。
彼は、
「資本主義の富の不均衡は、放置しておいても解決できずに格差は広がる。格差の解消のために、なんらかの干渉を必要とする」
と訴えた。
その根拠となったのが「r>g」という不等式で、「r」は資本収益率を示し、「g」は経済成長率を示す。
同書では、18世紀まで遡ってデータを分析した結果、「r」の資本収益率が年に5%程度であるにもかかわらず、「g」は1~2%程度しかなかったと指摘する。そのため「r>g」という不等式が成り立つ。
トマ・ピケティとは
1971年にパリ郊外のクリシーで左派労働運動の活動家の両親のもとに生まれ、16歳で公立高校を卒業し、難関の高等師範学校に入学。22歳で博士号を取得し、フランス経済学会から富の再分配をテーマにした論文で年間最優秀論文賞をした秀才。また、2007年のシラクの後継を選ぶ大統領選挙で、サルコジに決選投票で敗れたセゴレーヌ・ロワイアルの最高経済顧問を務めていた。
昨今、資本主義国家で格差が拡大していることをご存じでしょうか。アメリカでは全所得の約50%が上位10%の人たちの手に渡っているといわれます。2012年のアメリカでは上位10%の世帯の所得が総所得の50.4%占め、1917年以降で最大の割合になったとされています。上位1%が総所得世帯に占める割合も過去最大で19.3%となっています。
驚きなのは2009年~2012年で上位1%の所得の伸び率は31.4%でしたが、アメリカ全体の所得伸び率の95%に当たるというのです。
つまり同時期に、下位99%の伸び率はわずか0.4%しかないのです。
このような現実を「格差は放置すれば拡大し続ける」とピケティは警鐘を鳴らしているのでしょう。
では具体的に「r<g」を読み解いていきましょう。
ピケティは働かなくても収益が上がり、相続によって個人の努力とは無関係に引き継がれる富として「資本」に注目しました。彼の定義では、人々が所有していたり取引したりする資産の総体で、住居などの不動産や金融資産、工場・機械・特許など仕事を行う上での元手から人的資本を引いたものになります。
また、その国に住んでいる人たちの年間所得の総額を「国民所得」と呼びます。
一年間に経済活動が行われ国民が稼ぎ出した国民所得に比べ、資本の総額が極端に大きい場合、資産の蓄積度が高いということになります。
この資本総額を総所得で割った比率が「資本/所得比率」になり、βと呼ばれます。
例えばβが2の場合、その国が貯め込んできた資産が、一年の経済活動で生み出された総額の2倍に達したということです。
つまりβの数字が2から5になった場合、その国では資産の蓄積が国民総所得の2倍から5倍に増えたことを示します。富が増えること自体は問題はないのですが、その資本は一定の収益を上げます。
その収益が資本の何%になるかが収益率で、r(資本収益率)とされています。
国民所得のうち資本の比率はβですが、そのβが上げた収益はr×βになります。
つまり国民所得のうち、資本が稼ぎ出した所得が「r×β」。ならば、国民所得のうちの資本の額αは、r×βになるので「α=r×β」という数式ができます。ピケティはこの数式を「資本の第一基本法則」と呼んでいます。
2010年前後の豊かな国々での家賃や利子、配当などの資本からの所得は、概ね国民所得の30%くらいまで上昇しています。資本の集積度が国民所得の6年分に達しているとすると、α=30、β=6ですから、30=r×6になります。つまりr=5ですね。この局面での資本の収益率は5%ということになります。
このような資産から上がる収益は、標準で4~5%程度、低くても2~3%程度の率で推移する傾向があります。これは、通常の賃金の伸びを大きく上回っています。
国民が働いて稼ぎ出した総所得(国民所得)はよほど大きな経済成長がない限り4~5%を超すほど増えることはありません。にも拘わらず資本はそれよりも大きく収益を上げるのです。
例えば、100万円持っている人の場合の資本の収益率が5%だったとき、その人は年に5万円の増収です。成長率が1%だった場合、それにあわせて所得が伸びても1万円です。
つまり、資本のある人は年に4万円も消費しても、資本のない人と同じ分だけ貯蓄できます。仮に資本が上げた5万円を消費しない場合、この人は年5万円の増収になります。
このように資本の集積は富の偏りを促します。
端的に言えば「世界中の人が労働で生み出すお金よりも、金持ちが手元に置いてある資本の方が多くの利益を生み出している。」ということです。
日経平均株価がいくら上がってもわたしたちの暮らしが豊かになった実感がわかないのはそのためです。また、日本国内に目を向ければ1000兆円の借金を国がしているといいますが、その借金のほとんどは国内にいるお金持ちが国債を買っていて国にお金を貸しているだけといわれます。
そのため、日本の円は暴落しないのです。簡単に言えば○○さんの家は1000万の借金がある。でも、それは親が息子に1000万貸しているだけ。これを聞いて「大変、○○さんの家は破産するわ!」なんて言う人いませんよね。
このように借金は国内でのやりとりになるので国が他所の国に借金をして取り立てにあっているわけではないです。(もっとも、アルゼンチンは借金を他の国からしているといいますが)
この「富の再分配」の解決方法は何かを考えたのですが、元大阪府知事・市長の橋下 徹氏が以前話していた「相続税100%」なんて方法があると思います。これは親から子に資産を譲れないというものですが、既得権益者がこれに納得するとは思えません。
政治家が政治家をやっていられるのは多額の金を寄付してくれる既得権益者の存在が欠かせません。そのような人たちが自らの腹を切る行為は想像できませんよね。そのため、かなり難しいでしょう。
そこでわたしは、「富の再分配」という概念から離れ、「集積できない富」として考え、「鮮度ある紙幣」というものを思いつきました。
昨今話題になったビットコインの不正流失問題で「ブロックチェーン技術」がフォーカスされました。ブロックチェーンとは、箱一つ一つに番号をつけその取引履歴を取引上ににいる皆で監視するシステムです。AさんとBさんが取引したとして、どちらかが不正を働き取引履歴を改ざんしたとしても、CさんやDさんやZさんに記録が残っているので不正が難しいというシステムです。
この技術を応用し紙幣すべてに番号をつけ、有効期限を設けます。すると、紙幣は一定期間たつと消えてしまうので消費しなくてはなりません。常に紙幣は経済活動に参加しなくてはならないので、お金の出し渋りがなくなり経済が回ります。また、この紙幣を株式に投資した場合、紙幣から株券に変換できても、株券を紙幣に変換できなくします。企業は配当をトークンエコノミー(代替通貨)などの自社のみに可能な通貨で変換し応えます。
このようにすれば、資金を持っている人は「物」を買うことでしか資産を作れません。金や絵画などがありますが、これは市場に影響を受けるのでそれ自体で収益を上げることは難しい。売却してしまえば、その時は収益が上がりますが、期限付きの紙幣になるので消費しなくてはなりません。
世襲による資本のサイクルを軽減できるのではないかと考えます。土地については現在、相続する場合に資産価値に対する相続税を現金で支払わなくてはならず、土地の相続税を払うために土地を売る人もいます。
よいアイデアではないかと思いましたが、本当に実行するためには紙幣をデジタル化しなくてはならないこと、ブロックチェーン技術が大衆化すること、世界規模で同じ仕組みを取り入れなくては機能しないという問題があります。
中国ではデジタル人民元の社会実験が始まりました。おそらくデジタルマネーのイニシアチブをとりたいのでしょうが、世界が中国に続いてデジタル通貨を推し進めるかは未定です。現在Facebookが進めるデジタル通貨や、ビットコインなどデジタルマネーは多種多様です。
どのような未来になるかはわかりませんが、ピケティの警鐘を鳴らす「富の再分配」は新しい価値観を持った新しい概念によって解決して欲しいと切に願います。
平等は公平の地盤の上にしか正しく建つことはできません。願わくば平等な社会よりも公平な社会を先に築いて欲しいものです。
おわり
参考文献「ピケティ入門 竹信三恵子著」
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MITSUDA Tetsuoさん画像を使用させていただきました。
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no.46 2020.12.25