高校野球部1年生が初の遠征組に選ばれた日に遅刻した結果
始めに
私は小学校1年生の春休みに隣町の少年野球チームに入団してから、高校3年の夏まで約10年間に渡り野球を続けた。小学生当時から、二塁手のポジションを守り、定期的に捕手や三塁手をやることもあった。少年野球、中学軟式野球部ではどちらとも副主将を務め、レギュラーとして活躍した。
高校入試では、志望校の公立高校に落ち、滑り止めで受けていた、家から車で約1時間程度の私立高校に入学した。数年前から野球部に力を入れていた私立高校で、入部部員のほとんどが特待生及び野球推薦組であり、一般入試で入学した私は数少ない、一般部員として部活動に参加した。同学年の部員は16人であり、内、私を含め一般入部候補として4名が部活動に顔を出した。私以外の3人も公立高校落選組であり、一般受験での入学組であるものの、私と違うのは皆、野球部送迎バスの送迎ルートに入っている地域に住んでいる。この高校は私立というものの、公立高校よりもはっきり言って汚く、最も近いJRの駅から徒歩では2時間以上かかる程、田舎の地域にある高校で、ほぼ全ての生徒は高校が用意するスクールバスで登校する学校である。強化指定されている野球、サッカーの部活のみ、専用の部活動送迎バスが用意され、通常のスクールバスの時間を超えた部活動ができるように配慮されている。しかし、そのルートは私のような遠くに位置する地域まで配慮されているわけでなく、近隣及び、電車が使える地域に限られる。私の実家もJRの最寄り駅まで山を2つ越えなくてはいけない本物中の本物の田舎にあり、部活動の為には親の送迎を毎回お願いしなくてはならない。
そんな中、入部を希望する私に、顧問が入部することに対し、待ったをかけてきた。理由は距離もあり、当時から体がそんなに大きくなかった私に、部活についてこれないであろうと判断されていたからだ。同じように一般入部の私以外の3人のうち1人は練習に付いていくことができず、入部拒否された。私は入部を否定されながらも、毎日練習グラウンドに顔を出した。一般入部の他2名はすぐに入部を認められ、私1人が入部できない状態でただ一人残された。それでも練習もさせてもらえないグラウンドに顔を出し、丘の上に1人立ち尽くし、見学を続けた。そして、入学から4カ月、立ち尽くし続けた結果、入部を認めてもらえた。根性論の勝負に持ち込み、いくら無碍な扱いをされても耐え抜くことで見事入部を勝ち取ったのだ。1人は脱落してしまったが、これで全16人の同い年が全員入部することができた。同学年の部員からも温かい言葉をかけてもらい、ようやく私の高校野球が始まったのだ。すべての同級生は、部活動、勉学、バイトで新しい高校生活を始める中、4カ月間1人で耐え抜いた。こんな経験は他の誰もができないような貴重で、苦しすぎる、自分自身を強くした経験になった。
入部してから、毎日必死に部活動に打ち込んだ。親に送迎の負担を掛けながらも、身を削り、必死に練習した。
そして9月。初めて遠征試合のメンバーに選ばれることができた。
遅刻
初の遠征に選ばれた私は心の中で大いに喜んだ。この大きなチャンスを逃すわけにはいかないと、強く覚悟を決めた。そして今回、初の遠征に選抜された者がもう1人いる。友人K君である。K君も私と同い年であり、推薦入部で入部した部員であり、高校1年当時は同じクラスメイトでもあった。仲の良かったK君も初の遠征で、大きく喜んでいた。私とK君は2人で強く握手をし、「明日は絶対いい結果出そうぜ」そう約束をした。
その日の夜、明日の遠征に向けて準備をしていると、K君からLINEが入った。
「明日って、高校に集合してから全員でバスに乗り込んで遠征先に行くんだよね?」
私は「そうだと思うよ!マジ頑張るべ!7:30集合だからマジ遅れんなよ!」
そう返信し、2人で明日の確認を行った。遠征に行くための準備も万全だ。そう思い、翌日に向け、早めに就寝をした。
翌朝、無事時間どおり学校に集合した。学校に到着すると、私以外の誰もまだ来ておらず、1番乗りであった。数分後、友人K君も到着し、合流した。2人で今日の試合の目標や、サインの確認をし、他の部員の集合を待ったが一向に現れなかった。すると、見覚えのある先生の姿がこちらに向かってきた。I先生である。I先生は遠征に行かない居残り組の練習を受け持つ野球部のコーチであり、私たちを見るなり「なんでお前らがここにいるんだ!」と強く呼びかけてきた。私とK君は何のことを言っているかわからず、「今日の遠征についていくので、ここでバスを待っています。」と答えた。
するとI先生から衝撃的な発言を浴びせられた。
「あほ。遠征組は、遠征先に現地集合だぞ!!」
これを聞いた時に私とK君は顔を見合わせた。K君の顔は先ほど、本日の試合の目標を語る希望に満ち溢れた顔とは対照的に、絶望の淵に立たされ、強い後悔の念を抱く青ざめた顔に変わっていた。私も自分の顔は見ることができないがおそらく同じであったであろう。私たちは2人揃って集合場所を間違えていたのだ。初めての遠征に選らばれた2人で、2人揃って待ちがった情報を共有しあっていたのだ。
I先生はあきれたような顔をしつつ、私たちに3,000円を渡してくれた。「今からでも遅くないから、急いで電車で向かえ。謝ってこい。」そう告げられると私たち2人は貰った電車賃を握りしめ近くの駅までダッシュをした。前述したとおり、JRの駅は歩けば2時間ほどかかってしまう。そのため、JRの駅に着くために、ローカル鉄道に乗る必要がある。ローカル鉄道の駅までは、走れば10分ほどでつくため、2人でダッシュした。希望から絶望に変わった最悪の瞬間であった。
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続きについては随時更新します。