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愛するあなたのこと

優しい話し声。
一緒に隣で眠ったときにした、コショコショ話。
朝、2人だけで早起きをして食べた特別な朝ごはん。
夜中に聞こえた、冷蔵庫の、ウィーンウィーンという音。
炬燵で寝転がって、ぬくぬくのまま夜更かしをしてテレビを観たあの空間。
よく履いていた美しい形のスカート。
漬物をいじっていた血管の浮いた手の甲、長い指、綺麗な爪。
土をいじっていたときの横顔、鼻の形。
私をじっと見つめる、全てを受け止めてくれるような優しさを湛えていた、あの2つの目。
美しい手が握っていたスーパーの袋。
玉ねぎ、にんじん。
お肉、調味料。
家の灯り。
包丁の音。
お風呂の蓋を開ける音。
脱衣所のほっとする匂い。
帰ってきたと思う、あの家の匂い。

祖母が消えてしまったあの夜。
そばにいてあげられなかったことを、私は今でも悔やんでいる。
悲しんでいる。
まだ幼かった私には、あの場にいることは酷だったかもしれない。
でも、もし、いることができていたら、私はきちんとお別れを言うことができた。
私を愛してくれてありがとうと言うことができた。

あの手をもう一度だけ、握りたかったのに。

今、あなたの手が懐かしくて、泣きながら眠っているというのに。



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