親友が初めての彼女と沖縄へ初旅行に行くというのでついていってみた。

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 どうも、レイモンドです。

 初めての記事ということで、初めて繋がりでタイトルにもある通り、今回は僕がドッキリ企画として、親友カップルの初めての旅行を追跡したときのことを詳らかに書きましょう。
 親友カップルもこの出来事自体は知っているけれど、おそらく詳細は知らない。ともに行ったもう一人の親友も大枠は忘れていることでしょう。
 それならば、これを機に記録として残しておくのはちょうどいい。ブログとはウェブログの略称、つまりインターネット上の記録という意味なのだから。

 そんなわけで、僕たちの沖縄ドッキリ大作戦、沖縄旅行記の顛末をここに書き記す。

 2023年。小学校から高校まで母校を同じくする十年来の親友である砂原くんに初めての彼女ができた!
 彼女は「with」というマッチングアプリで知り合ったという数個下の女の子で、良い子で可愛らしく清楚だという話だけは聞かされていたものの面識はなかった。

 2024年3月。
 いつメン三人組で川崎・銀柳街にある焼肉屋「炙 -ABURI- 焼肉·ホルモン 川崎店」で朝まで飲んでいた時に、彼女と旅行に行くのだという話をチラリと砂原くんが話していたが、その時はそれほど機には留めていなかった。

 それから少し経ち、同じく小学校時代からの旧友である大俣くんと二人で飲んでいたとき、砂原くんがもうじき沖縄旅行に行くらしい、という話題になった。
 流行り病ももうすっかり落ち着いたし、シーズンから外れているこの時期であればそれほど高くもない。気温も真夏と比較したら過ごしやすいだろう。
 
 大俣くんは、砂原くんの彼女とは2023年10月に横浜・赤レンガ倉庫で開催されたオクトーバーフェストで一緒に飲んだことがあるとのことだったが、先述した通り僕は面識がない。
 ならば親睦を深める良い機会だと、横浜の中華居酒屋「香港厨房 横浜きた西口店」で300円の石焼きスタミナチャーハンを食べながら大俣くんが提案する。


「やっぱさ、最初はインパクトを与えた方がいいと思うのよ。それにどうせならオモロい方が良い。だから俺らも日程合わせて沖縄行ってさ、ドッキリ仕掛けようぜ」

「……ドッキリ?」

「そう、旅行のときに砂原に『一緒に飲まねえ?』って電話してさ。そしたら『旅行中だわ』って言われんべ? そんとき『彼女ちゃんと一旦ホテルのロビーに出てみてくんね』って強引に呼び出すんよ。そこで俺たちが待ち受けてるってワケ」

 いや、怖いだろ。と内心思った。ドッキリというより、単なるストーカーである。

 けれども確かにインパクトは大きいし、笑い話にならないこともないか。地元の友達が4月の平日に有給をわざわざ取得して沖縄旅行についてきて、平然と待ち受けているだなんて、そうある体験ではない。
 それに、こういうぶっ飛んだことは若いうちしか出来ないと思っている。20代で独身だからこそ、ノリと勢いで許される部分も大きいのではないか。30,40になってもこういうしょうもないことを、思いつきだけでやっていたいけどね。

 それに、もともと大俣くんとは旅行に行こうという話が持ち上がっていた。
 本当のところ僕は屋久島に行きたかったのだけど、彼はハイキングするのは疲れるし、何よりも虫が多いのがイヤだったようだ。
 一人で屋久島に行っても構わなかったが、大俣くんはどうしても身内で旅行をしたかったようで、砂原くんカップルへのドッキリという口実もつけて沖縄旅行を提案してきたわけである。

「面白いな」

 甘ったるい台湾紹興酒を飲み干して僕は首肯した。

 屋久島には誰にも言わず、どこかで長い休みを取って一人で行こう――そう思っていたが、それから数ヶ月後。台風10号により屋久島の「弥生杉」が倒れてしまったのだというニュースが耳に入った。
 樹齢3000年とも言われる名物スポットだっただけに残念だ。鶴岡八幡宮の大銀杏などもそうだが、昔からずっとそこにあるからといって、明日も同じようにあり続けるとは限らない。諸行無常だ。

 閑話休題。僕たちは横浜駅からほど近くの「Bar Tailor」で、どのようにドッキリを仕掛けるかを話し合った。

 一日目にいきなりドッキリを仕掛けると、残りの日数が気まずいだろう。
 「アイツらも沖縄に来ているし、どこかで監視されているかもしれない」というノイズがある状態で砂原くんカップルが十全に旅行を楽しめるかも怪しかったし、砂原くんの彼女は人が良いという話も聞いていたので「一緒に回ろう!」と提案されても困る。あくまで旅行のスパイス程度で収まりたいのであって、二人の時間を邪魔したいわけではないのだ。
 
 そんなわけで3泊4日の沖縄旅行のうち、2日目の夜にホテルのロビーで驚かすことに決まった。
 せっかく沖縄に行くのだから我々は我々で沖縄を楽しもう。
 1日目は国際通り周辺、2日目は砂原くんカップルが遊びに行くという瀬底島。その夜にドッキリを仕掛けて夕食くらいは一緒にとってもいいかもしれない。
 そして3日目は再び那覇市内へと戻ってくるという大まかな計画を立てた。

 別日にTeamsで画面共有をしながら、滞在するホテルや飛行機の予約をする。
 砂原くんカップルは羽田から大手航空会社を使って沖縄へと向かうだろう。
 二人は夕方に到着する予定とのことで、それよりも早い昼間に沖縄に着くようにスケジュールを組んだものの、羽田空港でうっかり鉢合わせというのは最悪だ。そのため、成田空港からLCCを使って我々は沖縄に向かうことにした。

 1日目は国際通りほど近くの「オリオンホテル那覇」、2日目は瀬底島の「ヒルトン沖縄瀬底リゾート」、3日目は沖縄の代表的な風俗街である辻が近くにある「那覇ビーチサイドホテル」の一室を予約する。

 それから数日が経ち、大俣くんが砂原くんとサシ飲みをした。
 この飲み会では、現地でバッタリ出くわすわけにもいかないので砂原くんカップルの沖縄での旅行計画や滞在ホテルをそれとなく聞き出すという目的があった。
 無事に大体のプランを聞き出した大俣くんから、すぐに次のようなLINEの通知が届く。

「1泊目 那覇市内。2.3泊目ヒルトン瀬底島。2泊目ホテル一緒だぞww」

 そんなことある? なんという偶然なのだろう!
 と思ったが、瀬底島でそれなりのホテルとなるとやはり目につくのはヒルトン。無難なところである。そうなるとそこに集約するのは当然で、運命ではなく必然だったわけだ。

 そうして来たる沖縄旅行当日。2024年4月20日。
 僕たちは旅行期間の平日は有給を取得し、成田空港に集合した。

 1日目に彼らと遭遇してしまうわけにはいかないので、那覇市内は慎重に行動する必要がある。
 とは言え、砂原くんの彼女はあまり酒を飲まないという話だし、飲み屋街をウロウロしていればうっかり出会ってしまう心配はないだろう。砂原くんは酒好きだが、飲めない彼女を引っ張って旅行先で居酒屋巡りをするはずもあるまい。
 
 成田空港内のフードコートで遅めの朝食を取っていると、砂原くんのストーリーをチェックしていた大俣くんが笑顔でこちらにスマホの画面を見せてくる。
 見ると、そこには彼女の手をさりげなく写した、さながら匂わせショットのような食事風景の写真が映し出されていた。

「同じ構図で写真撮って、俺たちの存在を匂わせようぜ!」

 大俣くんはそう言うと砂原くんのストーリーをスクショして構図を確認しながら、僕の手が写るようにスマホを構えて位置を調整する。
 僕は飲んでいた「Culotte」というクラフトビールを持ち上げてポーズを撮った。

 大俣くんがストーリーを投稿すると、しばらくして砂原くんから「レイモンドと一緒に遊んでるのか」という内容のDMが届く。
 手の主が僕のものであることにはすぐ気が付いたようだが、構図をトレースされたことには気が付かなかったらしい。僕たちはほくそ笑んで、保安検査場へと向かった。

 およそ三時間のフライトを経て、僕たちは那覇空港に降り立った。まだ4月で梅雨入りもしていないというのに、ジメジメと蒸し暑い。さすがは南国。
 自販機で売られている「琉球コーラ」というご当地飲料や、そこらに生えているヤシの木を見て、沖縄に来た実感を噛み締めつつ、ゆいレールに乗り込む。
 目指すは宿泊ホテルや国際通りの最寄りである牧志駅だ。
 券売機で沖縄県のICカードであるOKICAを買いながら、頭上にある路線図を指差して大俣くんが言う。

「この駅、おもろすぎる」

 見ると、そこには「おもろまち駅」と書かれていた。なんということだ。
 大俣くんが「おもろすぎる」といった文面とともに路線図を写真にストーリーに投稿すると、砂原くんから「つまんな」というような反応が届いた。それを見て大俣くんは顔をしかめて「コイツはおもろくない」と言った。

 ホテルへのチェックインを済ませ、国際通りに立ち並ぶ店を軽く巡る。沖縄県民曰く、国際通りの店は基本的に観光客向けで割高だったりするので、少しメインストリートから逸れた店で買い物すると良いとのこと。
 
 しばらく散策しているだけであっという間に日が暮れたので、そろそろ酒を飲もうと僕たちは手始めに、オリオンホテルの一階にある「オリオンビアダイニング」へと向かった。
 そこで「オリオン ザ・クラフト ヴァイツェン」という軽くてまろやかなビールを飲んだ後、夜の街へと繰り出す。

 「ホテル沖縄 with サンリオ キャラクターズ」にて、宿泊者でなくてもショップを利用できるとのことで、大俣くんの推しであるウィッシュミーメルのグッズを探す。
 ちょうどサンリオ人気投票が行われており、大俣くんはウィッシュミーメルへと投票シールを貼り付けた。

 
 国際通りのマクドナルドそばに立つキャッチたちに声をかけて、このあたりで安価に飲める大衆居酒屋はないかと尋ねると「国際通りのれん街」を紹介される。地下1階から2階の3フロアにまたがる飲食店街だ。

 見知らぬ街を訪れた際には観光案内や食べログだけでなく、そこらに立っているキャッチに尋ねてみるといい。何故かというと、キャッチはその街のことを意外とよく知っているのだ。探偵なんかがホームレスに聞き込みをしたりするのと感覚的には近いのかもしれない。
 夜の街で客引きを続け、他店舗のキャッチや酔っ払い客などと交流のあるキャッチには独自の情報網を持っている。積極的に客引きしているような居酒屋は避けた方が無難ではあるものの、客引きしている店員たちが勧めるエリアや店は案外良質であることも少なくはないのだ。

 
 僕たちはキャッチに感謝を述べて地下に降り、琉球横丁にある「焼肉オリオン」で夕食をとりつつ軽い乾杯を交わした。
 どうせならゴーヤチャンプルーや、にんじんしりしりのような沖縄料理を食べても良かったかもしれないが、迂闊にそういう沖縄料理店へ行くと砂原くんカップルと遭遇するリスクがあった。昔から意外と考えていることが近いのだ。

 
 店を出てフラついていると「国際通り屋台村」に辿り着く。その名の通り様々な飲み屋が軒を連ねており、ちょうど「泡-1グランプリ」なるイベントが開催していた。
 どうやら対象の泡盛を頼むとコインがもらえて、コイントスゲームにチャレンジできるのだという。遠くに設置された皿に向かってコインを投げ入れて、見事乗せることができたら景品をプレゼントというシンプルな催しだ。
 皿の大きさによって景品のグレードが変わり、その中には「琉球王朝」の泡盛を着た沖縄限定キューピーストラップがあった。大俣くんはそれを喉から手が出るほど欲しがり、僕たちはコイントスゲームに参戦するべくハシゴを重ねることになる。
 
 泡盛含めかなりの量を飲んだ僕たちはベロベロになりながらコイントスにチャレンジしたが、結果として何も得ることはできなかった。
 あれはかなり難しい。コインを投げ入れると乗りはするのだけど、力が強すぎて勢い余るのか、皿の素材の影響か、滑り落ちてしまう。
 イベントのお姉さんも「あ〜惜しい! でも上手ですね!」と褒めてくれるものの、A賞どころかB賞の皿でさえ、最後までコインを乗せることはできなかった。単純にセンスがないだけなのかもしれないけれど、他のチャレンジャーたちも失敗していたのでそれなりに難しいのだろう。

 屋台の多くが店を閉めてしまい、僕たちのチャレンジは強制終了となった。大俣くんは未練がましく、メルカリで泡盛キューピーを探していた。ちなみに通販なら楽天市場でワンコインちょいくらいで買えます(送料別)。

 屋台村を出てから再び彷徨い歩き、僕たちは「エイトメン 沖縄」というバーに辿り着く。そこで常連らしき姉ちゃんたちや、妙に艶かしい東南アジア系の男性店員と酒を飲み交わすことになった。女の子の中には横須賀出身だと話す子がいて、大俣くんは酔いながら「あの子が可愛い」とうわ言のように言い続けていた。

 僕たちは外のテラス席で眼下の街を眺めながら、男性店員がスマホで流すジョングクの「Seven」を聴きながら酒を飲む。「俺たちの世代のK-POPは少女時代とかだったよなぁ」と話していると、店員は曲を「MR.TAXI」に変えて踊り始めた。すごいキレだよ。
 店員のキレキレなダンスを尻目に大俣くんは、フリーランスになったら沖縄に移住して働きたいという話をしていた。よほどこの土地が気に入った様子だ。
 
 帰りに男性店員へ「今この辺でやってる店で美味しいとこありますか?」と聞くと、「どん亭」と返ってきた。牛丼のチェーン店で、「どん亭スペシャル」という牛肉もカツも乗った夢のようなカレーが美味しいらしい。
 てっきり沖縄ローカルの店舗なのかと思ったが、調べてみると本社は横浜で、今では沖縄に3店舗と川崎に1店舗しかないもののかつては関東でも展開されていたようだ。

 店を出てどん亭へと向かっていると、気の良いサラリーマンのおっちゃんが話しかけてくる。
 せっかくなのでおっちゃんをセンターにして記念写真を撮ってから、同じくこの辺で今やっている美味しい店を尋ねると「どん亭」と言われた。
 そんなに美味いのかよ。けれども時間は午前2時。今思えばこうしたチェーン店くらいしかやってる店はなかったのかもしれない。
 
 そして衝撃的なことに、先ほどまで我々が楽しく飲んでいたバーはおっちゃん曰く有名なゲイバーとのことだった。まさかと思ってGoogleマップで調べると本当にゲイバーという情報が出てくる。どうやら「ゲイの聖地」とも呼ばれているらしい。
 酔っていて全く気が付かなかったが、通りで男性店員がやけに艶かしく、投げキッスを飛ばしてきたりしたわけだ。ホイホイ入ってしまったが、ノンケだって構わず食っちまわない、優良店でした。

 ちなみに「どん亭スペシャル」は男子中高生なら大喜びしそうな代物で、見た目そのままの求めていた味がした。これこれ、こういうのがいいんだよな。近所にあれば月に数回くらいの頻度で食べるかもしれない。

 翌日。深夜まで飲んでいた僕たちは無理やり起床してホテルのハーフビュッフェで朝食を済ませた。数時間前に散々飲み食いしたばかりだというのに、果物やらなんやらを大量に持ってきたおかげで危うく死にかける。

 この時点でかなり酒飲みの沖縄を満喫してしまっているが、本来の目的は砂原くんカップルへのドッキリである。
 僕たちは道中「アメリカンビレッジ」に立ち寄りながら、勝負の場所となる瀬底島へと向かうことにした。

 那覇市を出発する前に国際通りでアロハシャツとサングラスを購入し、装備する。せっかくの南国なのだから、観光客ならばそれに相応しい格好をすべきだろう。さらには変装にもなる。一石二鳥だ。

 それにしても、いくら那覇のメインストリートと言ってもかなり人が多いし、警備員も多く立っている。何事かと思っているとレッドカーペットが敷かれているのが目に入った。カメラなども複数用意されており、何やら騒々しい。

 見ているとカーペットの上を、道沿いに設置された柵の向こうから声援を送るファンや子どもたちにファンサービスをしながら俳優や芸人が歩いてきた。
 どうやらこの日は「第16回沖縄国際映画祭」が開催されていたらしい。なんと、16年続いたこのイベントはこの日を最後に幕を下ろすのだという。歴史的な瞬間に立ち会っていたのかもしれない。

 僕たちは群衆を掻き分けながら国際通りの店を散策する。
 大俣くんは「マイストアパスポート」という全国のスタバでスタンプを集めることができるサービスを始めたということで、その記念すべき最初のスタンプとして「スターバックスコーヒー 那覇国際通り牧志店」へ入店した。

 昼過ぎ。我々は瀬底島のヒルトンへと到着した。
 砂原くんが投稿したストーリーによって、彼らが使用しているレンタカーは判明している。こういうことがあるからね、迂闊にSNSに投稿すべきではないのですよ。旅行先の写真も数日置いて投稿するのが良いという教訓ですね。

 彼らの乗る日産の軽自動車の姿をホテルの駐車場で軽く探してみたが、どうやらまだ来てはいないらしい。僕たちは鉢合わせになる前にそそくさとチェックインを済ませた。
 ツインベッドの客室は広々としていて、ベランダからは瀬底ビーチやホテルについている屋外プールが一望できる。
 浴室とベッドルームの間はガラス張りになっており、カーテンを閉めなければ入浴している姿が丸見えだ。衣類を着たまま、大俣くんがくねくねと浴室でポーズを取った。なるほど、これは熱々のカップルには良い部屋かもしれない。
 
 オリオンビールを飲みながらぼんやりと二人、ベランダの椅子に座って瀬底の海を眺めながらビールを飲む。
 天気はあいにくの曇天で「瀬底ビーチ」の透き通る美しさは実感できなかったものの、やはり海沿いのホテルというのは良い。こうして南国のビーチを眺めながらビールを飲むというのは何とも乙なものだ。

 
 客室の散策に戻った僕が冷蔵庫などを確認していると、大俣くんが「おい!」と緊迫した様子で僕の名前を呼んだ。
 何事かとベランダへ戻ると、大俣くんは「あれ!」とホテルの屋外プールを指差す。
 その先には、ついさっきまで誰一人として入っていなかったプールに男女の姿が見えた。視力の悪かった当時の僕であってもあのヘアスタイルを見間違えるはずがない。あれは砂原くんだ。
 
 「ひょー! つめてー!」という砂原くんの声と、その彼女の笑い声がベランダまで響いて聞こえてくる。
 大俣くんはニヤニヤとスマホを取り出して、彼女が映らないように配慮しながらその姿を激写した。まるで週刊誌のパパラッチだ。案外、才能があるのかもしれない。
 そうして二人でまたぼんやりと椅子に座って、プールで戯れる砂原くんカップルを観察する。そんなとき、大俣くんがぼそりと呟いた。

「俺たち、会わなくても良くね?」

「あんだけ楽しんでるのを邪魔すんのもな」

「俺たちは俺たちで普通に沖縄旅行楽しんでさ、あとで実は来てましたって感じにするか」

「そうだな。こんなとこまでついてきてるの知ったら、当事者からしたら怖すぎるし事後報告にした方がいい」

「女との旅行中に声かけられたら、俺だったらガン無視するね笑」


 そうして、僕たちは砂原くんカップルの邪魔はせず、ただ普通に沖縄旅行を満喫することにしたのだった。
 決して怖気付いたわけではなく、あの楽しそうな様子を見ているとそこに横槍を入れるのはあまりにも野暮だと感じたのだ。考えてみれば、交際を始めてから初めての旅行なわけだし。

 沖縄2日目、瀬底島。

 夕方、砂原くんカップルに見つからないようクリアリングをしながら慎重にホテルを出て、ホテルから直接繋がる瀬底ビーチへと向かった。
 近くまで来てもやはり本来の青さを見ることはできなかったが、それでも澄んだ海の波打ち際である。
 しばらく海岸沿いを散策して海を眺めているとすっかり日が沈んでしまったので、そろそろ夕飯にしようと引き上げることにする。

 ヒルトンに併設されているレストランでは砂原くんカップルに出くわす可能性もあるため、あえて少し離れた場所まで歩いて行って食事することにする。
 ビーチからホテルの出入り口を目指して歩いていると、「やべぇ!」と大俣くんが悲鳴を上げた。彼の視線の先を見ると砂原くんのようなアロハシャツを着た男が後ろから歩いてくる。まったくの別人だった。

 神経質になりすぎだなと笑いながら歩いていると、見覚えのあるレンタカーが今まさに目の前の駐車場から出ようとしていた。見間違えでもなく何でもなく、砂原くんの彼女が運転するレンタカーだった。
 僕たちは暗闇の中に身を隠し、これから本島へと食事に出かけるのであろう二人に向かって敬礼をする。テールライトが見えなくなったことを確認して、僕たちは再び歩き出した。

 夕食は暗い森を抜けた先にある「fuu Cafe」でとることにした。ピザやタコライス、酒なども提供している立派な飲食店だ。
 入り口ではラブラドール・レトリバーがすやすやと眠っており、店に入ると大口を開けたハブが詰められているハブ酒が目に入る。

 店主は「ハブを一年弱絶食させてお腹の中を空っぽにさせてから、生きたまま泡盛なんかに数年単位ほど漬けて熟成させることでハブ酒が出来上がる」と嬉々として話してくれた。あまりに製法が怖すぎる。誰が最初に思いついたんだよ。

 木で統一された落ち着いた店内に、海ぶどうとアグー豚の丼仕立てを始めとした上質な食事にウマい酒。この沖縄旅行で口にしたものの中で一番美味しかったと言っても過言ではない。なにより雰囲気が良かった。

 ホテルに戻ると、大俣くんは部屋中の電気を消してからベッド脇の可動照明のスイッチだけ付ける。
 何をしているのかと見ていると、彼はそのままテレビ横の壁際に立ち、「こっちにライトを向けてくれ」と言った。

 疑念を感じながらライトを動かして大俣くんに光を当てると、丸い光が大俣くんの姿を照らし出した。彼はそのまま「新宿は豪雨〜」と歌い出した! 「群青日和」の椎名林檎じゃねえか!

 なんという発想だ。僕は撮影させてくれとスマホを取り出すと、大俣くんは恥ずかしそうに「撮らなくていいわ」と他の電気をつけて、そのままベッドへと寝転んだ。

 
 もう一本ずつ残っていたオリオンビールを飲みながらテレビを見る。
 NHK総合では「世界の居酒屋10min.」という番組でアメリカ・ニューヨークのハーレムにあるバー「67」を紹介していた。調べてみると2019年11月に放送されていたものと同一内容のようだ。
 本土とラグがあるというような話は聞いていたが、いくらなんでもこんな数年単位でズレることなんてある? と思ったが、単純にNHKで再放送していただけだったらしい。安心したよ。

 番組が終わったのでテレビ朝日に切り替えると、「EIGHT-JAM」にてデビュー25周年として宇多田ヒカル特集が組まれていた。番組を見ていると大俣くんがイビキをかいて寝落ちしたので、今日は早く寝ようとテレビと電気を消して僕も眠りについたのだった。

 翌日。沖縄3日目。

 僕たちは瀬底のヒルトンからチェックアウトして「美ら海水族館」へと向かっていた。やはり沖縄の代表的な観光スポットといえば美ら海である。神奈川で言うなら江ノ島レベルの定番スポットだろう。
 
 「ステーキハウス88 美ら海店」で遅めの朝食をとり、美ら海水族館へ。
 やはり曇天で、綺麗ではあるものの「エメラルドビーチ」はそれほどエメラルドではなかった。

 ビーチを歩いていると、うまい具合にカーブを描いて切り立った岩を発見した大俣くんが、その下で体育座りをする。洞穴で暮らすハチワレの真似をしていたらしい。ちなみに体育座りは落とし穴に落ちたハチワレの真似。写真を撮ると彼は喜んでストーリーに投稿した。

 那覇市への帰り道、昼食がてらアメリカンビレッジに再訪した僕たちはシーサイドスクエアにある「GiGO 北谷店」に来ていた。
 トイレを借りる目的だったもののクレーンゲームが大好きな大俣くんは、よせばいいのにフィギュアやぬいぐるみなどにお金を投入しては散財する。
 最終的に「ホロライブ〜放課後のねぽらぼ~ ビッグアクリルスタンド」を手に入れて満足していた。どうやら獅白ぼたんのビジュアルがお気に召したようだ。お姉さん系好きだもんな。

 国際通りへと戻ってきて、「ちぬまん 国際通り牧志店」で島唄ライブを聴きながら海鮮とともに酒を飲む。「涙そうそう」なんかも沖縄の曲として定番だが、乾杯の音頭としても盛り上がれる「オジー自慢のオリオンビール」は島唄ライブでのセットリストとしては定番中の定番らしい。
 「おもろ 21年古酒」という泡盛を「これはなかなかおもろいな」などと言いながら飲み、いい具合に酔ってきたところで宿泊先の那覇ビーチサイドホテルへと向かう。

 東南アジア系のタクシー運転手はかなり気さくに話しかけてくる人だった。やはり南国の人は明るく外交的な傾向にあるのだろうか。
 「今日は旅行?」という質問に「sightseeing」などと返していると、「お兄サン、アメリカの人?」と誤解された。どう見ても外見はアジア系で日本語もばりばり喋っているだろ、と思ったが日系アメリカ人という可能性もあるわけだ。中途半端に英語を使った僕が全面的に悪い。

 運転手は「お姉サンとか声かけないの? ナンパ! いけるヨ!」や「辻は夜のお店が有名だからね! 行くとイイヨ! ホテルから歩いてすぐ!」などと、ややカタコトの日本語でものすごく女を勧めてくる。
 若い男ふたりの沖縄旅行。そういった旅行の楽しみ方もあるのだろう。しかし大俣くんはかなりの潔癖で、ワンナイトはもちろん他人との間接キスも生理的に厳しい男である。僕は僕で、風俗や見知らぬ女には毛ほどの興味もないのだった。
 僕たちは疾風怒濤の女押しを聞き流しながら、窓の外の景色を眺めていた。

 沖縄旅行最終日。4月23日。

 夜遅くにホテルへは帰ってきたし、朝も遅い時間まで眠っていたためにホテル横にある公園のバスケコートでバスケをしたり、すぐ近くのゴルフ練習場で打ちっぱなしをすることもできなかった。
 あれだけタクシー運転手も勧めてきたわけだし、辻に立ち並ぶ風俗店の外観だけを観光として見て回る。

 その後、近くに鎮座する沖縄総鎮守と名高い「波上宮」を参拝していると豪雨が僕たちを襲った。こうしたスコールも南国の特徴なのだろうか。
 
 午前中は大雨に見舞われたが、午後には天気も回復していく。
 国際通りの入り口にある巨大スクリーンのあしびビジョンでは、沖縄県のご当地バーチャルタレントである根間ういの姿が映し出されていた。
 お土産を買い、砂原くんにも二人でお金を出し合って壺に入った泡盛をお土産として買うことにする。この泡盛を渡すときに「実は俺たちも沖縄に行っていたんだよ」と、事後報告の形でドッキリを仕掛けることにしたのだ。

 
 「JUMBO STEAK HAN'S 久茂地本店」で昼食をとり、いよいよ帰りの飛行機の時間が迫ってくる。

 最後にゆいレールで奥武山駅まで行って「沖宮」を参拝することに。空手の聖地でもあり、武道神ブサガナシーのお守りなども売られていたり、武道を始めとしてスポーツと縁が深い神社のようだ。
 本土復帰50周年記念の御朱印を授与していたので、御朱印集めに凝っている母親へのお土産として授与してもらうことにする。
 他にも「音守り」という、沖縄のミュージシャンがプロデュースした楽曲を聴くことができるお守りなんかも販売されていた。お守りに書かれているQRコードを読み取ることで聴けるらしい。すごい時代になったものだ。

 那覇空港へ戻り、最後に空港内の売店でお土産を追加購入する。大俣くんは元々申請していた機内持ち込み手荷物の重量をオーバーしてしまったため、泣く泣く割高な荷物追加料金を払う羽目になった。
 行きの飛行機ではプライムビデオで端末に保存した『ちいかわ』を見ていたり、音楽を聴いていたりして過ごしていたが、帰りの飛行機では眠っていたためあっという間に成田空港へと帰ってきた。

 
 4月の関東の夜。蒸し暑かった沖縄と比べて肌寒い。

 沖縄で散々飲み歩いた僕らではあるものの、成田から横浜に帰るとなるとかなり遅くなってしまうし、手荷物も多く、なんだかんだで疲労も蓄積していた。なにより平日である。明日も仕事が待っていたため、僕たちは大人しく家に帰ることにしたのだった。
 
 後日、砂原くんのお土産として購入した古酒は大俣くんの家に配達された。
 大俣くんは砂原くんとのサシ飲みで事後ドッキリをした後に、さっさと自宅から持って行ってほしかったらしく、砂原くんを家まで引っ張ってきてそのまま酒壺を抱えさせて持ち帰らせたようだ。
 砂原くん曰く、僕たちが金を出し合ったその酒はかなり美味しかったとのこと。きっとそれは友情の味だよ。
 
 事後ドッキリを受けた砂原くんは「地元の友だちの友情が強過ぎてヤバい」といった具合に、彼女や会社の人たちに触れ回った。
 案の定、みんなからは「行き過ぎた地元愛」とドン引きされたようだ。僕も客観的に聞いていれば同じ返しをしただろうよ。

 結局、元々大俣くんが口実として使った「砂原くんの彼女との顔合わせ」は果たされなかったわけだが、それについては数ヶ月後、7月6日に実現することとなる。
 その日の僕は下北沢を散策した後、大学時代の友人たちと新宿近辺で飲んでいたわけだが、大俣くんから唐突に次のような連絡が入ったのだ。

「飲み会中! 砂原の彼女ちゃんが会いたいって言ってるから、こいよ」


 砂原くんカップルが同棲を近々始めるということで、砂原くんの彼女が勤めている職場の先輩が家電を譲ってくれるということになったという。
 大俣くんは先輩から家電を受け取ってから、新居を借りるまで一時的に家電を保管するトランクルームへの搬入と車の運転を手伝うことになり、その労いも兼ねて飲んでいるとのことだった。
 
 大俣くんは180cmを優に超える長身で、体重も100kg弱ある巨漢である。さらには綾野剛を目指して伸ばし始めたという口周りの髭は、ジェイソン・モモアのようなイカついオヤジを彷彿とさせる。ちなみに彼の母親は「鬼瓦権造」と形容していた。ビートたけしがかつてバラエティ番組で演じていたキャラクターだが、調べてみると確かに雰囲気が近い。けれども、実の息子に使う形容ではないだろ。

 そんな彼だが実はかなりの人見知りなのだった。その上、砂原くんがベタベタと彼女に抱きついて匂いを嗅いではドヤ顔をするという光景を延々と見せつけられて気まずくなったらしい。彼らは車内でもずっとイチャつき続け、居酒屋でも「イエス、フォーリンラブ」と言わんばかりにこちらを見てくるのだと、彼は僕に対して暗にSOSを発してきていたのだった。
 
 そんなことを知る由もない僕は、都内にいたし手伝いをしたわけでもないのに飲み会の途中で参加するのも悪いと断るつもりでいた。
 いたのだけど、あまりにしつこく大俣くんが誘ってくるものだから「本当に来てほしいって言ってるんだな?」と再三確認を取り、仕方ないので大学の友人たちには別れを告げて、小田急江ノ島線に乗り、現場である藤沢駅へと急行したのである。

 そうして合流した先で、のちに大俣くんが「お前ら別れるかと思った」と言うことになる「藤沢事件」が発生するのだけど、それについては機会があれば。

 
 今回の記事を総括して言えることは3つある。

 ひとつ、沖縄には鉄道がない。那覇空港からてだこ浦西駅まではモノレールが通っているが、ほとんどの移動手段は車になるだろう。
 しかし、そうなると僕たちの旅行のように酒を飲みながら各地を転々とすることは難しい。
 一晩寝たくらいじゃアルコールは分解されないので、レンタカーでの移動は酒気帯び運転となってしまうためだ。沖縄はその辺ゆるいイメージもあるが、ダメなものはダメである。レンタサイクルもダメですよ。
 となるとバスかタクシーが基本的な手段となるが、いずれにせよ金なり時間なりがかかってしまうので、飲み歩きを予定する場合にはある程度スケジュールなどしっかりと事前に決めておいた方が良いかもしれない。
 
 ふたつめは単純な話だ。
 気の置けない友人とホテル近くの居酒屋を延々とハシゴして、気の向くまま飲み食いするというのはとても楽しく、ストレス発散にもなる。
 多少金はかかっても、こうした時間は大切にした方が良い。人間とは社会的動物なのだからね。
 
 そして最後に、良識あるみんなは友人カップルの旅行にはついていかないようにしようね!

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