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2-3 アーヴィング・ストーン『クラレンス・ダロウは弁護する』
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アーヴィング・ストーン『アメリカは有罪だ -アメリカの暗黒と格闘した弁護士ダロウの生涯』 Clarence Darrow For the Defense 1941
アーヴィング・ストーン Irving Stone(1903-89)
ペリイ・メイスン人気を側面から証明するような伝記が一冊ある。実在した正義の弁護士を描いて興味深い。ストーンが著した伝記は数多く、その対象も、ジャック・ロンドン、ゴッホ、リンカーン夫人、ミケランジェロ、フロイトと、時代もジャンルも多岐にわたっている。
この本の翻訳は、雑誌連載がまとめられて単行本化されたさい、なぜか『アメリカは有罪だ』(小鷹信光訳 サイマル出版会)というタイトルに変更されている。
ダロウは、二十世紀初めのアメリカ労働運動史には欠かせない名前だ。IWW(世界産業労働者組合)の指導者を陥れるためにピンカートン探偵社はスパイを傭った。そのフレーム・アップ裁判の弁護士としてダロウは招かれた。コロラド州ボイシー。これはホームズ物語のモデルになった事件とは別だ。ダロウ弁護士は、IWWと主義を共にしたわけではないが、社会的不公正と闘うために弁護を引き受けた。
この伝記は、アメリカ的正義の伝統と左翼ポピュリズム思想とが幸福な蜜月を過ごしていた時代の産物といえるだろう。ストーンの筆致は講談のように面白い。
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