京都タワー
Tower of Music Lover.
京都市出身のロックバンドくるりが2006年にリリースしたベストアルバム。ジャケット写真は京都の夜景に映える美しい京都タワー。
京都の玄関口にして観光の拠点でもあるJR京都駅北口の正面に聳え立つ京都タワー。景観を守るために厳しい高さ規制が敷かれている京都の街並みの中で、異彩を放つ高さ131mを誇る白い鉄塔。
東京への往来をする際に何度も訪れた、僕の思い出の場所。
兵庫県に住む人間が東京へ行こうと思ったら新大阪から東海道新幹線を利用するのが一番ベターかつスマートな移動手段なのだが、しょっちゅう携帯の回線を止められる僕に新幹線を利用する余裕などあるはずもなく、もっぱら夜行バスのお世話になっていた。
東京行きの夜行バスは運営会社によるが大阪や神戸よりも京都から乗った方が走行距離が短い分値段が安く設定されていることがあり、その僅かなバス代をケチるために僕はわざわざ京都駅まで赴いた。
阪急京都線烏丸駅で京都市営地下鉄の烏丸線に乗り換え、四条駅から数えて二つ目の京都駅で降車して改札を出る。地下街ポルタをウロウロしてから階段を上がると目の前に現れる京都駅と京都タワー。
京都駅ビルは「っぽくない」という理由で一部の地元市民や観光客からは不評らしいのだが、僕はむしろ歴史的建造物が立ち並ぶ古都らしからぬ近代的で迫力のある佇まいがとても好きだ。開放的な空間はまるで空港のような、ここから遠くに行くんだという喜びに満ちた高揚感を味わえる。
そんな西日本最大級のターミナル駅と並び立つのが京都タワーだ。海のない京都の街を照らす灯台をイメージして造られた京都のシンボル。展望台があるのは言うまでもなく、ホテルも入居していて、何もせず名店街をウロウロしているだけで十分楽しかったりする。
そして京都タワーには地下三階に大浴場がある。大人750円。有り難いことに深夜まで営業しているので、夜行バスに乗り込む前にここのお風呂には何度もお世話になった。大文字焼きの壁画を眺めながら熱い湯船に浸かり、リュックを背負って歩き回った身体の疲れを癒す。
僕のような貧乏旅行者や海外からやって来た外国人観光客、寝る前にひとっ風呂浴びに来た近所で暮らす地元住民で賑わう、京都で一番高い鉄塔の地下に潜むニッチな人気を誇る大浴場。時代と共に消えつつある、昔ながらの日本の銭湯。
ご多分に漏れずと言うべきか、僕の愛した京都タワー大浴場も暖簾を下ろすことになった。中国からやって来た迷惑なウイルスの影響で客足が遠のき、業績が悪化し営業を続けることが難しくなったらしい。
もう夜行バスを利用することもなければ京都に行く用事もないので僕は特に困らないのだが、あの狭くて古い、年季の入った何ともユニークなお風呂屋さんがなくなってしまうと思うと、少しだけ寂しい思いがする。
最後にもう一度行ってみようかな。でもそのためだけにわざわざ行くのは流石に面倒くさいな。
近くて遠い、思い出の京都タワー。