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掌編小説【森の街の熊】
昔、海のことを「ただの水たまり」って言った猫がいるらしいね。だからさ、聞いてみたんだ。川の中で待ち構えてさ。聞いてみたの。
「海って、なに?」
「何ってお前、そうだな。街だよ。大きな街。広いし、楽しいけど、敵も多いから大変だよ」
「じゃあ、川と海なら、どっちが好き?」
「なんだい、そんな変な質問、聞いたことないね。川は敵が少なくていいけど、流れを変えることがないから疲れちゃうんだよな」
「じゃあ、海が好きってこと?」
「好きとかどうとかじゃないんだな。必要だから住んでるだけ。それが街」
「ふーん。ところでさ、街ってなに?」
鮭は疲れた顔して逃げてったよ。とりあえず猫の言ったことは嘘みたい。海は街なんだって。水の街、海。
鮭に聞いても分かんないからアレクサに聞いてみたんだ。
「アレクサ、街ってなに?」
「街とは?街とは人が集まってセイカツし、ジュータクやショーテンがミッシューシテデキ」
「分かったよ。ありがとう」
本当は全然分からなかった。
つまり「水の街、海」には人がたくさんいるってことだね。
分からないなら見てみようと思ったんだ。川の隣をずっと歩けば、海に着けるって鮭が言ってたから。
どっちに向かって?
とりあえず出発してみよう。海に着いたらそれが正解の道、着かなかったら不正解。反対側に進めばいいってことだもんね。
海にはたくさんの人とたくさんの敵がいるってことは分かった。どうしてみんなそんなところに住むんだろう? 僕の住んでいる森には敵なんて全然いないのに。みんなが僕の森に住んだら、あの森はとっても安全な、楽しい街になるってことだよね。海に着いたら、敵じゃない人たちを誘ってみようっと。
海にはまだ着かないけれど、森はもう抜けた。この辺りは行っちゃいけないって言われてる。敵がいるんだって。ちょっと急ごうか。
あ、人だ。人がいるってことは、ここは街かな? 話しかけてみようと思ったけど、なんだか忙しそうに誰かと話してる。残念。
たくさんって何人だろう。何人いたら街なのかな。アレクサに聞いておけばよかった。
さっきの人がこっちを見てる。近づいてみよう。その人を見つめながら1歩だけ進む。
「パァン!」
びっくりした。そっか、あれは人じゃなかったのか。敵だったみたい。間違えちゃった。
周りの建物からも敵が顔を出してくる。みんなびっくりした顔をしている。僕が1番近くだったんだから、1番びっくりしてるのは僕なのに。
せっかく街かと思ったけど、敵ばっかりだからここは違うのかな。僕の森に誘うような人もいなかったし。やっぱり海まで走ろう。優しい人がたくさんいるといいな。
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