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真夏の夜の悪夢 -後日談- 魅惑の囚人ルート

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世間を震え上がらせた、とある人気バンド"A"を襲った殺傷事件から半年以上が経過し、被害者四人(実質三人)の心身の回復を待ってから、本人達の強い意志の元、バンドは活動を再開した。トラのポジションは空席のまま、脱退等の正式な告知はされなかった。
トラの強烈なラブパンチ💖(本人談)によって、転生レベルのえげつない内部振動を味わった三人の仲間は、それでも塞ぎ込むことなく、活動再開の道を選んだ。

「だーからー!皆帰りたくなかったんでしょ?ずっとあそこで遊んでたかったんでしょ?東京帰るのめっちゃ嫌がってたじゃん!じゃあ、皆で隠れりゃいーやって思ったの。皆、絶対見つかんない場所に隠してやろって。それが今俺のやるべきことだなって」

法廷でトラにそう言わしめたのは、いつまでも夏休み気分でいたい、都会の煩わしい喧騒や、休みが終わればまた3ヶ月先までどん詰まりのツアー日程の渦の中に戻りたくない、と願い、実際にそう口にしたメンバー自身でもあったからだ。
トラにしてみれば、世を騒がせたこの大惨事も、"仲間のためにやって当然のことだった"、とでもいうのだろうか…。

この事件で唯一命を落としたマネージャーのO氏は、自身も若き日にバンド活動に打ち込んだ経験があり、ソロになってからは様々な事務所を渡り歩き、彼らのような将来性ある若いバンドの世話をするのが、ことのほか好きだった。それこそ、まだ成人して間もないような、時に子供っぽさ全開のAメンバーの自由奔放さにも、持ち前の軽快な身のこなしをもって応じていたが、あくまでも日程は日程であり、事務所と取り決めた期日は刻一刻と迫っていた。
その日が近づくにつれ、メンバーの頭上にどことなく重い空気が漂い始めたのが、誰の目にも分かった。そして、それを掻き消すかのように、いわゆる酔った勢い、悪ノリで始まったのが、飲みかけのペットボトルを使った「人間スイカ割り」だった。
あの時は、誰も想像すらしなかった。軽い気持ちで始めた悪ふざけが、仲間の心に入ったヒビを直撃し、世界を変えてしまうなんて。

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バンドAの気質は、楽曲と同様に自由気ままで、5人のメンバーは例えツアー中の出先であっても、行き先も告げずふらっと買い物や見物に消えることがよくあった。それほどに好奇心旺盛で、気まぐれなメンツが揃っていた。…いい意味で互いの行動に無関心だったため、若いのに安定した活動ができていた、ともいえるだろう。
普段は注意深くメンバーの動きを追っているマネージャーも、この時ばかりは彼らの行動に対して甘くなり、彼らに自由を与えようと、"善意の無関心"に務めた。
皮肉にも、その寛大さが危険の察知を遅らせ、被害を拡大してしまったといえる。

俺達は、子供じみたワガママから、取り返しのつかない犠牲を払うことになった。もうあんな失敗は許されない。苦い死の淵を味わった、この経験を全力でバンドに生かさなければ、生きているとはいえない。
もはや失うものはない。彼らの行動は早く、そして大胆だった。文字通り人が変わったようなメンバーの姿に、マネージャーを失った事務所も元気付けられ、その活動を後押しした。

殴られた弾みで崖から滑り落ち、足を負傷したボーカリストは、地獄めいた禍々しい装飾のステッキを、ライブパフォーマンスの道具として愛用した。
頭部を殴られ、古いハンモックでサナギよろしくぐるぐる巻きにされたドラマーは、顔が薄らと隠れるような漆黒のターバンを頭部から上半身へと巻いて、妖艶な雰囲気を漂わせた。
暗がりで狩猟者に追われ、九死に一生を得た若いギタリストは、今もなお恐ろしい何かから逃げ回るように、ステージの内と外を境目なく駆け巡った。
己の致命傷すらも武器にする。それぞれの強く個性的なパフォーマンスが、舞台衣装として彼らを引き立て、会場に集まったファンを魅了した。

更に、タカシの裏人格の覚醒によって、バンドの作曲力は劇的に向上した。真に愛する者への思いを鬼気迫る旋律に乗せ、これまでの代表曲をも上回る、妖しげな狂奏曲を次々と生み出すタカシ。そのおかげでバンドは、四人体制になっても問題なく活動を続行できた。
タカシは様々な規制をかいくぐって、服役中のトラと定期的に刑務所で面会し、その都度得たインスピレーションを作曲に全て注ぎ込んでいるという。

特筆すべき点がもう一つある。逮捕後も、バンドメンバーとしてのトラの人気は衰えず、むしろ法廷での芝居がかったサイコな振る舞いが、傍聴席に詰めかけたファンを熱狂させた上、そこそこ知名度のある真面目な週刊誌や、毎度いかがわしい記事を書くことで有名なゴシップ誌らがこぞって拘置所に取材に訪れ、予期せぬ方面での人気に火がつく結果となったのだ。

トラ自身も、各メディアの取材やメンバーの面会を概ね歓迎している。最近ではタカシが仲介役となり、トラの"狂気の犠牲者"たる三人のメンバーとの面会も実現し、少しづつだが、関係が修繕しつつあるようだ。

トラは独房にパソコンを購入し、昼食後や就寝前の自由時間を作詞作曲、イラスト等の制作に当てており、メンバーとの面会時に、手書きの楽譜やデモテープ、アートワークなどを手渡しているようだ。
また、法廷中に思いがけず獲得した熱狂的なサイコ・ファン達に向けても、自身のサイン入りグッズやポラロイドを定期的に販売しており、一般のファンにも流通。文字通りのリモートワークを駆使した(?!)メンバーとしての活動にますます磨きがかかっている|ΦꈊΦ☰)🫶🎶🔪💕

関連イラスト:怠惰な囚人


PON's Sweet Revenge

あの事件から数年。最年少だったポンもすっかり大人になり、絶対に会おうとしなかったトラにも徐々に刑務所で会うようになった。やがて少しだけ言葉を交わすようになり、普通の状態のトラと話すうちに、段々と懐かしさや恋しさを感じるようになり、気づいたら仕切りのない場所で会うこともできるようになり、手渡しで自作グッズの交換もできるようになり、ついには面会スペースに持参した装飾で辺りをゴシックに飾りつけ、そこでトラを押し倒して血塗れの包丁(もちろんフェイク)を振り上げるカットを自ら提案して、メンバーに撮影してもらうまでに。このコラボ作品は公式ブログでもアップされ、そのカットの美しさから「ついにリベンジ達成‼️」と大きな話題に。

長い黒髪のトラは完全な受け身で、どこか恍惚とした表情を浮かべていたのが印象的だった。作品としてのあまりの完成度の高さに、一時は公式ジャケットに使う案も出たほどだが、さすがに危なすぎるということで、その後はイラスト風にデフォルメされたモチーフとして登場したり、よく見ないと分からないように、歌詞カードの中にシルエットが透かしで入っていたり、ジャケ裏の隅っこなんかに、バンドのロゴマークと並んでさりげなく印刷されたりしている。

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夜明けは近い!救世主テラチャン🩷☕₍˶^ꈊ^˶Ⅶ₎🌸
今日も読んでくれてありがとう。読んでくれる君がいる限り、これからも書き続けようと思ってます。最後に、あなたの優しさの雫🌈がテラちゃんの生きる力になります🔥💪