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Life Goes On -太陽が沈んでも- ep.1 (再演リメイク)

まえがき(´┏_┓`)
始まってしまいましたね(by.虎w) はい、不良ドラマです。昔のやつです。とりあえず汚い言葉が画面いっぱいに出てくるので注意して楽しくご覧ごくださいっ‼️ド- ̀͏̗ ˶◉ꈊ◉˶   ́͏̖-✧ゥオオォォン🗿🗿ʬʬʬ


☬Theme song: Birth in the Death / アリス九號. , Until The Day I Die / Story Of The Year


1.血の海に沈む

何故戻ったのか分からない。気付いたらこの崩れかけた町の入り口にいた。荒波に流されるように漂着していた。それはある程度予測できた、人生で何度目かの敗北だった。
懐かしい公園の前を通りかかると、中から大勢の話し声が聞こえた。頭一つ抜け出たシルエット。一目で分かる。だらだらとこちらに向かってくる荒んだ集団の中にあいつはいた。
ほんの一瞬足を止めただけだ。なのにあいつはその瞬間に俺を見つけ、何か言いたそうな顔でずんずんと近づいてくる。
血の海みたいな夕日を背負った、その顔を見るのが怖かった。
パーカーのフードを深く被り直し、見捨てられた家が孤児のように身を寄せ合う細い道を全速力で駆け抜ける。後から追ってくるだけ。体力の無駄だと分かっていても俺にはこうするしかなかった。もっと生まれつき器用な男だったなら、俺はとっくにこんなガキの墓場みたいな場所と未来永劫おさらばしているはずだ。
駆けっこだけは誰よりも自信があった。俺のガキの頃のあだ名はニンジャだ―といっても、そう呼んでたのは一人だけだが、行き止まりの壁さえ軽々とよじ登って、どこまでも走り続けられると信じていた。

タカシ!

ちくしょう!やりやがった。あの懐かしい声が銃声のごとく発したものの三音で、俺の右足は致命的なミスを犯した。

「いってえ!クソっ…」

だらしねえな、滑って転んで一等賞ときたもんだ。まんまと俺の靴底に潜り込んだ悪趣味なエロ本の残骸を俺は生涯許さないだろう。

「あーあ、だから危ないって言ったじゃん」
「言ってねーだろがバーカ!」
「ハハ、相変わらず元気いいねー」

やっぱり変わらない。この小突き合いみたいなやりとりもつい昨日交わしたような気がする。でもそれはただの錯覚だったということをすぐに思い出す。

「…うるせえ。この裏切り者」

立ち上がりざま敵意も露わに吐き捨て、砂のついた両手を軽くはたく。どこか擦りむいた気もするが、いちいち確かめる気にはならない。そのまま一度も顔を見ずに脇をすり抜けようとすると、案の定腕を掴まれて心底イラっとする。

「何だよ!」
「痛かったでしょ?」
「は?何が」
「痛かったでしょって」

そのツラをぶん殴ってやりたい気持ちが徐々に萎む。赤の他人みたいなその顔。俺が聞いたことのない声で、聞いたこともない言葉を吐くこいつはいったい何者だ。すぐには処理できないほどの情報量で俺の頭は停滞する。

「離せよ」
「どこ行ってたの?今日までずっといなかったじゃん」

おっとこれは失敬、まるで家出かなんかでほんの一週間家を空けてたみたいな口ぶりだ。笑える。どこ行ってたかだと?よくもまあぬけぬけと。あの時俺を見捨ててトンズラこいたのがいったいどこの誰だったか、まさか忘れたとは言わせねえぞ。

「知るか。何なんだよテメエ」
「いや、お前こそ何なのよ?」
「は?どっちがだよ!」
「だからどこ行ってたのって」
「うるせえ!」

答える気なんて更々なかった。根こそぎ奪われた。男としての誇りも、自尊心のひとカケラさえ残ってない。あの連中が俺に何をしたと思う?ただ暇つぶしに生かしただけだ。ただ殺さなかっただけだ。それは俺が殺す価値もねえ犬だからだ。あの兄さん方はその間ずっと俺をペットにして遊んでやがったんだよ。テメェに分かるか?この俺の気持ちが。振り返れば全てがクソ喰らえだ。ただ秒速で吐き気をもよおすような恥辱の日常にまみれ、地べたの生ゴミを漁るがごとき暗黒の三年間をさも誇らしげに語って聞かせてやるより擦りむけた拳でその無駄に高けえ鼻面を一発ぶん殴ってやった方がよっぽど早いし気分がいい。でも今はそれさえもクソほどバカらしい。時間の無駄だ。

「どけ、このクソ野郎!」

ありったけの力で腕を振り払い、あてもなくまた走りだす。ここではない何処かへ?グレイみてえなこと言ってんじゃねえよバカといつかテレビで聞いたような台詞。ガキの頃あんなにも憧れていた、大人っぽくて洒落て聞こえた都会の音が今じゃゲス・極悪・クソホモ野郎の代名詞。ふうん人って変わるもんだと俺の頭はもう他人事。そりゃそうだ。俺はいつだって俺のことなんか考えちゃいない。目の前にあるものそれが全てだ他に何が

お前の母ちゃん死んだぞ!!

盛大に噴き出した。あまりの大ボラで山びこまでしてんじゃねえか。笑えた。全身の力が抜けるほどに。もういい。分かった。そうまでして俺を引き止めたけりゃどうぞお好きにやってくれよ。後悔したってもう遅い。始めたのはお前だからな。

「言ったなあまさし、歯ア食いしばれよ!」

太陽を失くした地獄の三年間。全ての元凶がテメエだ。あの日の借りはきっちりかっちり返させてもらうからな。
そうやっていよいよ臨戦体勢で拳を握って振り向いたのはいいが、すぐに殴るべき相手の姿が見えないことに気づく。
さっきまで俺がいた、エロ本が落ちてる場所からゆっくりと歩いてくる、背の高いロン毛の男。
あれはまさし、本当にお前か?

本能で警戒し、無意識のうちに相手の表情を伺う。初めて目が合った。
その顔は、ぞっとするほど無表情だった。

「な、何だよ、その目は。何が言いてぇんだよさっきからよ!」

けん制する声にも、さっきまでの力は入らない。

「お前がパクられて、そのすぐ後だよ」
「は?すぐって何が?お前クソだなマジで」
「クソでも何でもいいけどさ。ほんとのことだよ」
「オイ何がほんとだよ殺すぞコラ。あ!?」

もう日没が近い。そんなにも俺を追い詰めたいのか、まさしの声と共にどんどんトーンダウンしていく周りの景色、その言葉にならない気味悪さに激しく苛立ち、叫びだしそうになる。
おいふざけんなてめえ!大人しくしてりゃあナメくさりやがってどこの誰様か知らんがまるで性処理用の犬でも品定めるみたいに果てまでも暗い目でこっちを見下げやがってもう沢山だ!これ以上俺の脳をそのうす汚ねえ舌でレイプし続けるつもりなら俺はマジでお前を殺す。おおやってやるよ、かかってこいよ、今日がお前の命日だ!

実際にそう口にしたのかは分からない。ただその時俺の目に映っていたのはまさしの顔ではなかった。
多分俺は知っていた。真に殴るべき相手はここにはいない。
この世にはいない。

ただ虚しく。避けられもせず、止められもせず、もちろん仕返しも食らわず淡々と、殴った事実と拳の痛みだけがヘドロのように堆積していく。
もう限界だ。本気でそう思えるまで続けても、それでもちっとも楽にならない。何も変わらない。この世界の何一つ、俺の思う通りにはならない。

「まさし!オイ大丈夫か!」
「テメェ何してんだコラ!」

救いの時は不意におとずれた。だしぬけにそう言って横面をぶん殴られ、もう踏ん張る気力もなく、無様に手を突いて地べたに倒れ込む。
いちいち見上げなくても分かる。さっきまで一緒にいたまさしのツレだ。暗がりで靴を数えると三匹いた。おうおう、いい歳して暗い場所で光るスニーカーなんざ履いてやがるお子ちゃまが約一名。何にせよ、これでもう勝負はついたってことだ。


「何で、俺なんか産んだんだよ」


今のが自分の発した声だと、すぐには信じられなかった。
神に嘲られ、破壊されたこの体。呪われた魂。もう涙は出ない。


こいつ、今ほっといたら死ぬかもしれねぇから。
仲間に向けても表情ひとつ変えず、血の付いた唇だけを静かに動かして、足元に転がったままのゴミにまさしは手を伸べる。
振り払おうとしたその手は力なく空を切り、なすすべもなく下から支えられ、再び二本脚で立つ弱々しい体。
動物から人間になる。その過程で山ほど不要なものを授かって、たった一つの大切なものを失った。そんな気がしていた。


《続け》←


ep.2→ https://note.com/6halloween9/n/nd16afeb8eb29


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