男と男と耽美の話
その昔、やおいと言われていた二次創作BLはひたすら耽美な世界だった。何故美に耽るのが男同士のえっちらおっちらになるのかは未だによく解らないけれど、ともかく耽美といえばやおいを指す、そういうノリだったのだ。
美しく交わる二人の下半身には薔薇が生え、或いは腰をガン振りしても絶対にずれない布が被さっているので状態は完全に空想にお任せされていた。
因みに挿入されているのは肛門ではなくてやおい穴なのは有名な話だと思う。まぁあれよ、妊娠しないオメガ穴みたいなもんよ。
それが情報化社会による描き手の知識の蓄積やネット普及によるボーダーレス化に伴う男性向けジャンルとの邂逅、より多様な性癖の発見、リアルゲイ指向な腐女子の台頭などによって界隈は耽美の一言では括れなくなった。
その背景には女子のジェンダー意識の変化なんかもたぶんあるんだろうけど、そういう話をすると怖い人がやってくると聞いたのでしない。
ともかく、今では綺麗な可愛い子にはグロちんぽが反り返りガチムチ髭面の雌おじさんがおほぉってるのが当たり前になったのだ。
読む側としては大体なんでもウェルカムだし、性癖地雷が少ないタイプかつ性癖自体に興味津々な人間なので美味しくモグモグ頂きます。ありがとうえろい人。
しかしそれでも、あくまでも男×男が好きだ。
そして自分は、少なくとも描く側としては耽美的なものを嗜好しているのではと思っている。
断っておくと、私個人は特段に男性を好きではない。同性愛者と言うわけではなく人並みに恋愛もした既婚者である。だが、特別イケメンタレントを追い掛けたりアイドルにキャーキャー言ったり、そういうことは無いといっていい。数在るイケメンコンテンツにも興味がない。男単体では割とどうでもいい。
男が男と出会う。男がふたり一緒に在って初めて私の中でピンと来る。
その男たちが何故セックスせねばならないのかと言われれば、それは運命だからとしか言いようがない。他にあるか、ないだろう?
最も根源的な欲望のままに包み隠すことの無い肉体を晒して深く触れ合う行為。それも生殖を伴わない、ある意味で無益な行いなのだ。何故、の数だけ妄想が捗る。その刹那と刹那の間を埋める作業に滾らない方が無理と言える。
男と男が並んでいたら、思わずそんな妄想をしてしまうのは仕方がないことなのだ。
そもそもセックスというのは言葉が無くとも情動をぶつけ合う行為という点でバトルにも通じる。その情動とはしばしば言語化しづらく巨大でありながら曖昧なものとして「クソデカ感情」などと表現される、例のあれだ。男同士の衝動を描くのに、更にその衝動を超えた欲望を描くのにセックスは余りにも相性が良い表現であるとも思っている。
言わばちんちんは男に与えられた魂の剣なのだ。
女の介入を許している場合ではない。
リビドーのままに存分に戦い、存分にボディートークして存分に致して欲しい。攻めと受け、ひとり1本与えられたかけがえの無いちんちんを大事にしたい。
だが、ゲイが好きなのかと問われれば、「違う、そうじゃない」となる。男性が好きなのではなくてあくまでも相手が好き、そもそも好きでなくても良いのだ。相手だから許すとか致すことに積極的になるとか、そういうあれで在って欲しいと思っている。
恋愛という概念にも縛られない、敬意や敵愾心や執着や憧憬やプライドやマウンティング。様々な感情を、その相手だからという理由でぶつけ合って欲しい。
ヘテロやゲイという、性的指向を指定してしまうと関係性が急激に恋愛色を帯びる。私はそれは好まない。恋愛であっても良いけれど、それだけではない。例えば少年同士の意地の張り合いのように致して欲しいのだ。
そしてそれを勝手に、美しいものであって欲しいと思っている。美しいという表現が適当でない関係もあるとは思う。醜い、爛れた、情けない、痛々しい、粗暴な、くだらない、愚かな、その他ネガティブな表現をされる関係や感情は数多にあるのだろうけれど、それでもふたりの間に生じた「尊み」は私にとっては美しい。
そういう関係は、改めて耽美なのかなと思いもする。少なくともLGBTがどうたらという文脈の上に妄想しているのではない。
多様性の時代なのだから同性愛を特別なことのように描く作品は寧ろ差別的なのだとか、何の説明もなく男カップルが描かれるのが素敵!みたいなやつを頻繁に見聞きするようになった。
それはそれでいい。しかし私は、何の説明もなくお付き合いしていると私が思い込んでいる、私にとって特別な男と男をガン見させていただく。
社会派で在ろうとなんて思わない。私は腐女子だ。
私は私のロマンを私のためだけに追求したい。
そこに耽溺していたいのだ。
最早、下半身に薔薇は生やさないし肝心要な場所をお布団で隠したりなぞしはしないけれど、男と男を今後も穿った視線で眺め続けたい。
ふたりの間に横たわる、刹那と刹那の間を美しく醜いものでひたすら埋め続けていたいのだ。
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