【Review】2019年J1第3節 川崎フロンターレVS.横浜Fマリノス「偶然ではなかったロスタイム被弾」
はじめに
2019年J1第3節の川崎フロンターレは、2-2で横浜Fマリノスに引き分けました。ラストワンプレーで同点に追いつかれ、これでリーグ戦開幕から3連続ドロー。3節を終えて勝ち点3で13位という状況です。
ACLとの連戦のため数人スタメンを入れ替えたことに加え、直前の大島欠場で田中のスクランブル出場ということもあって、普段とは違ったチームを見ることが出来ました。特に田中は緊急ながらスタメンフル出場を達成、頼もしい姿を見せてくれました。
そんないつもと違う川崎をこれからレビューしますが、色んな人が書いてるのでぜひそちらもご覧ください(笑)。ここでは他で触れられてない点を掘り下げていきます。
脅威になりうる2トップ
まず個人的にワクワクだったのが知念とダミアンの2トップ。しかも小林と中村がおらず、攻撃の主導権を握っていた二人の主体的な攻撃に期待していました。率直な感想は周りの理解がまだ足りない、特にダミアンは自分の好きなタイミングでパスをもらえておらず、たとえばクロスボールは高さのあるのを意識していますが(今回は得点に結びついた)、GKとDFの間に低くて速いクロスは少なく、おそらく車屋の一本だけでした。85分に長谷川が抜け出した時は、間が大きく空いた絶好のチャンスでしたがボールは配給されず、ダミアンは苛立って見えました。かつて大久保はGKとDFの間のスペースを好んでいましたが、同じストライカーのダミアンももちろん好きなはずです。この試合に限っていえば、横浜の方がこの危険なスペースに良いボールを配給していました。川崎ももっとやりましょう。
2トップの可能性は十分感じましたし、特に知念はダミアンの影響か、自分で強引に持っていくシーンが見られ、得点への飢えを感じます。爆発一歩手前という感じでしょうか。ただし別で重要なのが彼らに関わる3人目の存在です。この試合最大のチャンスは20分のシーン、2トップに横浜のCB二人が食いついて出来た裏のスペースに家長が走り込んでGKと1対1を作りました。あのようにCBとGKの間にスペースを作れるのが2トップのメリットの一つです。そのためそのスペースの活用が攻撃の軸になるはずで、川崎だと家長、長谷川、大島あたりが適材でしょうか。もし鬼木監督が2トップを採用するならば、彼らの抜け出しにも注目です。
小林に与えられた「得点に絡む」以外のタスク
この試合で先に交代に動いたのは川崎、それまで中村小林のいない攻撃陣を支えてくれた家長に代えて小林を投入。警告をもらっていたのを懸念したのもありますが、それ以上に右サイドの守備の立て直しとゴール前での迫力を増したいという意図からだったと思います。小林投入によって攻撃では勝ち越しに成功。知念ダミアンの対応に追われていた横浜にとって小林は脅威で、得点シーンでは空中戦に強い3人に対して、畠中マルティンスだけでは足りず、空中戦を得意としないティーラトンが小林と競らざるをえない状況になっており、攻撃に関しては采配が的中と言っていいでしょう。
さて一方、守備では構造的に横浜に前進を許していて、最後まで踏ん張り切れるかの勝負でしたが結果は踏ん張り切れず。小林投入後の守備についてせこさんが以下の通り分析しています。
時間と共に運動量の低下がより目立つのは川崎の方だった。2トップはプレスバックができず、中盤はプレッシャーがかからない。マリノスが扇原を投入して低い位置から組み立てる中盤を増やしたことで、プレスを絞りにくくなったことも影響してそう。畠中がフリーになる場面では、交代で入った小林は悩ましそうで、左サイドからはより前進が容易になっていた。
(引用元:せこ「「届かなかった祈り」~2019.3.10 J1 第3節 横浜Fマリノス×川崎フロンターレ レビュー」<https://note.mu/seko_gunners/n/nb88000aa045c>)
(出典:せこ「「届かなかった祈り」~2019.3.10 J1 第3節 横浜Fマリノス×川崎フロンターレ レビュー」<https://note.mu/seko_gunners/n/nb88000aa045c>)
大筋は同意で、横浜の狙いの一つが天野とティーラトンが中央から斜めに馬渡の裏を突くパターンでした。家長と田中のフォローが間に合う時は問題なかったのですが、家長が攻撃で奮闘するにつれて守備への戻りが遅れ、スペースをぽっかり空けることが増えました。そうした状況への対応として小林を入れたのでしょう。
ただ上の分析の中で一点異なると思うのが「小林は悩ましそう」の部分で、小林ははっきりと守備のタスクを与えられていたと思います。なぜここを強調するかというと、終盤の川崎の守備はあくまでも鬼木監督の意図したもので、決して偶然ではなかったと考えられるからです。というわけで小林に与えられたタスクについて見ていきます。
以下の表は小林の主な守備プレー、特にティーラトンと畠中に対するアクションをまとめてあります(左右は川崎視点)。各事象に対して推測を加えてあります。
小林が対応していた選手は主にティーラトン、遠藤、そして畠中でした。そして7550のようにプレスに行かない場面ではティーラトンをマーク、7155や8100のようにプレスに行く場面ではティーラトンの位置を意識したコース取りをしていることから、守備の優先順位はティーラトン選手単体だと予想され、以上から小林に与えられた守備のタスクは「ティーラトン(交代後は遠藤)にボールを持たせないようにしつつ、行けたら畠中にプレス」であったと推測出来ます。
もう少し加えると、ティーラトンがSBの裏を狙ってくる時は後ろにマークを受け渡す約束だったと思います。7630のシーンが顕著で、小林のマークをすり抜けたティーラトンとマルコスを、馬渡は同時に見る状況が作られます。その後小林が追わなかったのを見ると、あれはおそらく田中の対応だったのでしょう。結局奈良が飛び出してなんとか切り抜けました。
逆に天野とマルコスへの守備については、8230と8415から後ろの田中と馬渡に任せていたと考えられます。ただし8030のように2対1の状況が作れる時は、小林もプレスバックして馬渡と挟み込んで守備をしました。この相手サイドハーフへの対応は左サイドの方が明確で、仲川を警戒して2対1を意識的に作っていました(登里も長谷川も大津を捨てて仲川にプレスバックしていた)。失点シーンは唯一仲川がタッチライン際ではなくハーフスペースから飛び出す形だったので対応が後手に回ってしまいました。
交代枠を使い切って、打つ術がなくなっていた川崎
そういうわけで、小林は与えられたタスクをこなしていたと思います。この点についてなぜこうも語ったかを改めて言うと、終盤の守備はある程度は鬼木監督の意図通りであったと考えられ、そうならば最後のCKを獲得されたのは偶然ではなく必然に近いからです。
どういうことか。この試合で川崎が苦しめられた攻撃の一つが、天野が中央から斜めに走って馬渡の裏でパスを受けるパターンでした(マリノスの崩し方についてはpolestarさんの「マリノスが左サイド奥を狙う形」をどうぞ)。これに対して川崎は開始からボランチが付いていく方法を採用し、天野のミスもあってなんとか耐えていました。しかし侵入自体を許すことには変わりはなく、さらにボランチ個人の体力に依存するため、右サイドの守備に関しては防戦一方だったと思います。
車屋「ただ後半は、前線からの連動した守備ができなくて押し込まれた。天野選手のところで間で受けられて、全体的に守備の連動は良くなかった。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第3節 vs.横浜F・マリノス」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/03.html>)
それに対してテコ入れするために投入されたのが小林で、馬渡と田中と奈良との連携を立て直すのかと思いきや、そうではなく前線にプレッシャーをかけて出どころを限定する作戦を鬼木監督は選択します。つまりボールのタイミングやコースは読みやすくはなったけれど、SB裏に侵入されることに変わりはありませんでした。なので最後まで足がつりかけていた天野をポステコグルー監督が代えなかったことも納得で、横浜としては最後まで馬渡の裏がチャンスと考えていたのです。こうなるとボランチ、特に田中の消耗は激しく(走行距離11.360km)、最後のシーンでは寄せが遅れていました。同じだけ天野も走っていることは忘れてはいけませんが(11.842km)。
したがって、川崎は小林長谷川中村の投入でリードするまでは計算通りで、終盤の逃げ切りについては疲労もあったとはいえ、ただただ耐え忍ぶしかなかったといえます。つまり交代枠を使い切った時点で、守備は詰んでいたと言っても良いでしょう。選手交代以外の方法で根本的に相手に対応する術がない、という川崎の現状が露わになりました。
おわりに
細部を見てきましたが、試合全体で見るとミスが多くて自滅したといえるでしょう。パスミスでの無駄走りによる体力マネジメントの失敗(連戦含め)、ボールキープによる逃げ切りが出来なかったのが大きな敗因でしょう。特にボールキープで逃げ切りが出来ないのはチームスタイルとしては致命的で、これまでいかに家長のフィジカルに頼ってきたのかが露呈しました。技術へのこだわりを再度取り戻す必要があるでしょう。
3連続ドローということで落ち込むサポーターも多いでしょうが、ここまでの相手は強く、実際現在東京は2位、横浜は3位と好調のチームですので、そこまで悲観することはないと思います。もちろん改善点はたくさんあるので、ACLの試合も戦いつつ、焦らずチーム作りを進めていってほしいと思います。