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【Review】2021年J1第3節 川崎フロンターレVS.徳島ヴォルティス「得点/失点の収支が取れるか」

はじめに

 2021年J1第3節の川崎フロンターレは、2-0で徳島ヴォルティスに勝ちました。前節出場のなかったダミアン小林に負けじと2ゴールで結果を残しました。
 これでリーグ戦開幕4連勝。どこまで記録を伸ばせるかに期待がかかります。

ボールを繋ぐには自信が不可欠

 序盤の徳島からは動きが鈍い印象を受けました。攻守の切替が遅く、パスミスも目立っていましたが、譲留のコメントを観る限り、メンタル面から受け身になってしまったのが原因のようです。

--プレスに行けなかったこと、ボール保持率を高められなかったことについて。
譲留「まず前半の始めの時間帯は、正直なところ相手の名前にもビビッてしまい、距離感も悪く、自分たちのサッカーをする以前にすべてにおいて受け身になってしまいました。前半の流れが悪くなった原因だと思います。」
(引用元:Jリーグ公式HP「試合結果・データ:川崎F vs 徳島」<https://www.jleague.jp/match/j1/2021/031005/live#player>)

 しかし失点後は平常心を取り戻したのか、流動的に動きながらビルドアップする姿が見られ、ゴール前までボールを運べるシーンも増えていきました。こうした光景は風間期の川崎でも見られましたが、ボールを繋ぎ続けることには自信が不可欠で、それをどう保つのかが成功の鍵になります。
 徳島で一つ気になったのが、攻撃のきっかけが限定的であることです。公的の起点として重要な選手が阿部と岩田で、彼らが前を向いてボールを持った時の前線の選手のアクションは活発な一方で、彼ら以外の場合にはアクションが弱いように見えました。そのため攻撃パターンがある程度絞られ、川崎としては読みやすく守りやすかったと思います。

得点/失点の収支が取れるか

 徳島のスタイルは「後ろから丁寧に繋いで相手陣形のズレを作り、それを連鎖させることでゴール前でもズレを作って仕留める」と表現できると思います。それをこの試合でも恐れずチャレンジしており、今後の期待値は高いです。
 ただ、この試合でのビルドアップミスからの2失点をどう見るのかは難しいでしょう。現状リスクの方が大きく、4チーム降格の今シーズンにおいてどこまで許容する想定なのか気になるところです。
 たとえばGKも含めて最終ライン深い位置からボールを繋ぐため、ボールを奪われた時のオフサイドラインが低く、簡単にゴール前に人とボールの侵入されやすいです。1失点目がまさにそんなシーンで、あそこまでゴールに近い位置でダミアンにボールを渡してしまえば、失点は免れないでしょう。
 徳島は今シーズン、得点/失点の収支が取れるのかという課題と向き合うはずです。リスクを減らしつつ、理想のスタイルへのチャレンジを続けるための対策が、監督には求められまdす。ただそれは非常に困難で、世界中の監督が試行錯誤していることではありますが。

アンカーからの横展開が困難

 前半の2得点は、今季の特徴である前線からのプレスが実を結んだものでした。組織的な連動した守備ももちろんですが、それ以上にダミアン個人の頑張り、特に1度だけでなく2、3度追い続ける執念がゴールに繋がりました。
 一方で、自陣でボールを持ってからの攻撃は湿っていた印象で、特にアンカーの選手からボールを運びにくい試合でした。徳島は片方に選手を寄せて守る傾向が強いので、素早いサイドチェンジができると、もう少し楽に試合を進められたように思います。
 前半のシミッチは、徳島の守備に苦しみ、サイドチェンジの回数が少なかったです。徳島はシミッチには横方向を塞ぎながら寄せることが多く、そのプレスをかいくぐることができません。そのためか、旗手から逆サイドに振るシーンが何度か見られました。
 後半の塚川は、少しポジショニングが素直すぎるように思います。外す動きが少なく、相手に寄せられた状況でボールを受けてしまうことで、苦しむ場面がありました。
 また、パス交換でSBを逃がすシーンが少なかったです。昨年守田がアンカー時には、パス交換から山根を前に抜けさせるプレーが多く、相手に追い込まれた状況をひっくり返してチャンスに繋げることができました。塚川も相手の矢印をひっくり返すパスワークができてくると、出場時間が増えるように思います。

相手に合わせた後半の川崎

 後半は徳島がビルドアップの枚数を増やしたり、恐れずに繋ぐシーンが増え、川崎としては前線からのプレスをかけにくくなりました。しかし奪えないと判断して、意図的に最終ラインにプレスをかけない方針に変えたのは、適切な判断だったと思います。
 ここまで、前からのプレスがかけられない時にどう守るのかが川崎の課題としてありましたが、この試合ではその一つの答えを出していました。相手CBにはボールを持たせつつ、FWの選手は中盤の選手のパスコースを切りながら選択肢を削っていく方法で守ります。その結果徳島は地上のみで繋ぐことが困難になり、ロングボールが増えましたが、精度が足らずボールを運ぶことができません。
 この守り方は連戦によるスタミナ面への考慮とも見れますが、試合後の鬼木監督のコメントを聞く限り、徳島相手に想定していた戦い方とも思われます。対戦相手の時間があったことに対しては、仕方ないと割り切っており、事前に準備していたことが伺えます。

鬼木監督「後半多少ボールの動かない、相手の時間がありました。ただそこは仕方ないかなと思っている。」
(引用元:試合後インタビュー)

守り方に一抹の不安

 徳島の特徴に合わせて戦えていたとはいえ、ボールを保持された時の守備には少し不安が残りました。この試合では徳島のミスに助けられた部分が大きいように感じます。
 たとえば中盤3枚が極端に片方のサイドに寄るシーンがありますが、一時的にバランスが悪く、逆サイドに素早く展開されると間に合わない恐れがあります。3人でピッチ横を守るため多少偏るのは構造上仕方ないですが、偏りが過剰になるとリスクが増します。ボールを持たれるチームにサイドチェンジを数回繰り返されると崩されるのではないでしょうか。
 もう一つ上げると、旗手・山根の上がってできるスペースへの対応。徳島はカウンター志向が弱かったために露呈しませんでしたが、彼らが攻撃時に高いポジションを取るため、奪われた瞬間はぽっかりとスペースが空くことになります。今のところIHやCBでカバーが間に合っていますが、スピードのある選手で狙われ続けた時に耐え切れるかが争点になりそうです。

おわりに

 この試合は勝利したものの、耐える時間が多かったせいか選手の険しい表情が見られ、特に旗手の苛立つシーンが多かったように思います(カメラワークによるものかもしれませんが)。実際、試合後コメントでも悔しさを表に出しており、気を抜いていないことが伝わってきます。

旗手「サイドバックではあるが、攻撃の起点になったり自分が得点を決めたいという思いが強い。右サイドバックのミキくん(山根視来)を見ても、あれだけゴール前に顔を出している。自分も顔を出してシュートにいければ可能性が上がるので、もっとプレーの精度を高めていきたい。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第3節 vs.徳島ヴォルティス」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/03.html>)

 チームとして上手く行かない時の対応策が思惑通りハマった試合だったと思います。今後も自分たちのペースで進めつつ、対戦相手の特徴に合わせた戦い方ができると、より手堅く試合を進められるようになるでしょう。

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六
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