【Review】2018年J1第22節 川崎フロンターレVS.サガン鳥栖「鳥栖が決めさせなかった27本のシュート」

 2018年J1第22節は、0-0で川崎フロンターレが相手に引き分けました。

決めたら終わりの試合
 中村憲剛のこの言葉がこの試合を総括していると思います。

中村憲剛「決めたら終わりの試合だった。他に喋ることがないぐらい。それは見ればわかると思う。GKが当たっていたというよりは、自分たちが外していたというほうが正確。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第22節 vs.サガン鳥栖」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/22.html>)

他の選手も同様のコメントを残しており、特に阿部や齋藤、エース小林は責任を感じているでしょう。シュートを27本打っても入らない日もあるのがサッカーです。

中央密度を高めた鳥栖の守備
 とはいえ全てを自分たちの責任にするのは、鳥栖に失礼だとも思います。 それくらい鳥栖の守備は良かったです。 良かったポイントは、4バックがPA幅に収まっていたことです(下図:画像は全てDAZNより引用)。

マッシモ・フィッカデンティ監督「福田晃斗と小野裕二がサイドに張る、そういうフォーメーションでまずのぞみました。戦術的な違いというものをしいて言うのであれば、金崎選手が後ろに下がってくる、これが戦術的な違いでした。その狙いとしては、川崎の大島、中村、守田の3選手がピッチ中央でボールをキープさせない事、これが狙いでした。[…略…]川崎さんは中央に選手を多く、密度を高くするチームで、前線にめがけてボールを入れてくるチームでは無く中央に人数をかけてくるので、真ん中を濃くしていこうということで準備をしてきました。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第22節 vs.サガン鳥栖」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/22.html>)

フィッカデンティ監督のコメントにあるように、鳥栖は川崎の中央突破を、中央に人を集めることで防ごうとしていました。そしてそれを維持するための二つの工夫を施します。    
 一つは小野と福田、二人の中盤をサイドに張らせます。二人にPA幅より外側のサイドを守らせことで、4バックはPA幅の守備に専念できる状況を作りました(下図)。

鳥栖がサイドに人数をかけてこないため、川崎はサイドから簡単に運ぶことができ、30mライン進入回数の多さ(81回、平均は59.6回)にそれが現れています。 もう一つが守備時に金崎を中盤に下げることです。こうすることで中盤の密度を下げずに、川崎の中盤にプレッシャーを与えようとしていました。
 さらに工夫というよりは各選手の戦術実行力の高さが素晴らしかったです。相手にプレッシャーをかけた後は速やかにスペースに戻ることを徹底していたため、縦横に揺さぶられても、綻びが生まれにくかったです。結果的に川崎のシュートは多かったものの(27本)、ミドルシュートや、相手プレッシャーのかかった状態でのシュートが大半でした(前半の阿部、終盤の齋藤はフリーの決定機でした)。

孤立したツートップ
 鳥栖の攻撃は予想ほど悪くはなかったと思います。川崎相手に少し守備気味の戦術を採用したために、攻撃に転じる余力がなかったというのが正直なところでしょう。 鳥栖は基本的にはカウンターアタック、余裕があれば最終ラインから組み立てるという攻撃プランでしたが、最終ラインでは組み立てるシーンはほとんど見られませんでした。

マフィッカデンティ監督「我々は1回ボールをキープして後ろに下げてから再スタート、そこが足りていなかったと思います。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第22節 vs.サガン鳥栖」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/22.html>)

これは川崎の前線、特に中村の効果的なプレスによって、鳥栖の最終ラインはただ大きく蹴るしかなかったからです。
 カウンターではツートップが縦関係を意識して、ロングボールを逸らし、それを収めて攻撃に転じようとしていました。ただ逸らした先が孤立していたので川崎としては対処はしやすかったです。本来であればボールが収まったところで小野が絡むのが鳥栖の理想だと思いますが、この試合ではあまりにも守備でのタスクが大きすぎました。

鳥栖とトーレス
 トーレス(味方は「フェルナンド」と呼んでいるようです)はトラップとキックが非常に丁寧で、そして競合いが強く、身長が高く、ジャンプのタイミングが上手かったです。それらを活かしてボールをキープする拠点にはなっていました。ただ拠点になった後に前に出られず、ゴール前の危険なエリアに飛び込む回数は少なかったのが勿体無いと感じました。 その原因としては味方の押し上げがなかったことで、トーレスがポストプレーでボールを味方に預けた後、もう一度トーレスが受けに行っているシーンは最もそれを表していたと思います(下図二枚)。 

そこ(二枚目のトーレスの位置)で原川や小野が受けることができれば、トーレスをより前でプレーさせることができたのではないでしょうか。トーレスに良いボールが配給できない、という以前に、トーレスがゴール前でプレーできる状況をいかに作れるかが今後の鳥栖の課題だと感じたシーンでした。

あと少しの工夫が欲しかった攻撃
 さて川崎の攻撃はというと、鳥栖の中央の守備陣をどう引き出すかに苦労した試合になりました。ミドルシュートが多かったのもそのためです。特に大島が強引に狙っていたことからは、そういった思い、つまり鳥栖守備陣を引き出したい意図を強く感じました。
 普段も川崎はゴール前を固めるチームと対戦することはありますが、いつもの引き出す方法が鳥栖には効かなかったです。普段は小林が中央からサイドに斜めに(コーナースポットの方向)動いて受けることで、相手守備を混乱させるのですが、そこには二人の中盤の選手(福田と小野)がいたためそこでボールを受けることが難しかったですし、受けれたとしてもプレッシャーが強かったです。
 もう一つは小林の上下の動きで、下がって受けてCBを釣り出すことでギャップを作る方法もありますが、これはCBがあまり深追いしないこと、そしてそのギャップをボランチが警戒していることで鳥栖は対応していました。そのため川崎は工夫を凝らすも、中央の密度はあまり変わらず、常にシューターに複数のプレッシャーがかかった状況が生まれていました。それでもあれだけシュートチャンスを作れたのは、今の川崎の強みではありますが、GKが権田であることを考えると、より確実なチャンス構築のための工夫が欲しかった、というのが結果を見ての感想です。

貪欲な途中出場組
 以前清水戦プレビューでも触れましたが、ここ数試合、選手交代後に得点がなく、この試合でもありませんでした。ただ今後に途中出場組の貪欲さを見ると、以前よりは期待できる気がしました。
 結果的に得点には繋がりませんでしたが、 3人とも少ない出場時間にもかかわらずシュートを打っていました(特に鈴木は15分ほどで3本)。確かにまだ貪欲さが空回りしているようには見えました。齋藤のシュートミスや鈴木のシュート前のトラップミスなどはその表れでしょう。それでもシュートの段階まで絡めるようになったことは、チームとしてプラスに捉えても良いのではないでしょうか。ぜひとも広島戦では途中出場のヒーローを見たいです。



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