【Review】2021年J1第29節 徳島ヴォルティスVS.川崎フロンターレ「相手を背負える3人の貢献」
はじめに
2021年J1第29節の川崎フロンターレは、3-1で徳島ヴォルティスに勝利しました。先制直後、ポカリスエットスタジアムの風に惑わされて同点に追いつかれる嫌な展開でした。それでも前半のうちに勝ち越し、後半追加点で追い討ちをかけ、逃げ切りに成功しました。
徳島としては序盤のゴール取り消しにも意気消沈せずに戦っていました。終盤の追い上げを見ると、同点もしくは1点差で進められればどちらにも転ぶ試合だったと思います。そう考えると、3失点目が敗着だったかもしれません。
方向転換のスムーズさ
徳島の攻撃で効果的だったのがショートカウンターで、2トップの配置で多少強引にでもシュートで終わるよう意識していました。また奪い方も設計できており、まずCBにボールを持たせた後、出しどころを封じてGKから苦し紛れのロングボールを引き出す守り方は、川崎の最近の弱点をよく見ているなと感じました。
カウンター時の特徴としては、ボール奪取したサイドとは逆の選手の動きが速いです。取り消しとなったゴールのように、逆サイドの選手が相手よりも速く動き出してフリーを作ることで、チャンスに繋げる攻撃が多く見られました。
ただボール奪取後(ビルドアップ含む)の逆サイドへの展開へのスムーズさが足りないように感じました。パスを受けた選手がターン、パスコースを探し、パスを出す一連の流れが滞る場面が多く、ボールを持って方向転換するアクションに時間がかかっていました。そのため逆サイドの選手が裏狙いを中断し自陣に戻るプレーをしていたのが印象的です。
とはいえチームとしての狙いではあると思うので、選手目線で見るとそうしたプレーを選択せざるを得ない状況ではありました。逆に川崎としてはそこでターンすることが予測できたので、狙ってプレスをかけていたと思います。
常に方向転換に戸惑っていたわけではなく、上手くいっているときもあります。それは個人が方向転換するのではなく、ボールを動かしてパスの角度を変えながらサイドチェンジできている時です。垣田や一美のポストプレーを挟みながらサイドを変えられた時は、川崎守備陣は対応しきれておらず、ピンチを招いていました。
背負うプレーの重要性
再認識したことが、背負ってボールを持てることの重要性。どれだけパスワークが上手くとも、どこかでプレスにハメられる場面は出てきます。そうした時に相手の思惑通りに奪われるのではなく、次に繋げられることは、相手のボール奪取機会の阻害とボール前進の2つの効果があり、試合への影響が大きいです。
この日のスタメンで背負うプレーが上手いのが知念、旗手、マルシーニョでした。中でも旗手とマルシーニョは背負った状態でもボールを大きく動かすことが少なく、1対1の状況をキープできます。もしドリブルしながらかわそうとすると、相手選手に誘導されて複数の選手に挟まれる状況に追い込まれてしまうので、ボールを動かさずにキープできることは地味ですが重要です。
少なくとも今年の川崎は、相手選手に一切触れられずにボールを回すことはできません(そうした華麗なサッカーは目指していないのだと思います)。どこかでフィジカルコンタクトが発生するようなサッカーを組み立てています。そうしたサッカーの中で三笘と田中は特に相手を背負っても負けない能力に長けていましたし、そこからターンして前を向くこともできる選手でもありました。
彼らの移籍で最も痛いのがこのポイントだと個人的には思っています。相手のプレスを受け止められる選手が少なく、ビルドアップでプレスを正面から受けているのが今の川崎だと言えます。
そうしたチーム状況に改善をもたらしてくれたのが上記の3名です。特に旗手とマルシーニョはプレスの逃げ場の無かった中盤と左サイドに息つく場を与えてくれました。加えて2ゴール目の旗手のように、相手のプレスをいなして攻撃に繋げるプレーも出てくれば、より楽に試合を進められるようになります。マルシーニョの背負い方は余裕があり、相手を見ながらプレーが出来ていたので、個人的には期待大です。いずれも途中交代だったことは懸念されますが、次節も出場が求められる選手でしょう。
4231の締め方
2人の負傷もあってか、終盤は4231のシステムで守り切る方針でした。そのため普段の433とは感覚が異なるせいか、あまり見られない崩され方があり、「中盤の間を通される」「中盤背後にフリーの選手」の2つです。
まず「中盤の間を通される」については、433の時は5人(3センターと2WG)で横幅いっぱいを守るのに対して、4231の時は4人で守るため、一人当たりの担当スペースが広いです。そのため、たとえば左WGの宮城が433の時の感覚でサイドに出ると、いつも以上に中央の選手との間隔が広いため、パスを通されやすくなります。つまり、同じポジショニングでも間隔が異なることに注意しながら守る必要がありますが、そのチューニングが上手くいっていなかったように見えます。
次に「中盤背後にフリーの選手」ですが、普段の433であればボールサイドの選手が前に出ても、その他の選手が良いこにスライドすることでスペースを埋めることができますが、この日はそれができません。そのため普段以上にプレスをかける時に慎重に上がる必要がありました。
普段は全体的に守備時に背後を気にしなくて良い状況を各選手に与えることで、前に出ていく鋭さを保証しています。ただ4231の場合はその保証が難しく、鋭さとリスクのバランスはまだ掴めていないようです。
今後も前線の組み合わせを試行錯誤する中で、4231で守る場面は増えてくるはずです。その時にやられそうなパターンはこの試合で多く出ていて、良い反省材料となります。その意味で、失点しない程度に攻め込まれたのは長いリーグ戦を戦う中では良かったと捉えるべきでしょう。
おわりに
ルヴァン杯、ACLと立て続けに敗退が決まり、加えて連戦の疲労も溜まっており、メンタル・フィジカルともに厳しい中の試合でも、持ち前の切り替える力で勝利を収めることができました。鬼木監督以後、前の試合の悪いところを持ち込まないスキルは着実に高まっているように感じます。
田中と三笘の移籍でチームコンディションが下がっている感がある中、マルシーニョの加入と旗手の復帰でぼんやりと光明が見えた感じがあります。ここから立て直そうという時に次節鹿島というのがなんとも嫌なタイミングではありますが。。。
そんなこんなで、リーグ戦は残り10節となりました。ここから再び連戦が始まり大変ですが、なりふり構わずリーグ優勝を目指して勝ちを重ねていきたいところです。今年も何か1つタイトルを取りましょう。