見出し画像

【Review】2021年J1第20節 川崎フロンターレVS.ベガルタ仙台「パス本数が嵩みスローだった試合展開」

はじめに

 2021年J1第20節の川崎フロンターレは、2-2でベガルタ仙台と引き分けました。追いつかれた後に三笘の勝ち越し弾で突き放すも、ロスタイムにマルティノスにミドルシュートを決められ痛み分け。それでもリーグの連続無敗記録を21試合に伸ばしました。

 仙台として過密日程&アウェイ連戦の中での引き分けは、手倉森監督が「王者の川崎から取った勝点1は価値がある」と評したように、貴重な勝点1と言えるでしょう。満身創痍の中でも自分たちのやれることを90分通してやり続けて手にした勝点は、今後に向けた自信になったのではないでしょうか。

CBを中心としたボール運び

 この試合を象徴している一つのスタッツが谷口がチーム最多のボールタッチ数だったこと。ボールの供給元がアンカーやIHではなく、CBを中心としていたことが窺えます。
 その理由の一つに仙台が川崎の最終ラインに寄せない方針だったことが挙げられます。4-4-2のブロックで待ち構えることを優先し、前線の皆川と佐々木は追い回すことはほとんどありません。前線のプレスに合わせて中盤が動くことで、中央にスペースができることを避けたかったのだと思います。

 理由は後述しますが、この日の川崎は中央の狭いスペースでのパスの頻度は少なく、仙台の守備に対してCBを経由したパスを優先します。これによってサイドチェンジに時間がかかったことは、この試合で3点目が取れなかった遠因の一つでしょう。通常であれば速いサイドチェンジから生み出した数的有利を活かした攻撃を展開できるのですが、この日は仙台の横移動が間に合う場面が多かったです。

 またCBを経由することによってパス本数がいつもより増えました。平均614本に対して719本と普段よりも100本多いスタッツになっており、一回の攻撃にかける手数が多いことがわかります。試合後に手倉森監督が「いつもよりテンポの落ちたフロンターレのサッカー」と述べていたのも、パス本数に由来するものでしょう。
 パス本数自体は増えた一方で、成功率は約85%と普段と同様だったため、90分におけるミスパスの実数は増えていたと考えられます。鬼木監督が「自分たちのサッカーに程遠いぐらいのミスが多く出ました」とコメントしていましたが、ミスパスが多かった背景にはパス本数が増えていたことがあると思われます。

中央でのパス頻度が低かった理由

 これまでもCBに持たせる守備をしてくるチームはありましたが、この試合で対応が上手くいかなかった理由の一つに家長が不在だったことが考えられます。
 家長がいることのメリットの一つに一時的に中央や左サイドで数的有利を作れることが挙げられます。家長はある程度守備タスクを軽くすることで、横のポジション移動をしやすくする戦術設計になっていると思われます。そのため彼の判断で右サイドから離れて味方のサポートに駆けつけることができます。
 この試合ではIHの脇坂と旗手が仙台のダブルボランチに警戒されている状況でしたが、そこに家長がイレギュラーで紛れ込むことで数的有利を作り、相手に混乱を与えられます。実際2点目は仙台ボランチの富田が中央に流れてきた家長をマークすることから守備がズレています。本来富田がマークすべき遠野がフリーになり、そこを塞ぐためにアピアタウィアがゴール前から離れ、そのスペースを三笘が利用した形です。

 通常であればそうした混乱に意図的に作って前進を図るのですが、この日は家長不在のため、特に中央でのパス回しで優位な状況を作れません。不在の場合でも、脇坂や旗手、田中が効果的にポジショニングを取れば優位に立てますが、この日はコンディション的に運動量を上げられないことも重なって、そうした対応も難しい状況でした。

淡々とやり続けた仙台

 仙台としては満身創痍の状況でやれることは少なかったと思いますが、逆にやることが明確だったために90分間戦い続けられた側面もあったでしょう。先制されても自分たちのやれることをやり続ける姿勢は、第10節の広島と重なって見えました。川崎としては、そうしたチームに対して攻めあぐねて1点差で試合を進めると、どこかで牙を剥かれるのだと思います。

 仙台はコンディションを考慮して選手交代もある程度事前に決めていたよのではないでしょうか。少なくとも後半開始時に投入された2人は事前に準備していたように感じます。というのも最終ラインとボランチに選手交代が発生しても守備の秩序が維持されていたので、想定内の交代だったのだと思います。
 守備全体を見れば、川崎のIHを塞ぐことで攻撃のテンポを遅らせ、スローな試合展開にできた時点で仙台としては狙い通りだったと思います。もちろん開始早々の失点は理想通りではなかったと思いますが、その後立て直していたのはさすがです。

 攻撃面では1トップの皆川でどうにか起点を作って攻撃に転じようとしていました。そのために佐々木を衛星的に皆川の近くに配置し、セカンドボールの回収を狙っていました。
 前半は皆川へのボール弾道が低かったため負けるシーンが目立ちましたが、後半は高いボールを供給することで、競り勝てるシーンが増えていました。実際1点目は皆川が競り勝ったボールを拾ったところを起点に生まれています
 川崎に目を向けると、スタミナ面の配慮から後半は前からのプレスを抑える時間がありましたが、そのため仙台は余裕を持ってロングボールを蹴ることができていたように見えました。仙台最終ラインへのプレッシャーの弱まりが、質の高いロングボールに繋がったとも考えられるのかもしれません。

おわりに

 仙台は19位と低迷する中、上位相手に貴重な勝点1をもぎ取った試合になりました。川崎サポーターとしてはJリーグの中でも仙台は特別な関係だと感じているので、来年以降も戦えることを願っています。

 川崎はロスタイムの失点で逃げ切りに失敗した形で、多くのサポーターは第5節の神戸戦を思い出したのではないでしょうか。もちろん最後の締め方も大事ですが、90分通して見れば鬼木さんのコメントにある通りなのかなと思います。

鬼木監督「得点した後、2点目、3点目を取れなかったこと。あとは自分たちのサッカーに程遠いぐらいのミスが多く出ました。これをしっかりと無くさないといけない。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第20節 vs.ベガルタ仙台」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/20.html>)

 これで21戦連続無敗で、J1リーグタイ記録となりました。次節は昨季敗戦を喫した札幌が相手です。しっかりとリベンジを果たし、堂々と記録更新しましょう。

いいなと思ったら応援しよう!

六
いつもありがとうございます。サポート頂いた資金は書籍代に充て、購入した書籍は書評で紹介させていただきます。