【小説】フラッシュバックデイズ 18話
この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。
18話 シークレットレイブパーティー 後編
「ミキ!」
「来てたんや~」「噂の彼女?」
少しフニャフニャした様子のミキはいつもと雰囲気が違う。
おそらくLSDを摂っているんだろう。
俺はミキにネタがない事情を話すと、
「まかせとき~、ついておいで」
俺とマキは、ミキの後をついていくと、丘の上の奥にポツンと建てられたテントへと招待された。
ミキのテントにはミキの姉と彼氏がいた。
「初めまして~お邪魔します」
「いらっしゃい~」
テントの中央にはキャンドルの暖かい光が灯り、ミキの姉と彼氏は待っていたかのようにやさしく迎え入れてくれた。
ミキの姉の彼氏はまるで機械で作ったようなきれいなジョイントを振舞ってくれた後、俺とマキの手の甲の端にLSDのリキッドだという液体を垂らしてくれた。聞いたことはあったが、初めてのリキッドを舌で舐めた。
ミキの姉の彼氏は途切れる事なくジョイントを作り、振舞ってくれたおかげで俺達はまるでミキの家に遊びに来たようにすっかりリラックスし、長居してしまった。マキの友達とダイキ君はどうしているだろうと、名残惜しいがミキ達のテントを出る頃にはLSDが早くも効き始めていた。
テントを後にし、フロアへと降りる階段へと暗い芝生の丘を歩き進める。
マキが手をつないできた。俺も手をつなぎたいと思っていた。
辺りが暗いからではない。
手をつなぐという行為は心が繋がっているような感覚がする。
リキッドのLSDが効いているせいかそんな事を考えていた。
フロアへと降りる階段の傍でイチャついているカップルがいた。おそらく玉を食っているのだろう、俺達が通りがかならなければ野外プレイが始まっていたであろう。俺達に気づき少し平静を装っていたので、邪魔をし、申し訳ないと早く通り過ぎようとしたところ、名前を呼ばれる。
テクノのイベントで良く玉を分けてもらっているスキンヘッドの玉ちゃんだった。もちろん本名ではない。玉好きとスキンヘッドの両方から由来するニックネームだ。
「玉ちゃん来てたの?珍しいね、トランスなんて」
「彼女が行きたいってことでね~」玉ちゃんの彼女はイチャ付きを見られたので少し恥ずかしそうだった。
「玉余ってない?」「もちろんあるよ。」
俺は一錠を半分に砕きマキと半錠づつ飲み込んだ。
久しぶりにフロアに戻ると、人も各段に増え、全く別の光景に感じた。
シラフの時は簡素に見えたフロアを囲むデコレーションはアシッド用に計算されていた。まるでこの囲われた一帯だけ別次元にいるようだ。
久しぶりのトランスの音は、最初こそ踊り方に戸惑ったが、気が付けば身体全体、心の中まで音と一体化していった。
しばらくスピーカーから流れる音の奴隷と化したようにされるがままだったが、歓声とともに音が一瞬止む。遂にゲストの時間だ。
ふと我に返るとリキッドのLSDは勿論、玉が効いている事に気づいた。
気が付けば空も少し明るくなり始めていた。
オープンエアー/野外ならではの抜けるような心地良いギターの音色が鳴り響く。
隣のマキが近づいてくる。
マキは俺がして欲しい事を、さも自分がしたい事かのように
「キスしていい?」と聞いてきた。
断る理由なんてない。周りの目なんてどうでもいい。
LSDとMDMAで研ぎ澄まされた唇がマキの唇と重なった時、
MDMAの多幸感がブーストされた。
今まで生きてきた中で体験したことのない、この破裂しそうな多幸感をどう処理していいのかわからなかった。
心地良いギターの音色に優しい電子音が重なり、遠くから大きな波がジワジワと押し寄せてくる。皆が大きな爆発をまだかまだかと待ち構える。我慢できないヤツはすでに歓声を上げている。
その空間が我慢の限界に達したと同時に重低音が鳴り響いた。
何かがはじけた様に歓声が上がり、皆が一つになったように一斉に踊り始めた。
少し前方に目をやるとマキの友達とダイキ君が踊っていた。
ダイキ君がこちらに気づきマキの友達を連れ、笑顔で踊りながらこちらに近づき、「久しぶり」と言わんばかりに一緒に踊った。
言葉は必要ない。
しばらくするとミキが前方に現れる。ミキと踊るのは初めてだ。ミキはいつも落ち着いた雰囲気だが、ぴょんぴょんと飛び跳ねるように踊っている。
マキが笑顔で後ろ見てをいわんばかりの視線の先を振り返るとミキの姉と彼氏が踊っていた。
ミキの姉の彼氏はテントの中の落ち着いた感じとは一転し、大きなサングラスでも隠し切れない笑顔で長い手足を動かせながら、周りをアげるようなバイブスをまき散らすように踊っていた。
それにつられるかのように俺も踊った。
何時間踊ったのだろうか。気づけば、もう外はすっかり明るくなっていた。
ふと時計を見ると現実に引き戻された。名残惜しいが帰らなければならない。
まだまだ続いているパーティーを尻目に皆に別れを告げ、マキと帰路につく。行きはタクシーで来た道を、ドラッグが抜けきらない、一晩中踊った身体で駅まで徒歩で行かなければならない現実に愕然としながら知らない山道を下りていた。
マキは案外、平気そうだ。
一人だと確かに地獄のような状況だが、マキと二人なら案外悪くない気がした。
すると一台の軽トラがに乗った地元のおっちゃんが声をかけてきた。
「兄ちゃんらこんなとこで何しよんか?」
駅まで歩いて行ってる事を伝えると、
「後ろの荷台で良かったら途中まで乗せてってやる」
俺とマキは子供のようにはしゃぎながら軽トラの荷台に飛び乗った。
軽トラの荷台は冷たく、風が気持ちよく疲れた身体を癒してくれた。
風になびくマキの髪を見ながらまるで映画のワンシーンだなと感じた。
つづく
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