愛されている
9/13〜9/16の日記
9月13日(金)
今日は13日の金曜日である。一般的に不吉だと言われる日だが、大人ばかりの会社でその話をする人はいないし原作の映画も観ていない私にとっては彼に会いに東京へ行くことのできる日に他ならない。木曜日から続く頭痛に気づかないようにそっと退勤。最速発車の新幹線に乗る。
三連休前の新幹線は混み合っていて、そのガヤガヤした雰囲気のせいか、ほとんど眠ることが出来なかった。簿記3級を仕事の都合で9月以内に取得しなければならないという事情があり、ここ一週間ほど睡眠不足だったため眠りたかったのだが、思うようにはならなかった。酷くなる一方の頭痛を封じ込めるように目を瞑った。
東京駅には仕事終わりの彼が迎えに来てくれていた。先週は私の住む広島へ彼が遊びに来てくれていたので、会うのはたったの1週間ぶりなのだけれど、それでも実在することを確かめられたことが嬉しく、そして安心した。私のパンパンのリュックを代わりに背負ってくれて、地下鉄では席まで座らせてくれた。彼も仕事で疲れているだろうに、疲れ果てておもしろいことの言えない私を責めもせず、彼の家までずっと手を引いてくれていた。
彼が「金曜日はご飯作っておこうと思うけど食べたいものある?」と事前に聞いてくれていたので、私は遠慮もせず本当に食べたかったからあげをリクエストしていた。家に着くと既にいい匂いがしていて、私がソファの前でぼんやり座っている間に彼が配膳してくれた。副菜に明太子ポテトサラダまで作ってくれていた。彼の作ったからあげはしっかりと味がついていて、疲弊した金曜日の夜にぴったりだった。明太子のポテトサラダもとても美味しく、おかわりして食べた。デザートには私の好物である焼きプリンを買ってくれていた。2人とも同じプリンなのに食べさせあった。私があまりに疲れすぎていたため、「明日お家で過ごしてもいいんだからね」とまで言ってくれた。大量の愛を感じて就寝。いつもより狭いはずなのに彼の手を握るとスッと眠れた。
9月14日(土)
朝起きても頭痛が取れていなかった。せっかくの彼との休日だから我慢して身支度しようと思っていたけれど、彼が「眠れた?体調はどう?」と聞いてくれたおかげで「頭痛いよ〜」と伝えることが出来た。昨晩「バファリンある?」と聞いたらないと言われたので、そのままドライヤーをした。その時も彼は私に何かを尋ねてくれていて、もしかしたら「どこか痛いの?」といった質問だったかもしれないけれど、不調を伝えるのが恥ずかしかったため聞こえないふりをした。どのみち、人の話を無視するのは良くないのでやめようと思う。
頭痛がすることを伝えるとすぐに一番早く開店するドラッグストアまで行ってくれて、痛み止めを買ってきてくれた。それを飲むための水まで用意してくれた。「昨日からただの疲れの落ち込みじゃなかったもんね」と気づいてくれていたことが有り難く、昨晩の唐揚げに引き続いて愛を感じた。彼は私のための何かを面倒くさがったことがない。私は彼のことがすごく好きだけれど、彼も私のことを好きでいてくれて、とても大事にしてくれている。いつまでもそうしてもらえるような自分でいたい。
薬のおかげで頭痛は引き、無事にデートすることが出来た。若者と地下アイドルで溢れる街、渋谷へと向かう。彼が美味しそうなつけ麺屋さんを調べてくれたのでそれを昼食にする。少し並んでいる間にホストのトラックが何台も通った。食券を回収しに来た店員さんが、虫眼鏡の人相を良くしたバージョンのようだった。少し迷ったが、彼も私もオススメらしい胚芽麺を選ぶ。着席と同時に着丼。魚介の風味が濃厚で麺もクセがなく食べたかったつけ麺の味がした。また来たい美味しさ。私たちはつけ麺が好きだ。
そのあとは彼の好きな奇奇怪怪のステッカーがドリンク購入の特典になっているという渋谷の映画館へ。通りかかっただけのニンテンドーショップでうっかりどうぶつの森のキャラクターである鳩のマスターのぬいぐるみを買ってしまった。ぬいぐるみはそう簡単には手放せないため、ずっと可愛がることが出来るかを自分に問うのだが、可愛がれると即答だった。まだコーヒーの飲めない頃から純喫茶鳩の巣に通い詰めていた。無口だけれどあたたかいマスターが好きだ。部屋に早く飾りたい気持ち。彼も無事に特典を手に入れられたようでよかった。ほくほくした気持ちで渋谷を闊歩する。
夜にはイベントをしているらしい下北沢へ。初めての下北沢だったけれど、古着屋さんとカレー屋さんの溢れる街並みがかなりよかった。若者が多いはずなのになぜか静かで居心地が良かった。私はほとんど古着は着ないけれど、彼はとてもシャツが似合う人なので見立てるのが楽しかった。可愛い秋服を着てふたりで色んなところへ行きたい。喫茶店でチーズケーキとアイスコーヒーを飲んだ。将来のことや仕事のことを少し話した。彼と見ている方向が同じで良かった。いつか違う方を見てしまうときが来ても、彼の見る景色を分けてもらえる存在でいたい。
すっかり日が暮れるのが早くなっている。9月らしい、大きな月やうさぎのモニュメントがライトアップされていて幻想的だった。無造作に停められている重機が月面探査機のように見えて、それを話すと彼も同じように思ったらしく嬉しかった。行きたいカレー屋さんも中華料理屋もあったけれど、お腹が空いていなかったためひとまず帰宅。お風呂を済ませ、昨日の残りのからあげを夕食に充てた。今日も彼の手料理を食べられて嬉しい。
ところで、彼は何でも冷蔵庫で保管している。ベッドに横になった彼に満面の笑みで「ちょっとそこのクッキー袋とってよ」と言われ、何かと思うと冷蔵庫の中に美味しいクッキーが数種類入っている袋があった。さもあるもののように「クッキー袋」という語を使う彼が愉快でツボだった。この面白さは伝わらないとわかっているけれど、未来の私が思い出せるように記録。
9月15日(日)
この日は彼が仕事のため6時に起きた。ベランダからささやかな見送り。今日は簿記3級の試験を受ける予定がある。6月に勉強をしていたがそのまま8月の終わりまで手付かずで、最近になってやっと再開できた。ここ1週間は受験生のようなスケジュールで猛勉強してきたが、合格点を下回ることもあり不安だった。前述の通り9月中には必ず取得する必要があり、彼にも簿記を受けることは伝えていたため、悲しい結果を伝えるわけにはいかない。「ほら、私って意外と出来ちゃうから...」と根拠のない自信をどうにか湧き立て、試験会場へと向かう。
ボーダーラインギリギリではあるものの、合格することが出来た。試験時間は60分しかないため呆気なかったが、周りの人にいい報告ができることに安堵した。何より、数字から逃げてしかいなかった人生の中でどうにか向き合ってそれが形になったこと、運転免許以外の履歴書に書けるものを得られたことが嬉しかった。母にLINEすると想定より褒めてくれてありがたかった。
退勤した彼と待ち合わせて新宿へ。夕食にスープカレーを食べた。店員さんがどことなく亀梨くんに似ていて、こじんまりとした店内にカジュアルな雰囲気が合っていた。カレーもかなり美味しく、野菜もたくさん食べられてよかった。彼と色々なものを外食してきたけれど、こうやって初めて一緒に食べるものがまだあるのは嬉しい。
簿記3級合格を伝えると「ケーキ買わなきゃね〜!」と言ってくれたが2人ともお腹いっぱいになってしまった。お祝いなのかどうかはわからないけれどカレーは彼がご馳走してくれた。コレ、かなり嬉しいので今度は私がご馳走してみたい。
少し歩いてマーメイドコーヒーというカフェへ。入店するなり「こんばんは〜」という挨拶があって嬉しい気持ちになった。コーヒーの匂いに包まれた店内で彼はアイスコーヒーを、私はコーヒーレモネードを注文した。お腹いっぱいのはずなのにスコーンも付けた。このお店の店員さんもかなり洗練されていて、親切でよかった。何よりカフェの居心地がよく、理想的なリビングのようだった。案内されたのが横並びのソファ席だったこともあり、コンビニコーヒーを飲みながら公園のベンチで話していた1年前を思い出した。ふざけたことをたくさん言い合って、接客はこうあるべきだ、みたいな思想に近いものを押し付けたりもした。どんな話も彼となら出来る。どんな話もしてくれるだろうという信頼も、どんな話も聞いてくれるだろうという信頼もある。こういう時間が一番好きかもしれない。
9月16日(月・祝)
7時半起床。一度も目覚めることなく熟睡していた。起きた彼とそのままダラダラしていたら気づくと10時だった。ピクニックがしたいのにいつまでも暑いよ〜と文句を言いながら支度。サイズの合わなかったシャツを彼に譲ったのだけれど、それがあまりに似合っていてむしろサイズが合わなくて良かったとさえ思った。
中目黒のdaco(ダコー)というパン屋さんへ。ここは福岡にあるダコメッカというパン屋さんの系列店である。以前2人で福岡のお店に行ったことがあるのだけれど、そのときの感動をいまだに忘れられずにいたのだ。やっと来られて嬉しい。福岡よりも全体的に小ぶりなおかげでたくさんの種類のパンを食べられたし、ドリンクのメニューも豊富でありがたかった。少し並んだけれど想像よりスムーズに入店することが出来た。甘いものが好きな恋人って本当にありがたい。普段だと選ばないようなパンを食べることが出来るのも嬉しい。かなりいい時間を過ごしたけれど、ところでハズレのパン屋さんがこの世に存在しようか(反語)
恵比寿の食器屋さんや雑貨屋さんを巡った。食器はもちろん、私は箸置きが、彼はコースターが目当てでかなり好みのものも見つかったけれどひとまず見逃してみた。買えば良かったと後悔するかもしれないけれど、こういうものを揃えるのは二人暮らしが始まってからでいいかなと、どうしてもそう思ってしまう。確定した未来ではないけれど、必ず来る未来ではあるから。
休憩で入ったスタバで今度のデートの計画を立てた。最終日の夕方にはどうしても寂しさが脳を掠める。それを誤魔化すためには未来のことを考えるしかない。切なくなりそうなところを、彼がおふざけで笑わせてくれて良かった。2人で生きていたい。ティバーナ限定の和栗紅茶フラペチーノはかなり美味しかったので芋派のあなたも是非飲んでください。
夕食に餃子を食べた。おしゃれな店内に反して本格的な味で美味しかった。ここでは寂しさにかなり支配されてしまい、少し気を緩めたら泣いてしまいそうだった。ここも彼がご馳走してくれた。「お金があったからね」「お金なくなったら利子付きで請求するから」とふざけたことを言って私の気が楽になるようにしてくれるのが愛だなと思う。
丸の内を少し散歩して、彼が改札内まで送ってくれた。泣くつもりはなかったのに涙が出ていた。遠距離恋愛になって半年が経とうとしているのに一向にこの寂しさに慣れないどころか、むしろ増している気がする。でもそれは彼との日々が楽しいことの証拠で、だから決してマイナスな感情ではないのだけれど、今晩ひとりで眠らなければいけないという現実を受け入れられない。彼も現実を生きているという事実だけが支えになっている。私は本当に彼のことが好きだし、きっと彼もおんなじなのだと思う。愛する人に愛されている事実を、今日は彼の代わりとして抱いて眠ろう。おやすみ、またね。