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透明日記「薄曇り」 2024/06/15

体調はよくなったと思っても、咳が続いて煩わしい。

寝る前に咳がよく出るような風邪を引いたみたいで、昨日はなかなか眠れなかった。眠れないからマンガを読んだ。しばらく読むと眠くなって、寝る体勢を取ると、待っていたように咳がよく出る。咳が出ると眠れないのでマンガを読む。

というようなことを繰り返してようやく眠れたが、暗い部屋の中、布団の上で咳き込んで身をよじっているのは、すごく心細かった。

こんなに眠れないなら、眠ったら死んでしまうのではないかと怖くもなる。咳が出るのでリビングで茶を飲みに出るのだが、常夜灯の薄ぼんやりのリビングは物という物も寝静まっていて、半分ばかり死の世界のような気もする。

あまり眠れなかったが、朝は七時に目が覚めた。ぼんやりとして何もする気がしない。起きたのだから、寝る気もしない。そんな状態でこれならできると思ったことをする。リビングでちびまる子ちゃんを観る。録画してた先週のやつだ。ぼんやり観ているうちに終わり、眠くなり、寝た。

ガサガサ騒がしい音がして目が覚めると、母が「ゴミ、ゴミ」と言いながらゴミ袋を持ち歩いている。リビングの電気が全力で明るい。部屋に朝の感じが溢れているので、数時間前に死の気配を感じていたのがアホくさくなる。時計を見ると8時50分で、ゴミ屋の9時にはまだ間に合う。自分の部屋のゴミとベランダの吸い殻を取りに行って、ゴミ袋に入れる。そのままゴミ袋を持って、マンションの廊下に出る。

吸い殻を最後に捨てると、ゴミ袋を縛るときに灰が舞う。今日もそうしたので、廊下でゴミ袋を縛ることにした。廊下に出ると、溝を灰色の塗料で下塗りする作業員がいた。灰が舞うところを見られたり、あとから灰の欠片を見てあの時のアイツのアレかと思われたりするのは具合が悪いが、時間がないので玄関前でゴミ袋を縛った。

案の定、灰が少し舞った。舞ったのを見てから、作業に支障はないだろうかと懸念したが、出てしまったものは仕方ない。作業員のおっちゃんに挨拶してゴミを捨てに行った。

家に戻って、少し前の「映像の世紀」を観る。ビリー・ホリデイの「奇妙な果実」。人種差別に対する抗議で、公民権運動、ボブ・ディラン、ブラックライブズマターとかにつながる内容だった。

アメリカから帰国中の妹が興味をそそられたらしく、部屋から出てきて豆大福を食べながらテレビを見始める。豆大福が気になるが、寝転んでいるので起き上がるのが面倒くさい。後でもらおうと思い、豆大福を我慢して「映像の世紀」を観た。

近所にランチに行くことになったので、朝食は食べず、ラムネとか豆大福を腹に入れ、主食を避けて朝をやり過ごす。

「ダーウィンが来た」のアメンボ特集を観ていると、インターホンを鳴らす者がある。玄関へ出ると、エホバの証人だった。肌がもちっとした丸顔の若い女と頬のこけた作り笑いのおじさんという、あまり見ない感じの組み合わせだ。

女がいくつか話すあいだ、後ろのおじさんに何回か視線を投げたが、投げた分だけ作り笑いをニタっと返された。チラっと見ると、ニタっと返す。幸せではなさそうだ。

少しの応対だったが、女は家が裕福そうな感じで、慈愛に満ちた高貴な雰囲気もあり、人を幸福へと導きそうな趣きを持っていたが、おじさんの方は、笑ってさえいれば幸せが来ますと盲信するような、知恵の浅い哀れなところがあって、その笑みはなんの心も含まない全くの作り物で、どこか必死で余裕がなく、救いがない貧相な雰囲気を感じさせ、自分でも気づかないうちに、人を哀れな盲信に引きずり込みそうな人物であった。

アメンボ特集を観ていたところなので、話を聞く気はない。いくつか印象を受け取って、適当なところで今ちょっと、と曖昧な返事をして、紙だけ受け取ってドアを閉めた。

ランチは三人ともエビフライとヒレカツの定食を食べた。前に頼んだときはヒレカツが二つだったらしいが、ヒレカツが三つになってパワーアップしていた。でかいエビフライが美味い。タルタルもなんか美味くなったような気がするが、何が変わったかまでは分からない。

漬け物にみぶなの刻んだのが入っていたけど、生姜の小さく刻んだのが絡まっていて、意外な辛さがあってよかった。漬け物に生姜を合わせたのを初めて食べた。これも前はなかった。半年のうちに色々変化がある。

定食は全体的に豪華になった印象があった。揚げ物の下にとんかつ網を敷くのもやめていて、それもよかった。とんかつ網はいらない。なくなって初めて、うっすら嫌いだったことに気付かされた。

ご飯を食べて家に帰ると、寝不足を思い出しましたので寝ましょう、ぽかぽかしてるでしょう、気持ちよく寝れますよ、と身体が勧めるので、寝ることにした。

2時間ぐらい寝ると夕方になり、朝から続いた薄曇りは本曇りに変わり、細かい雨を降らしていた。

喉の調子はまだ治らないので、のど飴のヴィックスを買いに行く。雨はついさっき、細かく降り始めたようで、路面に雨の匂いが立ち籠めている。細かく降ると匂いが持続して濃くなるものなのか、蒸せるような不快感を感じるほど、雨の匂いが濃い。

臭いなあ、なんか工事現場で使う車の中みたいで、土っぽいっていうかなんていうか、なんか臭いなあ、息するん嫌になるなあ、と思いながら薬局へ行き、用を済まして家に帰った。

帰ってきて、本とか読んでるうちに、晩御飯の時間になった。うめしそご飯、ブリ大根、豚汁、枝豆、刺身。妹がそろそろアメリカに帰るから、リクエストのブリ大根を母が作った。普段ブリ大根を作らないが、リクエストされて渋々作っていた。

テーブルは食べ物で溢れ、混ぜご飯の大きな器、刺身の盛り合わせ、枝豆のカゴはテーブルを横切って並んでいたから、食事中は人の手がテーブルの上に行き交う。ぼくは遠くの枝豆を左手で四つずつ掴み、自分の手札のようにコップの影にストックするという習性を発明していた。

食後、リビングで腹の具合を収めるように休憩し、飴を舐め、しばらくして寝た。

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