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透明日記「猫と川辺で溶ける」 2024/12/03

新しいノートに新しい計画を立てようという予定で一日を始めた。

朝は本を読んで過ごす。漫画家のとり・みきが原田知世の新譜がいいと言っていたので、聴く。いい。冬の朝にすごく合う。新譜で季節が直撃する経験がなかったので、新鮮。原田知世もこの冬をどこかで生きているということが、身近なことのように感じる。

昼にノートを買う。左の方に縦線が入っていて項目が見やすい感じのものにした。

しょうゆラーメンを食いに行く。食った食った、となってカフェで今後のことについて考える。

無職を長く続けると時間が無限にあるように思えてくるけど、いざ仕事を探そうとすると、いろいろ他にもやりたいことがあって、時間には限りがあるんだなということに、今更ながら気が付き、慄く。

決まっていないことも多いけど、ぼちぼちやっていこうと思う。

夕方、散歩する。うららか。春が来てる。空気が柔らかくて、肌に馴染む。気持ちいい。

淡い藤色の空がそう思わせるのか、川辺はなんだか甘たるく、色気があった。身体中に気持ちのいい粒子が溢れる。筋肉が柔らかくなる。身体が液体。柔らかい心で土手を歩く。動かす足に抵抗がないのが不思議で、一歩一歩と足を出しているうちに遠くまで来る。

猫が護岸の草むらで休んでいた。近くの階段を降りていくと、猫は逃げ、土手の斜面に黒いシミとなる。少し時間を置く必要があると思い、一服。

甘たるい風景を枕にうっとりとして、意識が細く流れていく。ぼくは川辺になっていた。川辺の一部が自分になって、自分の一部が川辺になって、自他の境界がいつしか消えて、ぼくは川辺。タバコを吸い終わっても動く気にならず、とろんと川辺に溶けていた。

あ、猫。と思って立ち上がり、隣の階段に行く。斜面で屈む猫と同じ高さで休む。目が合う。ニャーと言って寄ってくる。しゃがむぼくの身体の周りを行ったり来たりして、身体を擦り付けてくる。

猫は、左に右に座ったり屈んだりするけど、いつもあっちを向く。座るときは尻尾だけちょこんと靴の傍に寄せたり、身体の一部をぼくの脛に寄せてくる。背中をぽんぽんして屈ませ、夕方を静かに眺めて過ごす。

足がしびれるので、階段に腰をおろす。猫は足の間に入ってきて、身を屈めた。むしゃむしゃと股間をいじるように、足の間の猫をいじる。自分の手がやらしくて嫌になるので、少しいじって手を置くだけにする。

猫はとても静かで、川辺にうまく溶けていた。

陽が沈んでいく。まだ明るいうちに、猫とバイバイした。離れがたい気持ちになる。少し歩いて振り向いて、少し歩いて振り向いて、こっちを向く猫を見る。猫はじっとしている。去るもの追わずの猫の姿勢に、太くて弾力のある年齢を感じた。

生きて、しっかりと老ける。あんな風に年を重ねたいなあと、猫を見て思う。どんな風になのかは、よく分からない。なんだか、尊いものに触れた気がした。

歩いて帰る。色々調べる。夜は膝が冷える。

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