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『伝染るんです。①』P14左〜親しさと礼儀〜
まあ、まあまあ。触れ合う肩、汚げな笑み、まあ、まあまあ、お互い人間じゃないですか、そこは、お堅いこと言わずに、まあ、エロいことしようってんじゃないんですから、まあまあ、濁される言葉、暗示的に歪む唇、まあ、まあまあ、パーソナルスペースを押し破る下心、偽りの親愛、まあ、まあまあ、ここで出会ったのも何かの縁、あなたとわたしの仲じゃないですか、まあ、まあまあ。
親しみに寄せて相手の懐を探りまた侵入する手合いは、本当のところ親しみなど感じていない。親しさの中に育まれるものは礼儀であり、礼儀を欠いた関係は一方が他方を手段にしようという、いたずらな心から来るものである。まあ、まあまあ、無礼講じゃないですか、なんてのはもってのほかで、無礼講は言いたいがために言われるタテマエで、ある意味礼儀であり、まあ、まあまあと、無礼が許される余地はどこにもない。ところで、「まあ、まあまあ」が礼儀になるのはどこだろう?