物語を、完全に終わらせない。【浅生鴨さんと2022年08月10日の夜①】
「ひとくち、ひとやすみ。」がコンセプトの食べるnoteマガジン『KUKUMU』。毎週水曜日の記事公開直後にTwitter上で雑談スペースをしています。あるとき主宰・編集の栗田真希と、はじめての短編小説を書いたよしザわるなが話すふたりのスペースを、たまたまのぞきに来てくれたのが、作家・浅生鴨さんでした。
これから小説を書きたい人のために、アドバイスをくれる鴨さん。その声の後ろには、ときどき右左折するためのウィンカーの音が、カチカチ聞こえてきます。話を聞いていくと、なんと9月13日発売の『ぼくらは嘘でつながっている。』の修正原稿を、編集者の今野良介さんの家まで届けに行く途中だというのです。発売ひと月前の、8月10日の夜に。
全5回、運転しながらの鴨さんのお話を、どうぞお楽しみください。
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よしザわ:ギリギリまで推敲して、栗田さんにも何度も編集してもらいましたけど、今週の『KUKUMU』の記事も無事に更新できました(笑)。
栗田:いい形になってよかったですね。
よしザわ:小説は新しい試みなので緊張しましたね、ポチっと公開ボタン押すとき。
栗田:るなさん、小説を書いてみてどうでしたか?
よしザわ:「ライターは嘘は吐かない方がいい」とわれらが先生の古賀史健さんに教えてもらったじゃないですか。なので、なるべく嘘を吐かない、話を盛らないっていうのを日ごろ気をつけているんですけど、小説はいいですね、嘘吐き放題だから(笑)。気持ちよく嘘が吐ける場所っていいなぁと思いました。
栗田:今度“嘘”についての本を出す、浅生鴨さんがスペースにいらしてるところで、嘘の話を(笑)。
よしザわ:せっかく浅生鴨さんもいらっしゃるので、「そういえば嘘つき放題だな」と思い返してました。
栗田:はじめての小説、むずかしかった部分はありますか?
よしザわ:そうですね、最後が全然しまらなくて。小説を書いてる人って、広げた風呂敷を畳むのが上手なんだっていうのを痛感しました。わたしは全然駄目ですね。うまいこといかなかった気がします。 そこは反省中です。
栗田:どう終わらせるかってむずかしいですよね。
よしザわ:小説に限らず、ライターとしてどんな文章を書く場合でも、やっぱり最後のまとめは重要ですし、むずかしいです。どうしたらいいんですかね? 浅生鴨さんに教えてもらいたい。
栗田:たしかに、訊きたいですね、そういうお話。
よしザわ:いま、スペースのスピーカーになれないんですかね?
栗田:るなさん急に、すごいことを……。
よしザわ:浅生鴨さん、いまお忙しいですか?(スペース上で鴨さんがスタンプを押したのを見て)おっ、なんか大丈夫そうじゃないですか?
栗田:えー! スピーカーに招待しました。
よしザわ:やったー! 鴨さん、こんばんは。
栗田:こんばんは。
浅生:こんばんは。聞こえてる?
よしザわ:聞こえてます、ありがとうございます。
浅生:はい。ふははは! なんだろう、急に呼ばれて。
よしザわ:急にお呼びしてしまいました。あのですね、ずばり、広げた風呂敷の畳み方を教えてください。
浅生:広げた風呂敷の畳み方。
よしザわ:はい。今回小説を書いてみて、最初から真ん中くらいまでは書けるんですけど、風呂敷が畳めないなあと、すごく思いました。
浅生:ああ〜、むずかしいよね、終わるのね。
よしザわ:鴨さんでも、むずかしいんですね。
浅生:ぼくはあんまり、風呂敷を畳まない派なんですよ。
栗田:ああ、たしかに鴨さんの小説、そうですね。
浅生:伏線とかもバンバン散りばめて、一切回収しないで終わるという。「えっ、途中に出てきた妹はどうしたの?」みたいな。そういうの平気でやるので。
よしザわ:たしかに。たしかになあ(笑)。
浅生:むしろわざと、あとから伏線っぽいものを足してます。回収しないための伏線を。
栗田:ええ〜!
よしザわ:なんでそんなことするんですか?(笑)
浅生:なんだろうなあ。これはもう好みだと思うんだけど、ぼくは伏線がぜんぶ綺麗に回収されてピタっと終わるタイプの物語が苦手なんですよ。
栗田:どうしてですか。
浅生:そこで物語が完全に終わっちゃうんですよね。だけどいっぱい“もやもや”を残したまま終わると、その物語に穴が開いているというか、ずっとなにかがこぼれ出てくる感じがして、本を閉じたあとも「あの話、どうなってるんだろう?」 って考えられる。そういう“もやもや”を残したいんですよね。
人生って、伏線なんて回収できないからと思ってるから。
よしザわ:はああ、深い。
浅生:深いっていうか、ただ小説書くのが下手なだけなんだけど、わはは!
よしザわ:“もやもや”が残る感覚は、鴨さんの短編小説を読んですごくあります。「なんだったんだろう、あれ?」みたいな。
浅生:「どういうこと?」って理解できないまま終わってしまうのが、ぼくは好きなので。
栗田:風呂敷の畳み方をお聞きしましたけど、そもそも畳まないんですね。では鴨さん、これから小説を書く人に向けて、なにかアドバイスがあったらお聞きしたいです。
浅生:えっと、そうだな。すごく役立つ練習方法があるとしたら。1本書き終えたら、そこがお話のスタートと思って、もう1本書きはじめるといいかもしれない。
よしザわ:続きを書くってことですか?
浅生:続きっていうよりも、「いま書き終えたこのお話は序盤で、ここからいよいよ本格的な物語がスタートします」っていう風に設定しちゃうんです。そうすると、本当に空っぽになった状態から無理やり続きをつくらないといけないので、書く体力がすごいつきます。
ぼくは以前それを2年半、KADOKAWA の連載でやってました。30枚とか40枚の原稿を書いて提出すると、編集者が「ここからお話がはじまるんですよね?」って言うんですよ。
栗田:こわい……!
浅生:ふつうに起承転結で物語も終わって、ぼくは「完璧にできあがったぞ、おもしろいぞ!」と思ってるのに、編集者が言うんです。「ここからですよね? ここまでは序盤ですよね? いまの原稿を10行ぐらいにまとめて、そこから新しい話を書いてください」って。それが2年半、毎月だったので、わりと鍛えられた感じはします。
よしザわ:スパルタトレーニングですね、それは。いやあ、やったほうがいいんだろうなぁ。
浅生:ほんとうにつらかったですけど、ものすごく感謝はしてるんですよ。つらかったけど。原稿を出して「今回は編集者もちょっとうなるぞ」と思ってたら、「今回はレベルに達してないので、このままだと掲載できません。もう穴を開けますか?」って言われるの。しょうがないから再度2本ぐらい30枚のやつを書いて、どっちか選んでくれって送ってね、ずっとそんな感じでした。
よしザわ:すごいなあ。
浅生:つらかった。
栗田:その連載って、いま書籍になってますか?
浅生:『猫たちの色メガネ』っていう、おかしな短編集になってます。編集者からのオーダーがひとつだけあって、それは「毎回、猫が出てくること」。猫さえ出ていれば、あとはどんな話でもいいって言われてました。
栗田:鴨さんが何回も書き直した短編集、気になります。
浅生:ああ、そうだ。「もう1本書く」っていう話に戻るんだけど。一度書き終わると、不思議なことが起きるんですよ。
(つづきます)
さいごまで読んでくださり、ありがとうございます! サポートしてくださったら、おいしいものを食べたり、すてきな道具をお迎えしたりして、それについてnoteを書いたりするかもしれません。