ミックスダウン黙示録:そのいち
~時芳透子さん歌唱『神曲/R Sound Design』の場合~
ついに始まりましたミックスダウン黙示録、第一回目は歌ってみたのお仕事です。まずはぜひ聴いて観てくださいな。
いいでしょ。ベースはダークな歌声なんですけど高いほうへいくとすっと抜ける声になるのが特徴的で、そこを活かしたいと考えながら作業しました。
具体的なサウンドとしてはRさん本人歌唱のテイクを参考にしました。ということで黙示録、始めていきましょう。
・EQ処理
録音の状況として特に気になるノイズ、また部屋鳴り等はなかったのでノイズリダクションは行いませんでした。
今回の最初の作業はEQ処理です。僕はいつもWAVES REQを使います。若干暖かい色がつくのと、スペクトルアナライザーが付いているので気に入っています。EQ処理に慣れないうちはスペクトルアナライザー付きのものを使うといいですよ。ここでの処理は基本的なもので、スマイリングフェイスと言われています。セッティングがこちら。
トランジェントを削らないように注意しつつ、オケとぶつかってしまう帯域を取っていきます。500Hz周辺はEQスイープでカット。
・ボリューム書き・均し
フィルタリングが終わったら次はボリュームを書いていきます。
Studio One(以下S1)はゲインエンベロープを変化させると同時に波形も変わるので視覚的に便利です。もちろん、判断は耳で行っていきます。
パートごとに大体のボリュームをまとめて、手コンプの要領でダイナミクスを決めていきます。ついでにタイミングの修正も気になったところはしました。
そのあと、さらに均す目的でコンプをかけます。LA-2Aで大体-2〜-3dbのゲインリダクションを狙う、標準的な使いかただと思います。
・ピッチ修正
ここまでやったらピッチ修正に移ります。いくつか修正プラグインは使っていましたが、数年前からTUNEを使ってます。他のプラグインだと修正を掛けたとき、冷たい雰囲気になってしまうことがこれに関しては一切ないので重宝しています。
・さらなる下ごしらえ
ピッチ修正まで終わったら一旦ボーカルトラックを書き出します。ミックスプロジェクトを新たに立ち上げて、音作りに入っていきます。
メインボーカルのトラックをパートごとに分割することはよくやります。今回はコンプ処理をそれぞれ変えていきました。
・パートごとのコンプ処理
Aメロ~Bメロ、落ちサビはPUIGCHILD(真空管系コンプ)でトランジェントを柔らかくして、すっと耳に入ってくるようなサウンドに。ブレスはコンプレッションはせずプリアンプとして使いました。ブレスって個人で扱うときはわりとボリューム下げちゃうんですけど、Rさんカバーのテイクがむしろ強調していたので今回は別トラックに分けて調整しました。
サビ前のワンフレーズだけRS124(アビーロードコンプ)を使いました。高域の抜けがとても映えるので、ハッとさせられるかな? と狙って立ち上げました。
サビはさらにトランジェントを前に出したかったのでCLA-76(FETコンプ)でぐっと耳を引き寄せることを目指しました。
1サビの終わりワンフレーズだけoneknob filterをさっとかけています。
・バス処理
個別のトラックはこのあたりで、他の処理はバストラックで行いました。J37でコンプサウンドをまとめて、Doublerでコーラス処理(原曲寄せのサウンドメイクですね)、PUIGTEC EQsで輪郭を立たせて、最後にCLA-3Aでボリュームのおおまかなコントロールをしました。
・空間処理
センドには2種類のリバーブと2種類のディレイを用意しました。
リバーブはまず、オケとボーカルを混ぜる目的のプレートリバーブ。かなり負荷の高いプラグインなので、バンドやトラック数の多いミックスでは渋々諦める事が多いんですが、今回は相性の良さを考えて立ち上げました。きらびやかなCを選択。後段にQシリーズでローカットとボーカルの帯域のブースト/カットをしています。
もう一つはボーカルをまとめるためのリバーブとしてIR-L(コンボリューションリバーブ)。LX-480のサンプルを利用しています。パキッとした高域の抜けと広がりが特徴。今回はプレートリバーブと同様のEQ処理をしています。
次にディレイ。愛用しているのはH-Delayです。今回は使っていないですがS1付属のAnalog Delayも独特の質感が得られて気に入っています。テンポディレイとして使うことが多いです。この曲に関しては4分音符と16分音符の2種類、フィードバックは30%、かなり狭めにフィルターを掛けて暗い感じになっています。
・トラック側の下ごしらえ
トラック側をQ-EQを使ってボーカルの美味しいところを少し下げています。CENTERでMid側を下げることも検討しましたが、自然な感じではなかったのでやめることに。
使うエフェクトが決まったらバランスを取っていきます。原曲はかなりドライだったので薄く掛けるだけにしています。歌ってみたではよくオケに対してボーカルを前に出しています。この時点でさらに細かくゲインエンベロープでボリュームの調整をやっています。
・おわりに
リテイクではピッチ修正とタイミング修正の詰めを行いました。今回は2テイクで納品。依頼時のイメージやリファレンスの音作りが明快でやりやすいお仕事でした。
最後に、時芳透子さんはVtuberの活動をされて三周年を迎えたということで、そのお祝いに微力ながらお手伝いできて嬉しく思います。今後も素敵な歌声がこの世界に響くことを期待しています。