7/7、父が77歳になる喜寿の誕生日に、鎌倉の名物パン屋パラダイスアレイ菌酵母てづくりパンを贈った。
77歳の「喜寿」とは、元々は「㐂寿」と書くらしい。7/7に77歳だから、あとひとつ足して4つ、クアトロセブンにした。
デザインのインスピレーションは、東京から遊び来てシンクロした、しんたろうから。講師はパラダイスアレイと今此処商店店主の淳平くん。
父の誕生日に贈り物をしたのはいつぶりだろう。
この全ての現象が、何か無意識の大きな力が働いたような展開。
小さい頃に誕生日やバレンタインでプレゼントをしても、お前が食べなさいと返された記憶しかないけど、福岡まで送りつければ流石に戻せまい。
一生に一度あるかないかの恥づかしさたっぷりの愛の酵母パン、美味しく食べてくれるかなー。
ーーーupdated on July 14 ーーー
そして今夜、荷物を受け取った父からの電話を受けて、隠れたエピソードをシェアしたくなった。
そう、思えば、うちは天然酵母パンとは深い縁のある家庭。
私の母は1980年代からほしの酵母を使った天然酵母パンを焼いていた。北海道小麦、無農薬のクルミに無農薬のぶどう、といった感じで、原料はこだわり抜く!しかし当時のパンの市場平均価格は100円。そんな時代に普通の家庭の主婦がパンを焼いたところで売れるわけがない。でもおかげさまで主婦の間に口コミで広がり、注文があると自転車をこいで配達していた。もちろん配達代は無料。原価200円以上はするのに価格は100円。当然ながら赤字が積もり積もる。朝4時か5時に起きて発酵状態を確認し、朝7時くらいに焼き上がる。小学生だった私はパンの香りに呼び起こされ、超いい気分で朝を迎え、焼き立てのパンにかぶりつき、学校の友達に持っていくのが楽しみでしかたなかった。しかし、その横で父はコンビニのメロンパンを食べていた。来る日もくる日も。「朝4時に起きてパンの面倒を見て赤字をつくる暇があったら俺を駅まで送れ!それがお前の1番にやる仕事だ!」という喧嘩の応酬が、来る日もくる日も続いていた。「なぜお父さんはこんなに美味しいパンの目の前でこんな機械のような味のするパンを食べられるんだろう。当て付けとはいえ、すごい根性なのか、すごい舌なのか、、、」と思っていた。
母はその後も負けじと赤字になりながらパンを焼き続けて色々なお店にも置いてもらってある程度成功はしたけれど、ある時ふとパンづくりを辞め、オーブンも処分してしまった。私は悲しかった。その時以来、病気のように、「天然酵母」の看板を見たら店に入り、ハード系パンを買い、かぶりついては満たされない舌に同情し、「いいじゃん、いずれ自分があの味を再生すれば。」と言い慰めていた。一向に、「母のあの味」には出会えなかった。でもそうして20年ほど経ったある日、鎌倉のパラダイスアレイの噂を聞き、そのうちあらゆる人からその名前を聞くようになった。そうこうしてある日、友達に紹介したい人がいると言われて訪れたのがパラダイスアレイの淳平くん。そのパンを食べた瞬間、懐かしい酵母の味が舌に残り、細胞が目覚める感覚、何かふつふつと見えないエネルギーが湧いてきて、腸が喜んでいる感じ。これは!?これは!?と、、、その感動は1週間も10日も続いた。それからは、鎌倉に行くと必ずアレイのパンを買って帰るようになった。「ようやく母の味に出会えた!」と、喜びの声が聞こえてきたのは私の腸だった。ある日、アレイでパン教室をやっていると聞いて、参加した。さすが!このパンの触り心地、とんでもない気持ち良さ。赤ちゃんの頬っぺたのような、おっぱいのような、なんだか愛おしくなるような触感と柔軟な伸びが優しさを現している。そしてほのかに空中に漂う酵母の香り。アレイ全体が酵母の優しさに包まれていた。そしてそれは宙を舞い、あらゆる人を魅了して惹きつける。そんなみんなのハブとなっている、アレイ。まるで、コペンハーゲンのエコビレッジ「クリスチャニア」がコペンハーゲンのリビングルームと言われるような、ここ”鎌倉のリビングルーム”は、あらゆる菌を引き寄せ、あらゆる人を引き寄せる天国。
そうこうするうちに、気がつけば鎌倉で仕事を得て鎌倉に移り住んでいた。そして気がつけば、あれほど夢こがれたパンを、アレイの淳平くんが育て伝承したパラダイス菌で焼いていた。
そして、普段はかけることなどないのに、ふと思い出してかけたお父さんへの一本の電話は、77才になった日の7/7の誕生日。何かサインが教えてくれたみたい。
その翌日、偶然にもアレイにいて、「お父さんが昨日の7/7に77才を迎えたんだけど、何を贈れば良いのかわからない。昨日電話をしたら77才は『喜寿』だと言ってた。お父さんはプレゼントを受け取らないからただでさえ何をあげていいかわからないのに、特別すぎてますますわからない。」と呟いた私に、淳平くんは、「自分でパンを焼いてあげたら嬉しいんじゃない?」と言った。私は「いいね!」と思うと同時に、「パラダイス酵母を使って自分で焼くパンは好きだけど、毎回同じようにはいかないし、たまにカッチカチになっちゃって老人にはとても噛める代物じゃないからなー。」と思っているうちに刻一刻と時間は流れていった。
そんな私に、偶然が重なり、淳平くんに教えてもらってこんな素敵なパンを贈ることができたのだ!
誕生日からちょうど1週間後の今夜、父から電話があった。「なんかすごいのが着いたぞ!」と。どうした?と聞いたら、「おばあちゃんのお骨の仏壇に供えている」と。
「お願いだから食べて!天然酵母のパンだよ!お母さんが焼いてた天然酵母パンだよ!切り分けていいから冷凍して毎朝トースターでチンして食べて。絶対食べてね!」と言い放ち、奥から出てきた新しい奥様にもお伝えして電話を切った。奥様によると、どうやらフワフワに焼けるトースターがあるらしい。安心した。お父さん、奥さんに愛をもらって生きてるんだね。よかった〜❤️
そして淳平くん、ありがとう!