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【期間限定】新刊『令和元年の人生ゲーム』第一話が無料公開中!

 春は新生活の季節!慣れない環境で頑張る新大学生の皆さんを応援すべく、新刊『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)第一話を期間限定で無料公開しました。

 僕が上京することが決まると、父親は晩酌中に「大学は人生の夏休みだ」と言って聞かせてきた。地元の徳島大を出て、そのまま地元の地銀に就職した彼によると、「どうせ社会人になったらその先40年は働かなければならないのだから、大学生の間は人生最後の夏休みだと思って、授業なんて適当にサボって、徹夜でマージャンをやったほうがいい」のだという。実際、彼自身もそういう怠惰な大学生活を送っていたそうだ。
 しかし、僕はそうは思わなかった。大学時代は将来にとって意味のある、価値のあることをしなければならない。だって、僕はこれまでの人生で十分に努力して、名門大学に現役で合格するという成果をようやく得たのだ。それなのに、大学4年間遊び惚け、就活に失敗し、微妙な会社の内定しか取れないだなんてことがもし起きたりすれば、せっかくこれまでの18年間で積み上げてきたものが全て無駄になってしまうじゃないか。そもそも、夏休みといえば遊ぶもの、という前提からしっくり来ていない。塾の夏期講習なんかがあったから、夏休みに存分に遊べたのは、小学校低学年くらいまでだった気がする。
 だから僕は、迷わずイグナイトを選んだ。きっと、僕の人生には無限の可能性がある。「活躍する先輩社員」みたいな感じで大きな会社の新卒採用ページに載るかもしれないし、役員や社長にだってなれるかもしれない。そんな未来に辿り着くためにも、父親のように徹夜でマージャンをするのではなく、ビジコン運営サークルで圧倒的に成長する大学生活を選んだのだった。

『令和元年の人生ゲーム』第一話より

 学生起業ブーム全盛期の2016年。第一志望だった慶應義塾大学に合格し、徳島から上京した「僕」が出会ったのは、清々しいほどの意識の高さに満ちたビジネスコンテスト運営サークル・イグナイトで「できれば学生のうちに起業したい」とアツく語り合う同期たちと、イグナイト代表にして元高校生起業家の吉原さん。そして吉原さんに冷笑的な態度を取っているくせに、どういうわけかサークルに居座り続ける不気味な男・沼田さん。

 当初は沼田さんを毛嫌いし、同期たちと熱心にサークル活動に取り組む「僕」だったが、次第に同期たちの「意識の高さ」の正体が透けて見えてきて……

 そして、「今年のイベントが終わったら、絶対に、2度目の起業をします」と宣言していた吉原さんが発表した起業プランによって、イグナイトの空気は突如として一変して……

 愛したコミュニティは崩壊し、信じていた人には裏切られ、失意と不安の中で「僕」が下した決断とは……

 賢すぎるせいで、要らぬものまで見えてしまう。立派なことばかり偉そうに言っている他人の空虚さも、そして自分自身を待ち受ける、あまりにパッとしない未来も― それでも、何かに追われるように走り続けるしかない若者たちの群像劇です。面白いのでぜひ読んでネ。

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