自分の言葉
私は大学時代、ボート部に所属していた。
膝に爆弾を抱えていた関係で、
2年生の秋に、選手を諦めた。
そこからコーチングスタッフとして、
裏から選手を支える道を選んだ。
練習中、
それまで必死にボートを漕いでいたのが、
コーチの横について、コーチの言葉を聞く機会が増えた。
先輩方を見ていて、少し気になっていたことがある。
それは、例えば何か新しい取り組みをする際、
そんな枕詞で、導入の説明をしていた事。
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当時、部には日誌があった。
部員全員が持ち回りで現状や思いを記す交換日記のようなものだ。
ある時、部室を片付けていた際、
殆ど名前も存じ上げない、自分が入部する前に既に卒業されていた先輩方の日誌を見つけた。
その中に、こんな記述があった。
この文章をお書きになった先輩、
その方の大学生活&ボート部生活ラストイヤーに
コーチが新しく就任されたことを知った。
大学スポーツとは、基本的に学生の自治である。
練習メニューも試合の準備も何もかも
自分たちで考えて決める必要がある。
恐らくこの先輩方が3年生の時までは、
様々なことをご自身で考えて決めてこられたのだろう。
それがコーチが就任されたことで、
少なくとも練習の仕方等はコーチ任せに出来るようになった。
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最上級生になる前、
レースなどで良く、別の大学の人に言われた。
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【ベクトルを合わせる】
【目標にコミットする】
【心を一つにする】
【全員で一丸となって】
これほど『言うは易く行うは難し』な言葉もない。
考えや方針を、組織に浸透させるのが
如何に難しい事なのか。
逆に、簡単な方法がある。
『権威を借りる事』だ。
元々の自分の意見に力を添える意味合いで
誰かの権威を使うならそれは良いと思うを、
立場や経験や実力が上の方から何か指示されて、
『この人が言うのだからこれでいいのだろう』
心からそう感じて、指示のまま自分が動くのも
それはそれでよいと思う。
ただ、【人に伝える】段になって
『あの人がこう言ったからこうやろう』
それでは中々一丸となるのは難しい。
自分が心酔している人を、
皆が心酔しているとは限らないからだ。
だから、
自分自身がその指示を深く理解して咀嚼して消化して、
【自分の言葉】で伝えることが必要になる。
誰かの言葉であっても、
深く理解して消化して自分の言葉にすれば、
それは自分自身の言葉として、
自分に残り続ける。
自分の口から出る言葉、
それを、誰かからの借り物ではなく、
常に自分の言葉にした上で、
そこに説得力があれば、
きっとうまくいく。