百年の命〜後編〜
虹の向こう側は薄い霧に包まれ
キラキラしています。
自分の命をかけてでも、飼い主の女の子の願いを叶えてあげたいというもん太の気持ち…
喧嘩しながらでも、カモメはもん太を虹の女神様のところまで連れて行ってくれました。
女神様はもん太の遮りました。
『それ以上言わなくても分かっています。あなたは本当に主人の願いを叶えたいと思っているのですか?』
女神様は七色に輝く美しい髪をたなびかせて、もん太の直ぐ傍までやってくると、優しく悲しげな声で言いました。
『願いを叶えるということは、そう簡単なことではないのですよ。そのためには、私の命を削って出来た石が必要なのです。』
もん太は少し不安げに、でもしっかりとした口調で尋ねます。
『その石を頂くためには、どうすればいいのですか?』
女神様はもん太を優しく手のひらに乗せて答えました。
もん太は女神様の言葉に驚きませんでした。
カモメの様子から、何となくそうじゃないかと思っていたのです。
『あなたの命は、このまま川に戻って平凡に暮らせば、あと百年は生きられます。もん太よ。もう一度聞きます。あなたはあなたに与えられた百年の命を捨ててでも、主人の願いを叶えたいと望みますか?』
もん太は迷わず答えます。
『僕の命は、主人が車の事故から守ってくれなければ、三年前になくなっていました。主人にもらった百年の命。主人のためならなくしても構いません!』
女神様はもう何も言わず、黙ってもん太に自分の命を削って出来た石を差し出しました。
もん太はそれを口で受け取ると、女神様の手からカモメの背中に移してもらい、女の子のもとへと帰って行きました。
もん太が女の子の部屋に辿り着いた頃には、もう夜も明けようとしていました。
女の子はいつもん太が帰って来ても良いように、窓を開けたままにしておいてくれていました。
カモメが女の子の部屋の窓枠に降りると、もん太はカモメの背中から水槽に移りました。
『カモメ君ありがとう。感謝するよ。』
もん太がそう言うと、カモメはむくれて横を向きました。
『感謝なんかされたくないね!こんなの自殺の手伝いと同じじゃないか!何でお前が人間なんかのために死ななきゃならないんだよ!馬鹿げてる!』
カモメは最後まで憎まれ口をきいて、空の彼方に去っていきました。
でももん太には分かっていました。
憎まれ口はカモメなりの、もん太への友情の印なんだということが。
『ありがとう。大好きだよ。カモメ君。』
朝が来て、女の子が目を覚ましました。
夢の中に、虹の女神様が出てきて言いました。
『朝、目が覚めた時に空に虹の橋を掛けておきます。あなたはもん太の水槽から青く光る石を取り出し、握りしめてその橋を中央まで渡りなさい。そして、そこで石を持つ手を高く掲げ、願い事をひとつ三度唱えるのです。すると石は赤い光を放つでしょう。そして、あなたは赤色に変化した石を握りしめたまま、最後まで虹の橋を渡り切るのです。そうすれば、石はあなたの手から消え、あなたの願いは叶えられるでしょう。』
女の子はベッドから降りて窓の外を見ました。
すると夢のとおり、そこには七色の虹が掛かっていました。
女の子は驚きました。
『正夢だわ!』
そして夢のとおり、もん太の水槽の中に青く光る石を見つけると、中から取り出し、手のひらにしっかりと握りしめました。
『がんはれ!』
もん太がそう言ってニッコリ笑ったような気がして、女の子は虹の橋を渡る決心をしました。
女の子は窓枠に上がり、虹に向かって足を踏み入れました。
一歩…二歩…三歩…
女の子はゆっくりと虹の中央に向かって歩き出しました。
もん太はその様子を水槽の中で息を呑んで見守っています。
そして、大きく深呼吸して
石を持つ手を空高く掲げました。
虹の女神様が現れて女の子に言いました。
『あなたが願い事を唱える前に、ひとつだけ確かめておきたいことがあります。
あなたにとって一番大切なものは何ですか?
友達?それとも、美人になって頭も良くなること?
この虹の橋は、あなたの飼っている銭亀もん太が、自分の命と引き換えにしてでも、あなたの願いを叶えてあげたいと言って架けられたものです。
でも、あなたはそれで良いのですか?
もん太に与えられるはずの、百年の命を犠牲にしてでも、自分の願いを叶えたいと望みますか?』
『そんなのダメ!!』
女の子は叫びました。
『もん太は私のかけがえのない友達!どんな時でもいつも一緒にいてくれた…そんな大切な友達を、たとえ夢でも殺さないで!!
命より…大切なものなんて何もないわ』
女神様はニッコリ微笑んで言いました。
『確かめておいて良かったわ。』
窓辺の水槽の中で、もん太は女の子の気持ちを知り、嬉しさに涙を流しました。
もん太の事が心配で戻ってきたカモメも泣きました。
『人間も…悪くないじゃん。』
気がつくと、女の子はいつの間にかベッドの上にいました。
ベッドの上で女の子は思いました。
『今の出来事は…夢?』
女の子はベッドから降りて、もん太を水槽から取り出すと、手のひらに置いて言いました。
『夢じゃないよ。本当のことだよ。』
でももん太は思いました。
女の子がそれを夢だと思っているなら
それでいい
素敵な夢は生きるための勇気をくれるから
窓の外を見ると昨夜のカモメがらいて、女の子の部屋の窓枠にとまりました。
『あら、また遊びに来たの?…良いけど…もん太を何処に連れて行っても良いけど…必ずここへ返しに来てね。もん太は私の大切な…大切な…
親友だから。』
カモメは羽根を二回バタバタさせて
『分かった』の合図をしました。
女の子もそれに気づいて、もん太をカモメの背中に乗せ、大空に飛び立ちました。
『なぁ…もん太』
と、カモメが言ったので、もん太は驚いて
『珍しいな、カモメ君が人間のつけた名前で僕を呼ぶなんて!』
カモメは照れて、それには答えず
『なぁ、今日は三年ぶりに川へ里帰りでもするか。』
と、もん太に聞きました。
もん太は静かに『うん。』とだけ答えました。
百年の命〜後編〜 完結
姉とのコラボ作品
前編、中編、後編の三編に分けて投稿させて頂きました。
最後までお読み頂きありがとうございます。
かけがえのない命をテーマに
コラボした姉との共作。
文字数が多く、絵本としては発行出来なかったけど、児童書として小学生から大人まで、亀好きな人にでも喜んで頂けるような夢のある内容です。
実は主役のもん太君は
三年前まで姉が実家で飼っていた岩亀をモデルにしたものだそうです。
骨の老化が進んで、水を変えることが出来なくなり、近くの川に返してあげる際、もん太はじっと姉を見つめて、そこから動かなかったそうです。
もん太に与えられた百年の命は
物語の女の子にとっても
姉にとっても
かけがえのないものだったのでしょうね。
『もん太…まだ生きてるかなぁ』
そう呟いた姉の孤独な優しさ
これからも応援したい…
皆様もお時間宜しければ
引き続き温かいコメント📝
宜しくお願い致します。