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【400字小説】手品師の掌【一掬の物語】
■まえがき
X(旧Twitter)へ『一握の物語』という140字小説を載せています。いつも文字数を140字ぴったりにしているのですが、時折どうしてもはみでてしまう物語があります。そうなったらむりやり押し込めるのは違うので、400字ぴったりにします。これを『一掬の物語』とします。
■手品師の掌
「今日のリアクション代行ビミョーじゃなかった?」
ビルの外階段に座る僕の前を、顧客の友人が通り過ぎた。僕はサプライズが苦手な人の代わりに、リアクションをする仕事をしている。近ごろ上手くいっていないのはわかっていた。
薄ら笑いを浮かべる下弦の月へ紫煙を吹きかける。それは街灯りの上を寄辺なくさ迷い、滑らかな陶器の花に消えた。差し出された彫刻皿の上を、とろとろのブランマンジェが滑る。
「サービスです」
金髪のウェイターが深紅のナプキンを翻すと、冷菓はふくふくした白兎に変わった。
革靴の先へ煙草の灰が落ち、前屈みでそれを払う。
「すみません……反応、下手で」
自嘲気味に笑いながら、携帯灰皿へ吸殻を捨てた。
「いいや」
ひんやりと心地好い掌が首筋に触れ、思わず顔を上げる。わずかに上がった唇の端から尖った犬歯が覗いた。
「鼓動が早くなっている。大袈裟にしなくたって私にはわかりますよ」
左胸で咲いた白百合がしとやかに香った。