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透明性がよいチームをつくる

かつて、ビジネスにおいて情報の透明化はタブーでした。細かなことから重要なことまで、情報を厳しく管理し、不透明であればあるほど、トップダウンのコントロールが容易となり、成功につながったのです。作業に直接関係ない情報は、現場に混乱をもたらし、効率が落ちる要因だと考えられていたため、伝えないことが最適だとされていました。ビジネスに限らず、歴史的に見ても、国や宗教の運営においても同様の考え方がなされ、情報の開示は体制崩壊や反乱の原因として恐れられていました。

しかし現在では、企業の透明性の低さは、従業員のモチベーションやエンゲージメントが低減させ、ビジネスには逆効果であることがわかっています。Google、Netflix、Spotifyなどの急成長企業では、情報を開示することで社員が自律的かつ主体的に行動し、ビジネスの成功につなげているのです。

つまり、現代のリーダーたちは、優位な立場を維持するために情報をコントロールするのではなく、情報を公開することで信頼を得ることを選択したのです。また、情報をコントロールして現場に細かい指示を出すよりも、情報を開示して現場に自律的に動いてもらう方が、ビジネスとして有益であることに気づいたのです。

1. 透明性とは?


1.1 情報がもたらす価値を最大化すること

透明性とは、情報が制限なく流通し、タイムラグが少なく、誰でもアクセスできる度合いのことです。透明性の高いチームでは、役職や職種に関係なく、すべての情報をタイムリーに閲覧することができます。さらに重要なことは、その情報がもたらす価値が最大化されることです。

透明性は、単なる「見える化」「可視化」とは異なります。これらは主に、人間には認識しにくいものを定量的に整理し、視覚的に認識できるようにすることを指します。しかし、透明性には、人間が認識しにくいものだけでなく、人間が意識的・無意識的に隠しているものも含まれます。

また透明性は、単なる「情報共有」とも異なります。これは自発的な情報発信を指します。しかし、透明性には、情報の自動共有や、最初から情報を共有化することで自発的な共有のハードルを下げることも含まれます。透明性とは、情報がただそこにあり、誰でも自由にアクセスできることを意味します。

チームが自律的な意思決定を行うために、透明性求められている情報は次の3つです。

  • 結果(現在):良いことだけでなく、悪いことも含めて、現在何が起きているのか。

  • 過程(過去):決定事項だけでなく、検討プロセスも含めて、過去何をしてきたのか。

  • 計画(未来):細かいタスクだけでなく、全体像も含めて、未来何をするのか。

これらの情報にアクセスできれば、チームは同じ目的意識とチャレンジ精神を持ち、局所最適解に陥ることなく、効果的なコラボレーションを行うことができます。つまり「チームとして今何をすべきか」を常に全員が判断することができるのです。透明性は、チームがアジャイルであるための必須条件です。

1.2 透明性がアジャイルな状態をつくりだす

そもそもアジャイルな状態とは何でしょうか。広木大地さんの『エンジニアリング組織論への招待』では、次のように書かれています。

  • 情報の非対称性が小さい

  • 認知の歪みが少ない

  • チームより小さい限定合理性が働かない

  • 対人リスクを取れていて心理的安全性が高い

  • 課題・不安に向き合い不確実性の削減が効率よくできている

  • チーム全体のゴール意識レベルが高い

これらの要因は互いに影響し合っています。例えば、情報の非対称性は、認知の歪みを生みます。認知の歪みは、局所最適化(チームより小さい限定合理性)を生みます。局所最適化は、不確実性の削減効率を低下させます。また、情報の非対称性と認知の歪みは、疑心暗鬼をもたらし、心理的安全性を低下させます。これらすべてに共通する阻害要因が「透明性」です。

VUCAで語られるように、ビジネスの現場ではますます不確実性が高まっています。同時にコロナ禍の影響で仕事の環境も大きく変化しました。現在、組織やチームには、このような変化に対するアジリティ、つまりアジャイルな状態になることが求められています。


2. なぜ透明性が重要なのか?


透明性を確保することは、簡単なことではありません。これまで管理されていた情報を開示するのは勇気がいることです。不都合な真実を明らかにすることで、チーム内に混乱が生じるかもしれませんし、厳しいフィードバックを受けるかもしれません。

また、透明性を維持するためには、心理的安全性、失敗の受容、そしてフラットな意見を述べることができる組織文化を醸成することが必要です。単に情報共有ツールを導入すればいいという話ではないのです。

それでも現代のリーダーたちが透明性を高めることを選択したのはなぜでしょうか。ここで、透明性が様々な問題に影響することを解説します。


2.1 よりよい意思決定をする

チームがよりよい意思決定を行うためには、意思決定プロセスに関わるすべての情報に透明性を持たせることが不可欠です。そもそも意思決定の質は、利用できる情報によって制限されます。もし十分な情報が得られない場合、その意思決定は局所最適化の対象となる可能性があります。

現在の結果、過去の過程、将来の計画などあらゆる情報に素早くアクセスできれば、意思決定が求められてから、実際に下すまでのスループット時間を短縮することができます。このスループット時間の短縮こそが、アジリティの源です。

2.2 信頼関係を築く

チームで仕事をする上で欠かせないのが「信頼」です。では、信頼関係を築くにはどうしたらよいのでしょうか。それは、お互いがオープンで、正直で、誠実であること、つまり透明であることです。特に、お互いのミスや課題、弱点などのマイナス要素を共有し、受け入れることは、信頼関係を築く上で大切なことです。

職場の人間関係の問題は、期待値のズレから始まります。自分の弱点を隠し、強みを誇張する、他者の背伸びに気づかず、ごまかしを見抜けないといったことはよくあることです。透明性は、お互いの期待値を調整するのに役立ちます。

役職間での情報の非対称性を解消することも信頼関係の構築には重要です。管理職が、仕事内容や進捗状況、課題、悩みなどあらゆる情報を一方的に集めても、管理職にとって透明性は高いが、メンバーにとって透明性は低い状態にしかなりません。これではメンバーは監視されていると感じ、信頼関係を築くことが難しくなります。したがって、管理職もメンバーに同じように情報を開示する必要があります。

透明性を確保するためには、一人一人が隠し事をせず、最初からすべてを開示するオープンな姿勢、正直さ、誠実さを持つことが必要であり、それが信頼関係や心理的安全性の構築に繋がります。


2.3 自己管理する

不確実性に効果的に対処しているチームでは、仕事の方向性、内容、方法について、すべてをチームが決定します。彼らはマネージャーに報告することはあっても、指示を仰いだり、意思決定を委ねたりすることはありません。不確実な状況では、迅速かつ正確な意思決定が求められるため、他人に判断を仰ぐのではなく、自分たちで意思決定を行います

チームにビジネスを意識した動きをさせたいなら、現在の環境で何が起きているのか、将来どうなるのか、といった情報を透明性を確保することが重要です。もしマネージャーが情報統制をすれば、チームの自律性が損なわれ、アジリティが低減します。業績や成長戦略、会社の方針などの情報を共有することで、チームはマネージャーと同じ目線と責任感を持つようになります。

2.4 チームワークを促進する

チームに透明性があれば、お互いが今何をしているのか、何が得意で何が苦手なのかが見えてきます。そのため、仕事を頼んだり、引き継いだり、適切な人に助けを求めたりと、チームで仕事をすることのメリットを最大限に引き出せます

そもそもチームとは何でしょうか。Googleの研究チームによると、ワークグループとチームの違いは、次のように区別しています。

ワークグループ: 相互依存性が最小限という特徴があり、組織または管理上の階層関係に基づいています。ワークグループのメンバーは、情報交換のために定期的に集まる場合があります。
チーム: メンバーは相互に強く依存しながら、特定のプロジェクトを遂行するために、作業内容を計画し、問題を解決し、意思決定を下し、進捗状況を確認します。チームのメンバーは、作業を行うために互いを必要とします。

出典: Google re:Work - ガイド:「効果的なチームとは何か」を知る


ワークグループが機能するためには、透明性はそれほど重要ではありません。しかし、ワークグループではなく、チームがチームとして効果的に機能するためには、透明性が重要です。定期的に集まって情報を共有するのではなく、そもそも情報をオープンにし、誰もが自由に利用できるようにすることがチームを機能させます。

透明性が低いと、チームとしての進捗が不透明となり、仕事を改善する機会が減ってしまい、信頼関係が崩壊します。問題が起きると、チームはお互いを疑い、犯人探しを始め、責任を負わせようと躍起になります。お互いに非難し合い、秘密を暴露し合い、その結果、透明性が高くなりますが、それは一時的なものです。問題が解決すれば、自分を守るために、すぐに透明性の低い状態に戻ってしまいます。

大切なのは、平常時に高い透明性を持つことです。透明性が高ければ、問題の責任は個人からチームへと移行します。「誰もが問題の存在を知っていたが、チームとして対処していなかった」という共通認識により、敵対心を回避し、個人攻撃ではなく建設的な議論を促すことができます。つまり、透明性はチームの対立を回避するための有効な手段なのです。

2.5 効率を高める

メンバーそれぞれが全体像を把握することで、チームのリソース効率やフロー効率を向上させることができます。チームのタスクや進捗状況が見えるので、誰かに指示を仰ぐことなく、比較的空いている時間にやるべきことを素早く判断することができます。また全体の流れが見えるため、仕掛かり品を最後まで完成させることを意識できます。

リソース効率を上げる方法としては「マネージャーが全体像を把握し、メンバーに指示を出す」という方法が一般的です。しかし、これは透明性の観点から見て望ましくありません。この方法はマネージャーの視点からの透明性を確保するだけで、メンバーの視点からの透明性は確保できません

透明性が低いと、メンバーは自分に与えられた部分的な仕事をこなすことだけに集中し、仕事全体を意識しにくくなります。すると、仕事が中途半端なまま放置され、仕掛かり状態の仕事が溜まってしまい、フロー効率も悪くなります。

フロー効率が低いと新たな課題が生まれ、余計なリソースを割くことになります。そのため生産性向上の観点では、まずフロー効率に集中し、次にリソース効率に着手します。もし透明性が十分でなければ、どちらも改善することは不可能であり、透明性を確保することが効率化の第一歩なのです。


2.6 課題を見つける

透明性が高いからこそ、隠し事ができません。マネージャーがメンバーに伝える情報をコントロールすることで、余計な不安を与えないことが重要だと考える人もいますが、そうした情報統制はチームを疑心暗鬼にさせます。そのうえ隠したい事象、特にネガティブな事象がなくなるわけではありません。透明性が低いと、問題の発見が遅れ、その対応に必要以上のリソースを消費することになるだけです。

ネガティブな情報を速やかにオープンにして、背景や状況も含めてメンバーと共有し、チームで問題解決に取り組む方が健全です。不確実な世界では、問題は複雑であり、様々な視点から原因を分析し、解決策を考えていく必要があります。したがって、マネージャーであれ、メンバーであれ、問題は常にオープンにし、一人で抱え込まない方が良いでしょう。

透明性の低いチームでは、話しにくいことや問題は公開しないことがデフォルトになっているので、つい隠してしまいがちです。透明性がなければ、問題点を洗い出し、改善することすらできません。一方で透明性の高いチームでは、透明度の低い部分が目立ってしまうので、隠すという行為自体が困難となり、どんなことも共有することがデフォルトになります。

透明性というのは、そもそも人が積極的に共有することを期待していません。さまざまな施策を通じて、デフォルトでオープンな環境を作ることで、拒絶することなく情報が共有されるようになるのです。「見える化」にちなんで名付けるなら、透明性は「見えてしまう化」です。

2.7 プライバシーを大事にする

透明性は何が何でも公開しようとはしていません。あくまでも仕事に関係する事柄についてだけです。仕事には関係ないプライベートな情報、業績評価、深刻な相談などは透明性の対象にすべきではありません。意外かもしれませんが、透明性とはプライバシーを守ることなのです。

透明性の高いチームでは、透明でない部分が浮き彫りになります。理想的なチームでは、その透明でない部分がプライバシーになります。つまり、透明性があれば、何がオープンで何がプライベートなのかが明確になり、チームは互いのプライバシーを尊重しあえるのです。仕事を進める上で必要な情報が何かを考えることで、知らなくていいことが何かも明確になるのです。

2.8 エンゲージメントを向上させる

透明性は、チームと個人のモチベーションを高め、生産性を向上させます。また、不安や疑念によるストレスを軽減し、帰属意識を高め、充実感を得ることができます。メンバーは、ミスや問題の責任を負わされることはなく、チームと協力して問題を解決することができ、失敗から学ぶことができます。したがって、経験の浅いメンバーは、透明性の低いチームにいるよりも早く、深く成長できます

逆に透明性がなければ、優秀なメンバーの多くは会社を去ってしまいます。マネージャーが情報をコントロールすれば、「人は会社に入り、マネージャーから去る」と昔から言われているように、メンバーを失うことになります。また、透明性の欠如は、不誠実で非倫理的な行動をとる文化を醸成し、メンバーのエンゲージメントを低下させます

人材が流動性が高い現代では、透明性を確保することで、正直さや誠実さ、倫理を重んじるというメッセージを送ることができます。そうすることで、優秀なメンバーを集め、エンゲージメントを向上させることができるのです。透明性は重要な資産であるといっても過言ではないでしょう。

3. どうやって透明性を高めるのか?


さて、現代のリーダーが透明性を重視する選択した理由を説明したところで、実際に透明性を高めるにはどうしたらよいかを紹介します。透明性はある一定のラインを超えると、透明でない部分が強調され、透明性を高めようとする自然な傾向が生まれます。一方、あるラインより下になると、「隠せるから隠す」という姿勢がデフォルトとなり、透明度がどんどん下がっていきます。したがって、透明度を上げるためには、このある一定のラインを超えるまで、これから紹介する方法を実践し続けることが大切です。


3.1 重要性を説明する

あなたがメンバーであれ、マネージャーであれ、経営者であれ、透明性という考え方は、困難でストレスのたまるものです。これまで管理していた情報を開示するのは勇気がいりますし、不都合な真実を開示することでチーム内に混乱が生じたり、厳しい意見が出たりする可能性もあります。したがって、透明性を高めるためには、まず透明性の重要性と利点を十分に説明する必要があります。

透明性の恩恵である「意思決定」「信頼関係」「自己管理」「チームワーク」「効率」「課題発見」「プライバシー」「エンゲージメント」、そしてその先にあるアジャイルな状態を説明し納得してもらい、透明性を高めるために一緒に参加するよう呼びかけましょう。

3.2 マネージャーがサポート役に徹する

透明性を高めるためにまず必要なことは「マネージャーや経営層しか知らない情報」を減らすことです。チームをアジャイルにしたいのであれば、チームを信頼し、意思決定に必要な情報を提供し、相談に乗ることが重要です。

マネージャーの役割を「指示を出すこと」ではなく「チームの成長を支援すること」と捉え、意思決定や優先順位付けに必要な情報をすべてオープンにすることで、チームが自律的に動けるようにします。情報の非対称性をなくし、コミュニケーションをフラットにすることで、チームがより良い意思決定を行えるようにします。

Slackの「Future of Work」調査では、55%の経営者が「自分の会社は非常に透明性が高い」と答えたのに対し、そう考える従業員は 18% でした。そもそも、管理職はより多くの情報を持っている立場です。その観点から見れば、透明性が高いと誤解しやすく、別の立場ではそうではないこともあります。一方的に透明性を高めることは監視に他ならず、信頼を損ない、メンバーは透明性を高めることに非協力的になってしまいます。

おさらいすると、透明性とは、情報が制限なく、タイムラグも少なく、誰でもアクセスできる度合いのことです。透明性の高いチームでは、役職や職種に関係なく、すべての情報をタイムリーに閲覧することができます。したがって、透明性を高める際には、最も弱い立場の人の視点に立った透明性を確保するようにしましょう。

そして、マネージャーは難しい質問から逃げてはいけません。これは技術やスキルに関することではなく、開示することをためらうような事柄に関することです。難しい質問に向き合い、正直に話すことで、メンバーはあなたが本気で透明性を追求していると感じ、信頼し、協力してくれるようになります。マネージャーの行動や態度が、透明性を高める重要な要因なのです。

3.3 心理的安全性をつくる

透明性は信頼を築き、心理的な安全性を生み出します。そして心理的安全性が透明性をより高めます。透明性と心理的安全性には相関関係があります。心理的安全性があれば、失敗を許容し、フラットに発言し、未完成の仕事やプロセスをすべて開示することができるのです。

不確実性の高い世界では、失敗は避けられません。失敗せずに物事を成し遂げることを期待するのは非現実的なので、失敗を受け入れ、失敗によるダメージを軽減し、すぐに改善する姿勢が必要です。失敗を絶対に許さず、非難する文化では、プレッシャーが大きすぎて、懸念や恐怖を正直に共有することさえできません。失敗を許容し、原因を理解し、改善する文化では透明性が高く、たとえ失敗してもダメージが少なく、改善のためのコストも最小限に抑えることができます。

立場や役職に関係なく、誰もが懸念やフィードバック、改善提案などを発信することが奨励されています。重要なのは、誰が言ったかではなく、何を言ったか、そしてそれがチームにとって有益かどうかです。発言者の立場や肩書きを重視しすぎると、経験の浅いメンバーや発言力の乏しいメンバーが発言を控え、チームが重要な問題を見落とす可能性があります。たとえ些細なことや見当違いなことでも、チームにとって有益と思われる情報はどんどん開示するように促すことで、透明性を高めることができるのです。

心理的安全性を確保する方法として、作業をすべて公開することをお勧めします。頭の中で考えていること、試していないアイデア、中途半端な作成物など、仕事を完成させるまでの過程を常に公開することです。周囲からのフィードバックを積極的に集め、失敗を早期に認識し改善する姿勢を体現し、失敗を許容し平然と発言することの重要性を示してください。あなたがそうすれば、他の人もそれに倣ってくれるはずです。

3.4 全員を平等に扱う

取り組む仕事、期待される成果は人それぞれ異なるとしても、得られる情報に差をつけるのは辞めましょう。闇雲に閲覧制限をかけることは、情報の非対称性および認知の歪みを拡大させ、チームワークの阻害要因になります。透明性は、誰に対しても平等であり公平です。マネージャーや経営層を特別扱いすることは極力避けたほうがよいでしょう。

やるべき仕事や期待される成果が人によって違っても、得られる情報に格差をつくるのは控えましょう。やみくもにアクセスを制限すると、情報の非対称性や認知のゆがみが大きくなり、チームワークが阻害されます。透明性とは、誰に対しても平等で公平であることです。マネージャーや経営層を特別扱いすることはできるだけ避けたほうがよいです。

昨今、「経営者が何を考えているのかわからない」「経営者が現場の実態を理解していない」という声を聞くことが少なくありません。これは、透明性の欠如を示しています。経営層と現場の間に透明性がないと、会社の戦略や方針が浸透しません。経営層と現場で対話の場を設けるのは良いことですが、透明性の観点からはあまり有効ではありません。対話せずとも、経営層が日頃からオープンな場で情報やアイデアを発信しつづけていれば、現場は経営層の考えを理解できます

全員が平等に扱われることで、すべての情報がタイムリーに社内に行き渡り、計画や問題点を全社で把握することができます。リアルタイムでの情報共有は、良いときだけでなく、辛いときにも必要です。むしろ苦しいときこそ、透明性を高めることで、噂話や風評によってメンバーが疑心暗鬼になったり、攻撃的になったりする可能性を減らすことができます。

3.5 頻繁に同期する

アジャイル開発手法の一つであるスクラムでは、透明性を高めるために、タスクのサイズ、同期サイクル、仕掛かり品の数を減らすことで問題が露呈しやすくします。同期間隔が広いと、問題を見逃す余地があり、問題の発見が遅れるため、チームにとってリスクになります。同期を頻繁に行うことで、問題の早期発見だけでなく、同期が遅れや失敗も浮き彫りになるため、リスクが軽減されます。

頻繁に同期するために、仕事を素早く完成させる必要はありません。作業途中でもよいのです。未完成品を公開するのは気が引けるかもしれませんが、頻繁に同期することで、フィードバックをもらえます。自信がない人ほど、また過信している人ほど、頻繁に同期して、フィードバックを求めるべきでしょう。

課題を早期に発見することは、チームのリスクを下げる行為であり、周囲からの信頼を得ることにつながります。逆に発見を遅らせることは、チームのリスクに晒す行為であり、不確実性の高い世界では最も罪深い行為です。あなたが信頼を損なうのは課題を発生させたときではありません。それをチームに隠蔽し、発見を遅らせたとき、他メンバーから信頼されなくなります。

また同期を自動化することも重要です。最初から全員が見られる場所で作業・議論すれば、後から能動的に共有する必要はありません。例えば、オンラインでWord/Excel/PowerPointを使用し、共同編集を許可すれば、編集内容はリアルタイムで共有されます。チームで議論する場合は、オープンチャンネルでのテキストコミュニケーションをします。個人作業では分報を使って、自分の作業や検討事項を垂れ流すとよいでしょう。


3.6 密室を避ける

特定の人しかアクセスできない場所で発生した情報は、全体に広がりにくく、透明性を阻害します。そのため、最初から次のような密室を避け、オープンな場所で作業をするようにしましょう。

  • DM(個人チャット)

  • プライベートチャネル

  • ミーティング

  • 頭の中

多くの企業では、DMやプライベートチャンネルの利用を非推奨としています。チーム全体への共有忘れ、相談する相手によって意見が異なることによる混乱、チームとしての合意形成の難しさ、問題点やより良いアイデアの発見の遅れ、裏技や社内政治をする人が増えるなど、理由は様々です。

仕事に関わることであれば、最初からオープンに伝える。いずれはチームで共有することになる情報であれば、最初から共有しておく。透明性とは、結果や結論だけでなく、そのプロセス、理由、背景も含みます

ミーティングは、メリットとデメリットがあり、扱いが非常に難しい手法です。複雑な議論にはテキストでは不十分で、会話が望ましいです。一方、報告や進捗の共有程度であれば、Wikiなどに書いて事前にURLを共有するだけでよいでしょう。会議をする場合は、アジェンダをオープンにし、議事録を書くなどして、会議に参加していない人でも内容を把握できるようにしましょう。

そして、頭の中は最も密室であり、透明性を保つのが最も難しい領域です。情報がオープンにできる形になっていなければ、オープンにできません。チーム内で誰が何を知っているかは重要ですが「あの人が知っている」「あの人の頭の中だと思う」といった状態に留めてはいけないのです。透明性とは、誰かを経由して情報を得られることではなく、誰でも自由にアクセスできることです。

したがって、自分の知識や思考を形にして、公開しておきましょう。誰かに質問されたときは、その答えと関連する知識を書き出し、誰でも好きなタイミングでその情報を得られるようにしましょう。「自分だけが知っている」という状態は、属人化のリスクです。何らかの理由でチームを抜けてしまってもいいように、「チームが知っている」状態をつくりましょう

3.7 プライベートな領域を明確にする

透明化についてよく言われるのが「他人に知られたくないプライベートな部分にまで踏み込んでこないか」ということです。この懸念を払拭するためには、プライベートな領域を明確にし、透明化の対象外であることを明示することが重要です。具体的に何を除外するかは様々な議論がありますが、少なくとも仕事に関係のない私生活の情報、業績評価、深刻な相談などは保護するようにしましょう。

透明性を仕事と意思決定に関連する事象に限定しましょう。プライベートな領域に十分配慮し、業務や意思決定に悪影響があった場合にのみ、さらなる透明性を確保するかどうかを検討しましょう。

3.8 適切な人を採用する

透明性を高めるには、正直さや誠実さ、倫理観が大切なので、正直で誠実な人を雇いましょう。これらは、技術的なスキルや問題解決能力などの能力よりも優先されます。嘘をついたり、ごまかしたり、誤った情報を伝えたりすることは、不確実性に取り組むチームでは重罪です。透明性のない人は、チームにとってのあらゆるリスクを増幅させる存在であり、最大の脅威です。

どんなに能力が低くても、透明性があれば、チームはフォローやアドバイスをしてくれますし、能力も徐々に向上していきます。一方、透明性に問題のあるメンバーは、課題を隠してしまうので、誰からもサポートを受けられず、あまり成長しません。たとえ能力が高くても、透明性の欠如は、情報の非対称性、認知の歪み、局所最適を助長するため、チームにとって有害です。

チームを作るときは、なるべく透明性の高い人を採用しましょう。アジャイルチームの平均人数は3~9人が良いと言われています。もし9人のチームで、1人だけ透明性が低ければ、チームが認識できたはずの情報の約11%を失ってしまいます。チームの人数が少なければ、影響はさらに深刻になります。したがって、適切な人材を採用することが非常に重要なのです。

4. さいごに


このnoteでは、透明性のWhat、Why、Howを紹介しました。透明性は、組織やチームがアジャイルであるための必須条件です。チームを生物にたとえると、透明性は神経系にあたります。透明性があれば、体の各部位からの信号が素早く脳に伝わり、複数の部位が連携して働くことができます。チームが同じ目標を共有し、課題や不確実性に効果的に対処するためには、透明性が必要なのです。

4.1 ルールよりも行動

透明性を確保するためには、多くのルールは必要ありません。「これをやってはいけない」「これをやらなければならない」と細かいルールを決めて、メンバーを縛っても、うまく浸透しません。透明性とは、メンバー全員が前提として持ち、メンバー全員で作り上げ、メンバー全員で共有する意識なのです。

もし透明性に欠ける行動を見聞きしたら、厳しく対処しなければなりません。そうしなければ、私たちは透明性をそれほど重視していないというメッセージを全体に発信することになります。もちろん、完璧にこなせる人はいません。大切なのは、それをしっかりやろうとすること。そして、できる限り透明性を高めるための行動をとることです。

リーダーは、「何を言うか」ではなく、「何をするか」でメンバーを導きます。たとえ完璧にできなくても、向上させる姿勢を示すことで、周囲に影響を与えることができるのです。もちろん、透明性の重要性や作り方を伝えることは大切ですが、実際に行動することの方がはるかに重要です。

もし、あなたの行動が透明性を損なうものであれば、周囲は「ああ、透明性って建前なのか。そんなに頑張らなくてもいいんだ。」と考えるでしょう。透明性は組織文化であり、箇条書きのルールで作り上げられるものではありません。一人一人がその重要性を感じ、そのために行動し続けることが必要です。

組織文化を創るのは、一人一人の行動です。正しい行動をとることで、周囲に刺激を与え、新しい仲間として引き込み、考え方や価値観を文化として定着させることができるのです。


4.2 透明性と誠実さ

良いチームは、高いレベルの透明性と説明責任を備えています。オープンなコミュニケーションは信頼を築き、チームワークを促進します。全員が自分の仕事について正直に話していれば、チームの方針、進捗状況、課題が一目瞭然になります

透明性を大事にしている人は、重要な情報を見つけると、共有せずにはいられません。なぜなら、独り占めすればするほど、チームの生産性が下がり、大きな問題が発生する危険性があるとわかっているからです。透明性を高めるということは、自分の正直さと誠実さを示すことです。チームの進捗、問題、懸念事項を共有することは、チームの正直さと誠実さを示すことなのです。


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