【徹底検証】「死のロード」の今
プロ野球が予定通りに開幕していれば、もう30試合ほどはこなしていることになるのだろうか。ゴールデンウイークを迎えてもなお各チームが無敗、マジック143の状態を保っているなど奇跡のようだ……いや、たとえ連敗していてもいいから、二度とこんな事態には遭いたくないが。
開幕して1ヶ月ともなれば各チーム明暗が分かれているものだ。特に広島など、かつてはよく(もしかしたら今でも?)「調子がいいのはこいのぼりの季節まで」なんて揶揄されていた。もはやそんなジンクスさえ懐かしく感じる。
今日はそんな球界のジンクスにまつわるお話。ズバリ、「『死のロード』は今でも存在するのか?」を検証したい。死のロードとは言うまでもなく、夏の甲子園のためにホームが使えず、阪神が遠征を繰り返し、その期間に調子を落とすことから名づけられた、虎党にとって忌まわしき現象。
だが、今やドーム球場も主流となり、「灼熱の甲子園よりもむしろ有利なのでは?」という声を聞いたり、若いファンがそもそも「死のロード」という言葉を知らなかったりもする。果して、阪神にとっては今でも「死のロード」は存在するのか、徹底検証してみた。
さっそく、ここ10年の、甲子園期間中の勝敗をまとめ……たいところだが、その前に、昔は本当に「死のロード」現象があったのかを軽く確かめよう。対象は、まだドーム球場ができる前の時代。
バース、掛布、岡田などの新ダイナマイト打線を擁し、優勝を果たしてカーネルおじさんが川に投げ込まれた1985年、甲子園は8月6日~21日の日程で行われた。その間、阪神はホーム・ビジター合わせて10試合を戦っているが、その成績は
4勝6敗(ホーム2勝、ビジター2勝6敗)
で、バックスクリーン3連発を実現するチームでもジンクスに苛まれていたことがわかる。2試合だけあったホームゲームは平和台球場(福岡県)での中日戦。残りは全てビジターゲームとなるが、後楽園で巨人に3タテされたのを皮ぎりに、広島、大洋(現・横浜DeNAベイスターズ)6連敗を記録。
行程も後楽園→広島→ハマスタと、まさに死のロードであった。
一応、近い時期で、弱かった頃の記録も載せておこう。この優勝のわずか2年後、1987年に阪神は一転最下位に落ちる。この年は8月8日~21日に甲子園が行われたが、この間に12試合が行われ、
4勝6敗2分(ホーム1勝1分、ビジター3勝6敗1分)
と、またしても負け越し。引分を挟んで4連敗を記録した。この年も2試合のホームゲームは平和台球場で、平和台→後楽園→ハマスタ→神宮→ナゴヤ球場と、関東以南の列島を縦断してUターンをかます強行日程だった。今ほど新幹線が速く、快適でなかった時代なのだからさぞ大変だっただろう。
とにかく、かつては「死のロード」はジンクスではなく本当にありえる現象だったとはいえるだろう。
さあ、そしてここからが本題だ。2010年代、直近10年間の成績を見てみよう。甲子園が行われている間の阪神の成績は、以下の通り。
もう、ぱっと見でわかる。全然、負けてはいない。むしろ勝ち越している。
「死のロード」期間中に負け越したのは2012年と2016年の2年のみ。ジャスト勝率5割が3度あり、なんと半分は勝ち越しているのだ。「死のロード」よ、おまえはもう死んでいる。高校生に?顔をされても文句は言えないのだよ。
とはいえ、なぜこんなことになったのかも気になる。たしかに昭和と比べ、新幹線はより速く、より快適になり、ホテルのホスピタリティも向上。何より、東京ドーム、名古屋ドーム、京セラなどのドーム球場が増え、プレー環境も良い。
だが、果たしてそれだけなのだろうか。これらは阪神だけでなく、他のチームも同じ条件のはず。
そこで、先ほどの甲子園期間中の戦績をもう少し詳しく見てみよう。
まずはドーム球場との因果関係を探るため、ホーム・ビジター問わず(注・現在、甲子園期間中の阪神は京セラドームでホームゲームを行うことが多い)、ドーム球場に限った勝敗をまとめたのが以下の表。
いかがだろう。たしかに善戦はしているし、年によっては2013年など勝率が6割を超えた場合もある。が、トータルで見ると実はやや負け越しているくらいなのだ。これでは先ほどの成績に貢献しているのかどうかも、少しあやしい。灼熱の甲子園を避けているから好都合、というわけではないようだ。
まあ、2013年以降は毎年勝率が5割以上だし、2012年の成績がひどすぎて足を引っ張っている可能性もあるのだが……。
そこで、もう1つの考え方を思いついた。シンプルにホームとビジターでわけてみよう。かつては平和台、今は京セラと場所を変えつつホームゲーム自体は行われているのだから、そこに発見があるかもしれない。
では、どうぞ!
さあ、ここからは頭の中で「チャンス襲来」を流しながら読みましょう。いや、書いているだけで勝手にリピートされる。
この圧倒的内弁慶。ホームの勝率、6割超え。ビジターでの苦戦を補ってあまりある、アットホーム、いや圧倒ホームな戦いぶり。ドームの冷房なんかじゃない。阪神の背中を押すのは、いつだって360°虎党応援なのだ!
見返せば、先ほどやり玉に挙げた85年や87年だって、数は少ないがホームでは無敗だったのだ。平和台だろうが、京セラだろうが、甲子園が使えなかろうが、そんなの関係ない。虎党が陣取れば、そこはまごうことなき甲子園球場、愛してやまないホームと化すのだ。
「死のロード」は、もはや死語だった。その語がだんだんと忘れ去られていくことは、一野球ファンとしてどこか寂しい気もする。だが、時代は変わり、阪神は変わった。サンダースを水没させて、自らかけた呪いも、ヒートアイランドもぶっ飛ばして、虎党は声を張り続け、甲子園を現出させるのである。
(参考:本当に京セラドームをホームにしているオリックスは2019年、ホームで32勝34敗5分だったようである。オリファン、頑張れ)
※表は全てnf3-Baseball Data House-(http://nf3.sakura.ne.jp/index.html )と日本プロ野球記録(http://2689web.com/ )を参考に筆者作成。